第79話:終氷

 ――冷気を束ねる。

 狙いを定めて術を使えば、氷の柱が現れて火雷を襲った。

 それは一瞬で雷によって破壊され――俺の元まで迫ったが、俺の纏う冷気を破れず辿り着く前に完全に凍った。


「それはもう届かねぇ!」


 意識する事は変わらない。

 相手の攻撃を防ぎながら攻撃をする。そのために術を絶え間なく使い、隙を一切与えない事だ。

 思考を回せ、術を練り続けろ――氷界を維持して一瞬たりとも気を抜くな! 


「火力勝負だ刃、耐えろよ? ――炎滅烈火槍えんめつれっかそう!」


 熱気を感じたと思った瞬間のこと、俺の纏い用意していた冷気が全て消えた。

 あいつの手の中に炎の槍が生み出され、それが俺へと迫ってくる。受ければ即死――本能でそう悟り、防御手段を探すが……間に合わない。


『まったく仕方ない奴だ、刃』


 その瞬間のことだった。

 ――かつて倒した龍神の声を聞いたのは。


『カグツチ様の力を貴様が扱うなんてな。この奇妙なえにし、存分に借りてやろう――灼尽刀火産霊しゃくじんとうほむすび


 左手に持っていた四季が滾り出す。

 義手から何かの鼓動が聞こえて――炎が迸り、雷神が放った炎槍の術という概念そのものを灼き消した。

 その一撃は俺の霊力の大半を持って行ったが、それのおかげで俺は生き延び――相手に致命傷を与えた――だから俺は、この瞬間を逃さない。

 

「――ッこの一撃が最後だ火雷ほのいかずち


 それを聞きケモノがいや――王が笑う。

 日本に巣くうケモノの元凶、伊弉冉の配下であるケモノ達の王の一人が。

 

「くはっ面白い! つまりは俺を倒すって事だよな?」

「そうだ。そして、これはお前への言葉。力比べだ……全力で行こうぜ?」

「乗るギリはねぇ――でもな、それに乗らなきゃ俺じゃねぇよな!」


 相手がより今の姿を捨てて、ケモノの姿へと変わった。

 最早それはケモノと言うより焔を纏う雷そのものだ――直感で分かった。火雷にとっての最恐の一撃が来ることが、だから俺は……。


「……冬の陣、銀嶺氷界無間大紅蓮――――改メ」


 そこで俺は言葉を止めた。

 今から使うのは全霊力を込めて生まれる刹那の世界。

維持なんか考えるな、ただ勝つための一瞬を――そして、こいつを殺すためには今の俺では足りないからこそ、この数秒で進化しろ。

 あれは刃の世界だ。だからそれを作るんじゃない――俺がやるべきなのは!


「ここがお前の終幕だ」


 氷の世界を一撃に束ねて、どんなものよりも速く何より鋭く――王の一角を祓う。

 相手もそれは分かっているだろう。これが俺の全てだって。

 またねと誓った。皆と再会するって言ったんだ――だから死ねない、だから帰らないといけない。


終氷ついひょう――凍尽無窮とうじんむきゅうぅ!」

終雷ついらい――禍津炎雷鳴まがつえんらいめい!」


 残った全てを銀の世界を全て圧縮して、一瞬だけに命を賭ける。

 相手は雷だ。だからそれより迅く刹那の技を。光りすら凌駕する須臾の一撃を!


「はっ、俺の負けだ――天晴れだよ」


 ――最後に聞こえたのはそんな声。それが聞こえ雷雲と共に相手を斬り裂いたとき、俺の意識は何処かに消えた。

 

――――――

――――

――


「こりゃ凄いねぇ、大地全てが凍ってるよ――これをやったのは化物かい?」

「首領、俺の術で見てましたよね。あれでも一応人間ですって。正直信じられねぇっすけど」


 氷河だけが広がる沼島の大地に何もない空間から現れる三人の男達。眼帯に着物のおじさん、Tシャツを着たチャラ男、仏頂面した軍服男とあまりにもバラエティに富んだ面々の彼等は氷に触れないように注意しながらも奥へと進む。


「っとちょっと触れちゃったよ、これ本当に凄いね」


 眼帯の男が面白半分で一瞬だけ氷に触れたのだが、その瞬間に肩程まで凍ってしまう。すぐに腕を振って解除したがその凍力は異常であり、二人の戦いが終わったのにも関わらずこの戦場に爪痕を残していた。

 

「見つけたぞ、件の子供だ」

「完全に凍り付いてるね。まあ、あれだけの術を放った反動って考えると当然だけど、どう持って帰ろうか?」


 彼等が辿り着いた先には技を放った状態で氷塊となっている刃がいる。

 四季を振り抜き居合いを終えた体勢で凍る彼の周囲には異常なまでの霊力が渦巻いていた。眼帯の男が試しに持っていた杖をそこに当たれば杖の先端が一瞬にして凍り付く。


「俺の転移術に放り込みます?」

「いや止めといた方がいいよ。これ霊力そのものを凍らせるから入れた瞬間に九郎君暫くは術使えなくなるね」

「じゃあどうするんです? ――はやく持って帰らないと来ますよ暦の奴ら」

「だよねぇ――というわけでよろしく災牙君」

「任された。強引に運ぼう」


 ずんずんと刃の傍に近付く災牙と呼ばれた男は霊力の影響を無視して刃を担ぎ、空間に開けられた穴に入っていく。


「流石災牙さんっすね。とりあえず任務完了でいいすか?」

「そうだねぇ、見つかる前に帰ろっか――さぁ四季は手に入ったよ、これで僕らも表舞台に立てるね」


 ――それを最後にその男達は消え、その場は静寂に包まれる。

 そして――その場に暦の者達が到着したのは全てが終わった後だった。



[あとがき]

 五章&一部終わりぃ!

 長かった過去一番長い章だった。正直書き切れると思ってなかったし達成感がヤバイです。次回から弐部が始まり六章になります。

 一年ほどかかりましたが本当にありがとうございます。これからも不定期にはなりますが、更新を続けていきますのでどうかお付き合いください。

 そしてここまで読んでくださった皆様の中で☆やフォローをしてないという方どうか星やフォローをお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る