第13話:のろいすすんで

「……で、今度は何の用だよ神綺様」


 倦怠感を覚えながらまた気付けば俺は神社にいた。

 短いスパンで来すぎたせいで心の準備が出来てなかったが、来てしまった以上何もせずには帰れないので少し話そう。


「話があるだけよ? ――それと隠れてないで貴方も出てきなさい孤蝶」


 彼女がさっきまで敵対していた奴の名前を呼べば、木陰から蝶が集まり俺の前で少女を形作った。現実で相対した時と完全に同じ姿、どうして俺の夢にいるんだよ……とそんな疑問が湧いてくるが、神綺様が関わってる時点で何かあったのが分かる。


「…………これからよろしく」


 そしてそれだけ伝えたかと思えば、また蝶になって消えてしまった。

 まじで何も分からなかったが――これからとはどういうことなのだろうか? 倒したと思ったら生きてるし、よろしくされるしで誰か説明して欲しい。


「どういう事だよ……」

「あの子を貴方の式神にしたの――だからよろしくって言ったんじゃないかしら?」

「え、は? ――すまん神綺様、理解出来る日本語で喋ってくれ」

「日本語のはずなのだけど……そうね、孤蝶が仲間になったって感じね」

「言い方が悪かった……理解したい日本語で頼む」

「難しいわね、そんなに嫌なの?」


 嫌というか、何というか……気まずいというか、散々煽って倒した手前何を話せばいいのか分からないという感じ。

 そもそもだ式神の契約ってのは原作で描かれていたが、双方の合意や血を使ったりする必要があるはずで――俺が起きてないと契約は出来ないような……。


「私だものそのぐらい出来るわ」

「……心読むなよ」

「読んでないわ、貴方の考えぐらい分かるもの」


 ……やりづらいな、本当に。

 にこにこと……とても楽しそうに笑う彼女と話していると、いつもなんだが変な気分になる。安心するというか――なんて言えばいいんだろうか、懐かしさを覚えてしまうのだ。

 

「まぁ分かったよ。色々聞きたいが、一先ずは一緒にいる。複雑だけどな」


 彼女の生まれた理由とかも聞かなければいけないし、何より誰かと居たいと叫んでいた彼女に思うところがあるので暫くは一緒に居ようと思う。

 これであいつが家族に害を与えるのなら今度こそ倒すつもりでいるが……また倒せる保証はないので修行次第。


「貴方、あの子をよろしくね。どうか孤独を癒やしてあげて?」

「……気が向いたらな」

「えぇ、話を聞いたけれどあの子は樹海の瘴気と漂う霊が集まったような存在。ずっと一人だったから、きっと寂しいのよ」


 あんまりそういう情報は与えないで欲しい。

 普通に気にかけてしまうし、何よりそれを聞いて放っておける自信があまりないから。


「そういえば神綺様、今現実ってどうなってる?」

「貴方があの子を倒してから三日が経ったわね」

「……なんでだよ」

「無茶したからに決まってるでしょ? 貴方は理想の力を必要以上に求めたもの。望んだら対価は払わないといけないわ。本来なら何年も研鑽を重ねて辿り着ける力の一端、それを無理矢理使ったのだから――しかも限界以上に自分を強化したでしょう? こうなって当然よ」


 耳が痛いが、納得は出来る。

 霊力とは生命力にも置き換えることが出来、無くなれば死に至る危険性がある。今回の戦いで俺は刃の技を使い、彼に追いつくために自分を強化し続けた。

 その反動はあって当然だろうし、逆に死なないだけでもマシだったと言えよう。


「――なぁ神綺様、俺はいつ起きれるんだ?」

「まだ完全に回復してないから無理ね、だからそれまでお話しましょう?」

「まじかよ――でもまぁ、いいか。たまには貴方と話すのも悪くない」

「えぇ、ならお茶を持ってくるわ。貴方の為に用意したの」

「ヨモツへグイさせようとするのやめないか?」

「ふふ、冗談よ。でも私の分は持ってくるわね」


 この世界の食べ物とか食った時点で持っていかれるだろうから何も口にしてはいけない。黄泉ではないとは思うが、捉えようによってはもっとヤバイこの場所で何かを食べるとか絶対嫌だ。


「のろいすすんで――唄を歌って、命を祟りて死を望みましょう? とおりゃんせとおりゃんせ、生者来い来い帰りは骸――曼珠沙華を咲かせましょうか」


 何かを口ずさむ神綺様、言葉の筈なのに俺にそれは認識できなくて鼻歌のようにしか聞こえなかった。だけどそれが聞こえているとき、ずっと鴉の鳴き声も同時にしており、かなり不気味で気持ちが悪くこの空間の異常さを改めて思い知らされる。

 そのほかにも子供の笑い声や、風の音――その全てが恐怖を掻き立てるが、何故か心地よさを感じ、俺はきっとこの先も彼女と関わるんだろうと悟った。


「さぁ、話しましょう? 運命の貴方」


 俺に向かってにっこりと笑う彼女はやっぱりとても綺麗で、どうしようもなく浮世離れしていて……あまりにも神綺という少女だった。


[あとがき]

 一章はこれで終わりです。

 次回は1話だけ閑話を挟んだ後に少し時間が進んだ話から始まります・

 ここまでの話がよかったら、どうか☆などを入れてくれると幸いです。明日からも毎日更新は続けていくので、どうか引き続きこの作品をお楽しみください。

 

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