第78話:束の間の対話
「えっと……これどういう状況?」
目を覚ますと、そこには割と理解できない光景が広がっていた。
皆が集まっているのは良いとして、なんで火雷までもが目の前にいるのだろうか? 覚えている限りの最後の記憶では火雷と戦っていた筈だし……なんか知らない雷神までもが倒れてるしで――本当に何これ?
「あ、起きたな人間――ほら続きやるぞ」
「ごめんちょっと待って本当に説明してくれ、これどういう状況?」
「――うちの馬鹿な妹が横槍入れたからな、流石にそれはちげぇだろって事でお前の事を治させた」
「なんだだよ、そんな義理ないだろ」
「だってつまらねぇだろ?」
言えばすぐに反論なのかそんな言葉が返された。
……確かにこいつが戦闘狂であり武人気質なのは知っているが、原作で語られた上にやりまくった所業を考えると割と今の言葉が信じられない。
「なんだその顔、すっげぇ複雑そうで笑えるな!」
「……なんだこいつ」
「火雷だが?」
「そういうじゃなくってさ……なんかもういいや」
なんだろう。
本当になんなんだろうか? ……やりづらいというか、予想してなかったっていうか? こんな姿知らないというか――なんというか悪人には思えない。
こいつが散々狩り人や人間を殺したことは知ってるし、なんならケモノ勢力の最強格なのも分かってる――だけどなんか毒気が抜かれるというか……。
「……火雷、貴方なにか変わった?」
中にいる神綺でさえも彼の態度に違和感を覚えたのか俺から出てきてそう聞いた。
「あ゛? 俺は変わらねぇよ、それよりお前も無事だったのか神綺」
「少し驚いたけど取り込んだわ……それより、まだ戦うつもりなの?」
「そりゃそうだろ、あんなに楽しい戦いをこんな形で終わらせるなんて最悪だ」
「……楽しい? そんなふざけた理由で刃を襲ったのか?」
今までずっと警戒し、皆を守るようにしていた父さんが火雷の考えを聞いて明らかな敵意を持ってそう言った。それどころか、父さんの後ろにいる皆でさえも火雷を睨んでいる。
「お前は……そいつの親か。そうだぞ、神綺を宿した人間なんて気にならないわけないだろ?」
だが、ここにいる全員からの殺気を受けても彼は一切動じず素知らぬ顔で笑ってこう続けた。
「それに、そいつは俺と戦える人間だ。まぁそれに関したはお前もそうだが……資格がねぇ――お前は英雄たり得ない」
「……やってみなきゃ分からないだろ、化け物」
「おっやるか? でもその前にそこのガキと戦わせてくれよ」
一触即発の空気、父さんは完全にやる気だし――火雷もやろうと思えば応じる気でいるようだ。普通に考えればあれだけダメージを負わせたこいつには皆で戦って祓った方が良い。それに俺が回復したとはいえ、まだ余裕を残してるだろう父さんに任せた方が可能性が上がるんだが……。
「なぁ火雷、もう百獣夜行のケモノはいないよな?」
島中をという感知は流石に無理だが、俺の感知範囲には一切のケモノの気配がない。それに皆がここにいるってことはケモノはもういないだろうし、残っているのはそこに倒れている雷神と火雷だけの筈だ。
「あぁ全部祓われたし、増やすための竜も討たれた。まぁ割と絶望的な状況だな。でもあれだぞガキ、俺は退かねぇぞ?」
「はぁ、分かってたけど無理か。なぁ聞かせてくれ、どうして俺との戦いにこだわるんだ?」
「そんなの楽しかったからだ。俺を殺せるかもしれない奴を何千年も待ったんだ――それなのに退けなんてつまらないだろ」
「薄々思ってたけどさ、あんた馬鹿だろ」
「馬鹿って酷いな――あ、そうだ妹こと頼んだ常世に俺等を送る術があるんだろ? それ使ってくれよ」
「ほんと馬鹿だろあんた……」
「くははっ――俺に借りあるしそんぐらい頼むぞ? それに神綺と契約した人間に言われたくねぇよ」
今の言葉で神綺が何かをいいたげだが、流石に空気を呼んで黙ってくれたようだ。
……こいつの本心は分からない。
楽しいってのも本音だろうが、きっと何かを隠しているのは分かる。それに散々戦ってこいつが真っ直ぐなのは知った。だってそうじゃなきゃ俺を治療させないし。
――それに助けられたわけだし、こいつには借りがあるってことになる。
「なぁ皆ごめん、俺の我が儘に付き合ってくれ」
「――おい刃、何する気だ?」
「本当にごめん父さん。でも俺さ……こいつと決着つけたいんだ」
こいつは本来の刃にとっての因縁の相手。
俺だってあった瞬間にボコボコにされたし、こいつのせいで死にかけた。文句を言えば言い足りないし、何より皆が危険な目に遭ったのってこいつが原因。
だけど……こいつにも何かがあるというのなら、俺はそれを知りたい。
「――決着は沼島、最後の戦いだ火雷。巴、こいつを治せるか?」
「いらねぇよ――というか早速いくぞ、時間がねぇ」
その時の表情は今まで見た彼の表情とは違い深刻なモノだった。
理由を聞いておきたいが、彼が嘘をつく性格ではないと分かっているので俺はその言葉を信じることにしたのだが……なんか彼に急に抱えられた。
「……は?」
「こっちのほうが速いだろ?」
そして、一瞬の浮遊感を感じて俺は気づけば完全に封鎖された沼島に立っており、火雷と向かい合っていた。
「じゃ――最後だ。存分に死合おうか、人間」
「分かっただけどさ、その人間っていうのは止めてくれ――俺は刃だ。十六夜刃って名前があるから――っとやるまえにさ、折々と巡れ――来い四季」
呼び出すのは二振りの刀、夏と冬の四季を呼べば――一瞬にして沼島の大地が凍り付き、島全体を氷が覆った。
「なんのつもりだ?」
「――皆には邪魔してほしくないからさ、それに皆がいたら巻き込んじゃうし」
「そうか――ほんと、あいつに似てるなお前」
「あいつって?」
「いや、なんでも――さぁ刃、遊ぼうぜ? 全身全霊を駆けた――最後の死合をしようか!」
その瞬間、沼島の空を覆うように雷雲が発生し雷が轟いた。
……あぁ、こいつは本気だ。なら俺も、全部使って勝つしかない。
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