第18話 ミルクスープ (後編)


「へーぇ。しかし食べた事があってもそんな違いが分かるものとは思えないな。うーん、すごいね。

ねえ、マスタードは? 地球のいろんな国にそれぞれ存在するんでしょ?」


「そうだよ。実は私そんなに好きじゃなくてね。むしろ、ていうか日本のカラシは嫌いなの。そんで〈イギリス〉のはちょっと日本のに似ててこれも苦手だからすぐわかる。

アメリカのは味気あじけないし。

それがね、フランスのブルゴーニュのディジョン産のは違うんだよ! 外皮を取り除いてるんだったけかな? とにかくそんなからくなくてマイルドで酸味が良いのでこれだけは好き。粒マスタードもディジョン産は美味しくて確か白ワインに漬けてうんぬんとか。

ドイツのはしっかり辛かったり、辛味の少ないタイプは砂糖を加えてるのか辛くないと思わせて辛みがひそんでるっていうタイプでさ。

マスタードは私はディジョン産一択! クレールエタン組に賛成~」


 はっ!

 やばっ、一方的に喋り過ぎた。


「ご、ごめんなさい。ついめちゃくちゃ語っちゃった。

あの、まあ、つまりね、

私、舌にはちょっと自信があるの、ふふふふ」


「マジか! 驚いたぜ。そりゃ十分誇れる特技だ。

あ、俺はお代わりするがコニーももっと食うか?」


「ガスパール様の出身地方まで当ててくるとは……」


 お代わりを聞いてくれてるエタンさんのほうを向いている時に、反対のほうでクレールさんがぶつぶつなにか言っていたけど、独り言っぽいから聞き返してあげなくてもまあいっか。


「ううん、よそってくれたので満足。ありがとう」


もぐもぐ。

「ねえ、クレールさん。今日のスープはいつもこういうサラっとした仕上げ? それとももっとトロミがあるというか、ぽってり濃厚なシチューっぽいものだけど、今日は私の体調に合わせてこうしてくれたの?」


 「うん? ミルクスープはこういうものだよ。もっとトロミって?

そう言えば蛍様が『サラサラカレーも良いけど、もっと日本のカレーみたくドロっとしたのが食べたい!!』とときおり発しているのと同じ意味?」


「はは!そうなんだね。もしかすると蛍様に関して、無事を祈るだけじゃなくて少しはお役に立てる事もあるかも知れないな」


 ますます、いつかお会いしてお話ししたいな~と思った。

 あれ? 待てよ? 最初100年ごとのおヌル様って言わなかったっけ?

 蛍様って14年前って、クレールさんなんとか班でクレールさんの親戚の人と結婚したって……あれ?


 うーん……まぁ、話の腰を折らず、タイミングを見計らって聞いてみよう……。

 スープの話の続きを。


「日本人はスープのたぐいは大好きなんだよ。日本固有のものはもちろん、世界のいろんな味のスープも、こうも庶民にまで深く浸透してる国は珍しいかも知れない。

そんでそれがメイン料理として、ご飯やパンと一緒に絡ませて食べる時は小麦粉でトロミをつけるのが日本人好みだね。

特にミルクを使ったスープになると、こうサラッとしたタイプは日本人にほぼ馴染みがないかな。

とろりとした野菜のポタージュスープから、どろんとした〈ホワイトシチュー〉まで、多かれ少なかれどれも粘度があるなぁ。クレールさんが作ってくれたこのスープにグラタンのソースを入れたら日本の家庭でよく食べられてる〈ホワイトシチュー〉だよ。グラタンは知ってる?」


「グラタンは知ってるし食べるの大好きだよ。僕は作れないけど。グラタンのベシャメルソースをこのミルクスープに入れたものはこっちでは食べた事がないから興味ある」


「あ、ほんと? お鍋にスープが、わりと残ってたら材料あれば簡単に作り変えてあげれるけど?」


「え? そうなの? コニーはそんなことができるんだ。すごいね。でも手間じゃない?」


 もぐもぐ、首を横にふるふる。


「マジか。俺お代わりしなければ良かったか?」


「いや、夜ももう1回食べれるぐらいまとめて作ったから大丈夫じゃないか? コニー、食べ終わったら残り見てみてくれる?」


「うん、もう終わるよ。」


 くせでついつい食べるの早いんだよね。

ほら、接客の合間にパッとなんか食べないと食いっぱぐれてしまうから。

 それに相手が話してるのを聞きながら遠慮せずばくばく食べちゃうし。


「野郎同士で喰ってる早飯はやめしスピードについてこれる女性は初めて会った。コニーすげえ」


「それ褒めてないから。お恥ずかしいデス」


「僕こそ今日は話をするコニーに夢中で、手が止まってたせいか1番のろいな」


「それをいうなら『コニーの話に夢中』でしょ?

ぷふ、ちゃんと私のうるさいお喋り聞いてくれてありがとう。クレールさん文法間違うほど焦んないで、ゆっくりお食べ~」




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【第19話 シチューにリメイク (前編)】

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