四章:入学天原学園

第42話:再び出雲大社へ

 ゆっくりと休息を取った二日後、俺と卯月家一行は再び島根県の出雲大社に向かっていた。要件としては十中八九大地の龍神である穣涼の件だろうし、華蓮を連れてこいという時点で確定だろう。

 まだ誰にも話していない華蓮の事を知ってる事についてツッコみたいが、そこは九曜様だし……って事で既に割り切ってる。

 何を話されるかは分からないが、厄介事であろう事は確かだしまだついてない段階で胃が痛かった。


「とうさまとうさま! 速いです景色が変わってます!」

「車だもんなー」

「空飛ぶ感覚とは違うのですね、楽しいです!」 

「それはよかったな」

 

 無邪気にはしゃぐ華蓮を見ながら、なんかもう受け入れている自分に驚いた。

 なんというか憎めないし、無下に扱うことも違う。だからか自然とこういう関係に落ち着いたんだが、意外と慕われる事は悪くなかった。


「……? とうさま、何故わたしを見て笑うのですか?」

「いやちょっとな」

 

 彼女を見ていると半月は会っていない剣の事を思い出す。

 妹は何をしているのだろうか? 家の事は父さん達がいるし何より孤蝶に任せているから心配していないが、普通に暫く会ってないのは兄として心配だ。


「っと見えてきたな出雲大社。着いたぞ?」

「……っん、もう着いたの? 意外と速いわね」

「かあさま、おはようです!」

「ふふ、おはよう華蓮。車はどうだったかしら?」

「楽しかったです!」


 龍華を起こせばすぐに起きてくれて、そんな彼女に華蓮が声はかけた。

 二人のやり取りを見ながらな仲良いなと思いつつ、俺は少しぶりの出雲大社を見渡した。

 ……改めて思うが、やっぱり広すぎる。

 宮殿って言った方がいいような外観、働く霊の巫女さん達。 

 神社って何だろうか? そんな感想を抱ける前世とは異なりすぎる出雲大社。

 そんな神社(宮殿)みたいな場所をみた華蓮はあまりに大きさに圧倒されているみたいだ。


「――すごく大きいですね、とうさま」

「でかいよな、いや……ほんとまじで」


 そんな事を華蓮と話してから階段を上りきり、息を整えて本殿へ。

 相変わらずの豪華な部屋が並ぶ廊下を抜けて前と同じ一室に入れば、そこには前にここであった濃いメン御三家に父さんを加えた四人、そして知ってはいるが初めて見る人は二人居た。

 確か……辰と未の一族だから、皐月と葉月の家の人だよな? この二つの家の子供もかなり濃かった覚えがあるが親はよく知らないんだよな。

 それで奥には相変わらずの九曜様がいて、前と同じように笑ってる。


「よく来たわね、待ってたわよ?」


 用意されていた席に座れば、そんな一言で始まる会議。

 議題がまだ発表されてないからか緊迫している空気が場を支配していて、俺が呼ばれたことで大体察しているだろう父さんが頭痛そうにしているのが印象的だった。


「というわけで皆、穣涼――大地の龍神が死んだわ」


 開幕一言、爆弾発言から入る九曜様。

 その言葉で皆が驚いているようだが、特に龍と関わりがあるだろう皐月家の当主っぽい人がめっちゃ驚いてた。

 そしてそれどころか、手を上げてこう言う。


「九曜様、発言の許可を」

「いいわよあまね、何かしら?」

「――何故穣涼様が亡くなられたのでしょうか? かの龍神が、けものに討たれるとは考え難く、寿命まであと二十年はあったはずです」

「それはね、そこにいる刃が討ったのよ」


 爆弾発言の二つ目はそれ、今の一言で俺へと注目が集まり思わずビックリしてしまった。御三家の反応はこいつまじか? みたいな物で父さんの反応は……お前何やってんだよって感じ。


「失礼ですが、その子供が?」

「えぇ、視ていたけれど凄かったわ」

 

 そういえば九曜様は千里眼を持ってたんだっけ?

 メインの能力に隠れがちだけど、それ一つでも馬鹿みたいな能力だよな。

 ……ってそうじゃなくて、あの戦いが見られてたのか?


「という事は、そこの少女は――」

「えぇ、穣涼の転生体ね」


 しかも隠したかったことをすぐに暴露しやがった九曜様……で、そんな事を言われれば華蓮に注目が集まるのはわかりきったことで、急に多数の視線に当てられた彼女が少し怯えている。


「……なあ俺も喋って良いか?」

「いいわよ昴、どうしたの?」

「その子から刃の霊力を感じるんだが、何があったか聞いて良いか逢魔? しかも龍華ちゃんの霊力も混ざってるんだが……」

「やっぱりそこ分かるんだなお前。話せば長くなるんだが」


 そこで逢魔さんから今回何があったが説明され、父さんは凄く複雑そうな顔をした。父さん的に見れば、預けていた幼い息子が半月で孫作ってきたという意味不明な状況だしそういう顔をするのも分かる。


「経緯は理解出来ましたが、俄には信じられません。本当にその子供が穣涼様を」

「それは仕方ないわね、交流会に周はいなかったもの――あの交流会で刃の力を見た三人も完全には信じてないでしょう? だから私の力で何があったかを見せるわでも、龍の子達は彼女は別室に移すわね――九曜曼荼羅……水星・ブダの水鏡そして土星・シャニの弓」


 九曜が歌うようにそう告げれば、華蓮が龍華と共に別室に移され続いて、空中に水が集まりそれにあの時の戦いの様子が映される。

 前半の大地の力と戦う時は別に見られても良かったが、正直後半はみられたくない。だけど、この状況で止めることは無理だろう。

 

「これは――」


 一人誰かが声を漏らした。

 多分、それほどまでに今目に映る光景が信じられなかったんだろう。

 だけど、九曜様の力を知ってる彼等からすれば信じるしかないもので……。


「まさかこれほどまでの力が……」

「……あの時以上ですね。それより何故四季がこの子の手に?」


 しかも映像が見られるって事は、俺が四季を使っているのもバレるわけで……あぁ俺の隠し事がどんどん暴かれていく。

 これ父さんから後で質問攻めコースだぁ……とか若干現実逃避を始める俺を他所に映像は続いていき、遂に龍神が岩漿形態に移動した。


「――なあ刃、その腕……」


 父さんが俺の腕を見ながらそう呟いた。

 穣涼に貰った義手は完全に腕にしか見えない、だから今まで気にしてなかっただろうが、腕を失った映像のせいで父さんは俺の今の状況を知ったのだろう。

 視るという事に特化した力を持つ父さんに隠し事は出来ないと思っていたが、こうも早くバレるのは想定外。それどころか、これに関しては逢魔さんも知らなかった事だし、かなり気まずかった。

 映像が終わる頃の空気は割と最悪で、父さんと逢魔さんはお通夜状態。

 そのほかの人も引いているというか、子供である俺が隻腕だと言うことを知ってかかなり堪えてるっぽい。

 だけど、そんな空気は九曜様からすると関係ない。

 彼女は水星の力を解除してこう言い放ったのだ。


「これで大体は理解出来たわね、じゃあそろそろ本題に入りましょうか」

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