第20話:妹と式神と
「勝利条件は一発攻撃を当てるか、負けを認めさせたら勝ちって事でいいか?」
「構いません」
妹の木刀が俺目掛けて振り下ろされたので、それを受け流す。
容赦なく頭に打ち込まれたその事実にそれほど鬱憤が溜まってたのかと少し怖かった。
「むぅ――防がれました」
「休むとやられるから動いて剣」
「それもそうですね。まだまだ行きます」
連携しながらの絶え間ない攻撃。
二人して訓練してたのかと聞きたくなる程には洗練されており、完全に息がぴったりだ。兄としても孤蝶の主としても二人の成長は嬉しいが……それが鬱憤を晴らす為というのは少し複雑だ。
「奇襲する合わせて」
「――了解です」
瞬間孤蝶の姿がかき消える。
蝶に戻り今言った通り奇襲を仕掛ける気だろう。分かっていてもあの急に現れるのは対処は難しく、今までの俺だったら確実に攻撃されているだろう。
そう、今までの俺だったのなら。
剣が懐に潜り横振りの一撃を、空中に現れた孤蝶が刀を完全に同タイミングで振り下ろしてくるが――俺は冷気を操り密度をあげる事でそれを防ぎきった。
「ッなんで?」
孤蝶が驚いたようにそう言った。
剣も声には出せなかったようだが、驚いたのが表情に表れていてかなり分かりやすい。少しの間、解説待ちみたいな雰囲気が流れたので俺は攻撃を仕掛けながら解説する。
「最近な、冷気を前より操れるようになったんだ。こんな風にな」
少し冷気の密度をあげてさっきとは違い見える範囲の冷気の壁を見せる。
今までだったら正確な形を持たせる必要があったのだが、龍華と戦い続けた事でこんな風に形を持たせなくても冷気を操れるようになったのだ。
離れすぎると操れないが、ある程度の距離ならまじで自在になってきた。
「剣、あれやる」
「――そうですね、やりましょう。このままじゃ悔しいです」
あれ……とは何のことだろうか?
妹達が何するか気になったので少し待ってみれば、孤蝶がまた姿を消して剣が持ってる木刀に瑠璃色の蝶が集まった。
よく見れば剣の片目は瑠璃色に染まっており、霊力が増したように感じる。
――そして。
「一気に行きます」
妹の動きが、見るからに変わった。
単純に速度が増したのだそれに受けてみれば力も増しているのか一撃がかなり重い。七歳の少女とは思えないほどの膂力に少し怯みながらも俺も霊力を上げる。単純に負けたくないし、彼女たちがどこまでやれるか見たいからだ。
今この空間にはより周囲に冷気が漂い、互いに白い息を吐くほどには今この空間は寒くなっているだろう。
「何したんだ?」
「孤蝶の力を借りました」
「どうやったんだよ教えてくれ」
「ぎゅんとやって引き出す感じです」
「……何もわからねぇ、けど見たことあるな」
「……?」
ぼそりと呟いたその一言に不思議そうな表情を浮かべた。
この技……というか術は確か、モノに宿る霊の力を自分に宿して更に引き出すといった技。大方、妖怪や霊に近い彼女を木刀に宿らせその力を借りてる感じだろうな。
流石感覚派の天才。未来で使うだろう技をもう覚えてるとは驚きだ。
面白いな、龍華と戦うのとは違う楽しさがある。
「父さんには見せたのか?」
「いえ、絶対兄様に見せたかったので誰にもです!」
「それは嬉しいな……せっかくの新技だ。簡単にやられるなよ?」
妹の成長、孤蝶の成長。
その両方に喜びながらも何度も刀を交わす。
打ち合って受け流して戦いを楽しむことにした。急に仕掛けられたこの戦い、今までも似たような事があったが一番楽しいかしれない。
主人公である彼女の、妹の成長を見れるという点で凄く。
「瑠璃蝶――
剣がそう告げると木刀の刀身が消えた。
蝶に変わり、完全に見えなくなったのだ――そして次の瞬間、幾つもの蝶が四方から襲いかかってきた。
炎を纏う蝶の群れ、防ぐのは相性が悪くこのまま確実に被弾する。
負けが迫る。
俺のいない所でずっと鍛錬してただろう、彼女の研鑽の末であろう技が俺に敗北を運んでくる――。
「これで勝ちです!」
「いや――防がせて貰うぞ」
そう言って抑えていた霊力を冷気をより濃く解放する。
その冷気は迫る炎蝶を凍結させ、地面に堕とした。
そして、それに驚く剣に一気に迫りこつんと木刀を少し当てる。
「…………負けました」
「あぁ、俺の勝ちだな」
負けを認めたので戦闘はこれで終わり。
凄く近い距離で見つめ合っていると剣は悔しそうにこう言った。
「次は負けません、絶対に兄様を取り返します」
そのまま少し顔を赤くして涙目になりながら去って行く妹。
木刀を持っていったことからまた鍛錬するんだろうとそんな事を思う。向上心が最近凄いなと思いつつ、仲がよくなってる妹と孤蝶を考えると少し嬉しくなる。
「お疲れ様ね刃」
「……見てたのかよ」
「えぇ、貴方の霊力を感じたもの見ないわけないじゃない」
「夕飯の献立は考えなくて良いのか?」
「もう決まったから良いの」
いつの間にかやってきていた龍華、今回の模擬戦を見ていた彼女は立てかけられていた筈の木刀を持っていた。
「どう? 私ともう一戦しない」
「やだよ」
「それは残念ね……ねぇ、貴方の妹可愛いわね」
「急になんだ?」
「ただそう思っただけよ、あんなに純粋で可愛い子初めて見たわ」
「…………狙うなよ、流石に剣が不憫だ」
俺は今身をもって彼女の重さを体験しているのだ。
それが剣に向くというのなら全力で阻止しないといけない。
「その言い方は酷いわね」
「いや当然だろ……」
「……むぅ」
「……そんな顔するな」
俺が悪いみたいになるから。
そんな事を思いながら、俺は部屋と戻り最近出来てなかった瞑想をすることにした。家に馴染んでる龍華、それが当たり前になってることに違和感を覚えつつ、俺は思考の海に潜っていった。
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