第21話:外出

 窓から外を見れば、様々な建物が見える。 

 主に建てられるのはビルであり、かなり都会と言っていい外観だ。普通に人が生活しているが、前世のように多くなく、それはきっとケモノの脅威故だろう。


「…………これが外か」

「確か刃は樹海の中しか出たことないのよね」

「そうだな。生まれたばかりの時に一回十六夜家の本家に行ったことがあるらしいが、覚えてないし殆ど初めてだ」


 一応覚えてはいるが、流石に0歳の時の記憶を完璧に覚えてたら変に思われるからそう言った。


「それにしても急に着いて来いってなんだよ、何の用で外に行くんだ?」

「そうね、強いて言うなら顔合わせかしら?」

「誰とだ?」

「それは着いてからのお楽しみね、それまでお話ししましょう?」


 逢魔さんが運転し、助手席には父さんがいる。 

 そんな車に揺られながら俺は龍華の隣に座り何処かに運ばれていた。

 父さんの談では目的地まで約半日はかかるらしく、まじで何処に向かっているか分からない。車での移動だし、何より俺が地理にあまり詳しくないのもあるがそれ以外何も聞かされてないしで何の用事なのか一切分からない。

 あと単純に既に座ってから八時間ぐらい経過しててマジで疲れてきた。

 寝てても良いかと思ったが、横に龍華がいるから何されるか分からないしであんまり気軽に寝れない。


「剣は留守番だし、なんで俺だけ……」

「だって本当なら私だけでよかった用事なの。でも今は契約があるじゃない? 離れたら何が起こるか分からないし仕方ないでしょう?」

「……誰のせいだよマジで」

「私よ?」

「自覚があるようで何よりだよお姫様」


 そしてそれから更に一時間車の中で過ごした俺は、気付けば海が見える場所にやってきていた。遠くには巨大な神社? があり、それは前世でも見覚えがある場所だ。

 そこにあったモノの名は出雲大社。

 【けもの唄】の世界でかなり大きな意味を持つ場所であり、一つのテーマパークぐらいの広さを持つやべぇ場所。神社……いや、最早宮殿と言っていいそこには暦の一族を統べる神無月の一族が住んでいる。


「でっか……いや、デカすぎるだろ」

「まぁそういう場所だもの、とにかく出雲大社って場所よここは」

「…………ここに入るのか?」

「えぇそうね」

「……まじか」


 車で鳥居の前に着いて降りた俺は、改めて見る出雲大社にドン引きした。

 長すぎる石段、そして本来なら狛犬の像が置いてあろう場所には黒と白の二対の龍。遠くを見れば本殿があり、まさに原作通りの外観なのだが……感動より先にこの先に待っている一族の面倒くささに気が重くなる。

 

「……入って良いのか本当に」

「私の付き人だもの入って良いに決まってるでしょう?」

「その役職今すぐ返上してぇ」


 そもそも契約なのに同意してないし、本当に思うが自分が不憫でならない。

 あまりにも気が重くて胃がキリキリしてきて辛いが、ここまで来た以上帰れるわけがないので俺は気を引き締めて父さん達のあとを着いていく。


「今回来るのは何処だ逢魔?」

「あー今回は、丑と巳それに亥――つまりは如月と水無月あとは極月だな」


 ……出てきた三つの家。

 【けもの唄】の中で特に濃い御三家の名前。

 如月はまだ刺激しなければまともな子で、水無月は龍華と並ぶ重さを持っており、極月は筋肉馬鹿の男。思い出してしまった三つの家のメインキャラ達に会うかも知れないという事で更に階段を上る足が重くなった。


「にしても水無月が来るのかぁ……会いたくねぇ」

「諦めろ凜を娶った宿命だ」

「まじで気が重くなってきた」


 そういえば母さん旧姓は水無月らしく元暦の一族らしいが、なんかあるのだろうか? この様子の父さんは多分答えないだろうし、ちょっと気になったので帰ったら母さんに聞いてみよう。

  

「そうだ刃、出来れば他の子と仲良くしてくれよ? 絶対に喧嘩とかするな。あとはあまり霊力を使うな」

「何だと思ってるんだよ父さん……」


 そんな誰彼構わず戦う奴じゃないんだが俺は……そんな奴は龍華だけで十分である。


「仕方ないだろ、お前結構やんちゃだし」

「……本当に何だと思われてるんだよ」

「……黙秘権で」

「悪い意味なのは分かったぞ父さん」


 ……ちょっと何か言いたくなったが、それは飲み込んで俺はメインキャラである彼女らの事を思い返し――なんかどんどん気が重くなっていった。

 メインキャラに会うというのにどうしてこんなに気が重いのだろうか? ……そんな事を疑問に思ってしまったが、これも全員キャラが濃いのが悪い。


「疲れた……階段多過ぎだろ」

「階段だけの疲れじゃないように見えるけど……」


 上り終わってからそう言う勘が鋭い龍華。そんな彼女に無言を貫いた俺は入り口で待っていた黒服の人に着いていき、本殿の中に足を運んだ。

 中も広く多分目的の場所であろうとこまで時間があるだろうし、少し周りを見渡しながら歩いていると、なんか半透明の人が多いことに気付いた。


「……なんだあの人達?」

「巫女の霊ね、ここで働いているのよ」

「幽霊かぁ、凄いなここ」


 幽霊が働く神社……なんか不思議だがそういうモノだろうから、何も考えないようにする。どういう理由で働いているかは気になるが、それほど気にするモノではないだろう。


「神無月の当主様と三家の方々がお待ちです。どうぞお入りください」


 そうして部屋の前に案内されて俺は、暦の一族の四家と対面する事になった。

 原作で知ってるが、子供の頃はどういう子達だったんだろうか? そんな事を楽しみ半分、原作通りだったら濃い子達なんだろうなと思いつつ俺は足を踏み入れた。

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