クラスの女子全員に塩対応を取っている俺に彼女ができたと噂されると、クラスの美少女たちの様子がおかしくなった件

神月

第1話 女性恐怖症なだけだ!!

 クールで落ち着いていてかっこいいけどどこか素っ気ない神凪かんなぎくん。

 神凪というのは俺の苗字で、この言葉はもちろん俺が自分で考えた言葉ではなく、俺の知らない間に学校中に広がっていた言葉である。

 そんな噂をされている俺には、誰にも言えない秘密がある…それは。

 俺がなことだ。


「か、神凪くん、よかったら一緒にお昼ご飯でもどう……かな!」


華澄かすみ、頑張れ……!」


 昼休み、席に座っていると話しかけて来たのはこのクラスの中でもトップクラスに綺麗な七瀬ななせ華澄かすみさん。

 常に女子数人と行動していて、クラスの女子中心人物。

 女子同士では楽しそうに話しているが、あまり男子と仲良くしているイメージは無い…が、そんな七瀬さんは何故か俺には定期的に話しかけてくる。


「ごめん、今日お昼食べないから」


 席を立ち上がり、俺は気まずさから教室を出た。


「あ〜、流石神凪くん、こんなに可愛い華澄が話しかけてるのに一回も応じないなんて本当に男なのか疑っちゃうよね〜」


「そういうところも好きなんだけどね〜!」


「華澄ったら強がっちゃって〜、やっぱりあの噂って本当なのかな〜」


 教室を出て行った直後、俺に対してクールだという言葉が聞こえてきたが……

 廊下を歩きながら、俺は心の中で声を大にして叫ぶ。

 俺はただ!女性恐怖症なだけだ!!

 幼少期ので、俺は女性恐怖症になってしまった。

 そのきっかけというのが昔すぎて思い出せないが、とにかく俺は女性恐怖症……だから女子には軽く流すくらいの対応しかできないからそうしていたのに、いつの間にか変な言葉が広がって……はぁ。


「本当に疲れたな……この疲労度合いでまだ昼休みだなんて信じられない」


「そんな疲れてるなぎなぎには〜!私が後ろから抱きついて癒してあげよ〜!」


「ぐあっ……」


 後ろから強烈な衝撃にクッションなような柔らかさ…慌てて後ろを振り返ると、そこには同じクラスの紅葉もみじ有紗ありささんが居た。


「私が後ろから抱きついてあげる男の子なんて他に居ないよ〜?」


「は、離れてくれ」


 俺はすぐに紅葉さんのことを俺から話すと、まずは深呼吸をした。

 心臓が急速に鼓動を早めている、落ち着け、落ち着け。


「あははっ、どう〜?癒された〜?」


「余計に疲れた」


「あはははっ!面白〜い」


 何も面白いことなんて一つも無い。

 紅葉さんも俺のクラスの中で、七瀬さんと並ぶレベルに容姿が優れている人…学校の男子生徒からは小柄な身長とピンク色のツインテールの可愛さが人気なんだそうだ。

 そんな人から後ろから抱き付かれるなんてきっと他の男子生徒なら喜ぶところなんだろうが、俺からするとただただ恐怖でしかない、というか絶対に寿命が縮んだと思う。


「じゃあ紅葉さん、俺トイレ行くから」


「付いて行ってあげよっか?」


「本当に勘弁してくれ」


「冷たいの染みる〜!冗談だよ〜!バイバーイ」


 紅葉さんは俺に手を振ると、教室の方に戻って行った。

 ……俺がもし近々死ぬとしたら、あの人のせいかもしれない。

 なんて考えながら、特に行きたかった訳ではなかったが念の為男子トイレに向かい、男子トイレを出────


「神凪くん、少し良いかしら」


「え……」


 男子トイレを出た途端、高校二年生である俺の一つ上の先輩、高校三年生の東雲しののめ先輩から話しかけられた。


「はい……何ですか?」


 東雲先輩はこの学校の生徒会長で、かっこいい女性というフレーズと共に、男女共に人気がある人だ。

 確かにかっこよくてとても一つ上の人とは思えないが、それでも女性なので俺の女性恐怖症センサーはこの人も範囲内…だが、紅葉さんみたいに変なスキンシップをしてこないから、その点は紅葉さんよりも幾分かマシだと言える。


「トイレ前で話すのも何だから、君のことを教室に送りながら話すわ」


「あ、ありがとうございます」


 東雲先輩は宣言通り俺と一緒に俺の教室へと歩き始めた。

 廊下を歩いている最中、周りから視線を感じる。


「あれって、東雲先輩じゃない?二年生の教室歩いてるなんて珍し〜」


「いつ見ても綺麗でかっこいい人〜、あれ?隣に居るの神凪じゃない?」


「え、何で神凪と?」


 周りがざわつき始めた……早いところ東雲先輩に話を聞いてみよう。


「それで東雲先輩、話っていうのは?」


「そうね、どこから話そうかしら……単刀直入に聞くけど、あなた今お付き合いをしている女性は居るの?」


「え、えぇ!?」


 東雲先輩には似合わない話題が東雲先輩の口から出たところで、俺は驚きを隠せなかった。


「どうなの?」


「い、居るわけないじゃないですか」


 ただでさえ女性恐怖症なのに、彼女なんて冗談じゃない。


「そうよね……そんな風に見えないもの」


 ……事実だから別に良いけどなんか鼻につく言い方をされている気がする。


「……どうしていきなりそんなことを?」


「……あなたの耳にも届いているかもしれないけれど、今学校の至る所であなたに関する噂が広まりつつあるわ」


「噂……?」


「こんな噂が立ってしまうのも、あなたの日頃の女子生徒への態度が原因よ」


「え……?」


 俺の日頃の女子に対する態度が原因……?


「噂の内容は、女子生徒に塩対応な神凪くんは、彼女が居るんじゃないか、というものよ」


「彼女!?」


 今こうして東雲先輩と話しているだけで段々と心拍数が上がっている俺に彼女なんて居るわけがないのに…どうしてそんな噂が立ったんだ?

 その噂通り、俺は女子生徒と仲良くなんてしていないし、そもそもまともに喋ることだってほとんど無いのに。

 ……確かさっき東雲先輩は。


「俺の女子に対する態度が原因って言ってましたけど、どうして俺の女子に対する態度が原因なんですか?」


「あなたが、学校の人気者達からいくら話しかけられても全て味気ない対応で返すから、その理由として正当な彼女が居るから、というので皆解釈し始めたということよ」


 どうしてそんな面倒なことになっているんだ…


「……暗い顔をしているけれど、私は前から忠告していたわ、後々厄介なことになるかもしれないからもう少し女子生徒と友好な関係を築きなさいと、それなのにどうしてあなたは頑なに女子生徒と友好関係を築かないの?」


「……」


 東雲先輩にも、当然俺が女性恐怖症だということは伝えていない。

 女性恐怖症だということを知られると、もしかしたら色々と面倒なことが増えるかもしれないし、東雲先輩は心配無いとしても、他の誰かなら悪用されてしまうかもしれない…だから、このことは絶対に誰にもバレるわけにはいかない。

 ……そして次の日、朝からクラス中で俺の噂が騒がれていた。



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