第76話:VS炎雷大神
全方位からくる雷と炎の攻撃、俺の間合いに入る瞬間までに霊力を練り――瞬時に凍らせる。夏の四季を受け入れたことで増えた莫大な霊力、それら全てを使って俺は火雷と対峙する。
――雷が走り、炎が迸る。
後方、上方、前方――それどころか下方から彼の雷神の攻撃が迫ってくるが――今の俺にはそれは届かない。
想像しろ……俺の術が全てを凍らせるその未来を。
凍る。
――凍る。
そして凍り砕けた雷の一つ一つの破片にすら意識を回し、霊力を奔らせてまだ使われたばかりの炎すら凍らせた。
「触れてすらいねぇだろ!」
「それが今の俺だ――絶望」
「はっ最高じゃねーか!」
迫るは百を超える雷の群れ。
飛行するあいつは無限に近しい射程で攻撃をしてくる。
届かせるには――俺の今までの全てを使うしかない。
「氷界――来い白雪」
空を駆けるために凍りの足場を使いながらも俺は何度もせめて、遂に創った白雪で攻撃することに成功した。
そしてその瞬間、千を超える刀の群れが現れてその全てが炎雷に牙を向く。
「ほんっと、化け物みたな霊力量だな!」
「これで死ぬなよ? まだまだ俺には残ってる。氷槍雨――斬時雨」
空中に霊力で雲を作り出してそこから氷の槍を降らす。
相手がほぼ無限の射程で攻撃をしてくるのなら俺はそれを真似ればいい。
上から下から休まず攻撃をつづけろ、少しでも攻撃の手を緩めるな!
「――あぁ、こんな戦いを三百年待ったぞ?」
言葉は短く、そして空気が変わる。
相手の姿が変質し始めたのだ。角が生えた黒い雷が迸り鎧を纏ったような姿へと変わった。天逆鉾と呼ばれる神槍が主の変化に応じるように巨大になり、あいつの背中の太鼓が回転を始めて火雷の中に消えた。
本来の予定は三十分の時間稼ぎ、三十分が経ちその瞬間に常世還しが発動する手はずで相手を倒す必要はない。だけど、これは駄目だ。
あまりにも強すぎる。
ビリビリと――圧を感じる。
膨れ上がった神威が俺の体を竦ませる。
――あぁ、ここからが本番だ。命が幾つあっても足りないだろう、回復能力なんて持ってない俺からすると一撃でも致命傷を喰らえば負けてしまう。
霊力を回せ――限界まで、いや限界以上に強化しろ。
「さぁ、もっと遊ぼうぜ――人間?」
――黒雷が奔る。
槍が迫る――炎が蠢き、俺を喰らわんと脈動する。
それらは獲物を捕食する蟲のように、変則的な軌道で俺へと迫り――。
「ッぅ――」
掠った。
ただそれだけなのに、魂そのものが焼かれるようなあの四季の試練と同じ感覚を味わった。これは不味い、直撃したら死ぬ。
元より分かっていた事だけど、本当に終わってる理不尽さ。
接敵、打ち合い。
傷つけ治され――何度も何度も槍と刀をぶつけ合う。
地獄のようだ。息つく暇もなく、一手ミスれば命が終わる。未来の――本来の刃が経験しただろう絶望が俺を襲う。
状況が違う、課程も軌跡も何もかも――でも彼は刃は、この絶望に打ち勝った。
年齢が違うから経験が違うからなんて言ってられない。俺は原作の刃からは外れた存在だ。才は同じだが覚悟は違うし、思考も能力も何もかも全部違う。
でも帰るって、皆で戻るって約束したのだから――。
「折々と巡れ夏の陣――起きろ
そして覚悟を再度決めて、呼ぶなと言われたもう一振りの四季を俺は呼んだ。
――
――――
――――――
伊弉諾神宮の境内にて、撫子と神虎は倒される自然に帰る筈の瘴気を集めて全てを霊力に変換しながら転移陣の起動を早めていた。
暦の活躍故に倒される速度は想定以上、だから順調なはずである筈なのに――二人のその表情は曇っている。
「ッ何故だ、ケモノは倒されてる筈だ――なのに、何故霊力が集まらない!」
「それは私が説明しようか人間」
境内を異常な神威が支配する。
現れたのは桃色の髪をした太鼓を背に置く女性。先ほどまで何もなかった場所に現れたそれはこの場全てを威圧している。
「……何者だい? 私の創った結界はそう簡単に敵を逃がさないはずだよ」
「私は伏雷、八雷神の末っ子だ。主に隠密と暗殺を得意としている神だな。それと安心しろ、結界の練度はよかったぞ、だから少し気合いを入れる必要があった」
「……それは嬉しいね。で、どうして霊力が集まらないんだい?」
「若雷姉様の仕業だな、霊力の変換先を変えたといっていた。だが安心しろ、姉様は褒めていたぞ、人間があそこまでの練度の術を創るなど初めてだってな」
「――褒めるついでに術を返してほしいんだけど駄目かな?」
「駄目だ――どのみち、貴様等はここで殺すから関係がないだろう」
それだけ言った伏雷は二振りの短刀を取り出して、天才二人に雷を落とした。
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