第11話:彼岸の瑠璃蝶 【後編】


 眠れとそう言われた次の瞬間、俺が立っていたのはあの神社だった。

 相変わらずの不気味な神社、鳥居の中に既に入っており目の前には笑顔の神綺様がいる。


「なんで貴女が?」

「ふふ、貴方がピンチだったから助けに来たの――感謝してくれると嬉しいわ」

「あっちの方がマシだわ……で、何の用だ? 戻らないとやばいんだが……」


 皆と同じで眠らされた以上、何をされるか分からない。

 起きれるなら早く起きたいし、戦いに戻らないと倒せないから。

 

「貴方、今のままじゃ倒せないわよ?」

「――やっぱりそうだよな、知ってた」

「じゃあなんで戦うのかしら? 結界を破ることに集中してあの男に任せれば倒せるわよ?」


 それは分かってた。

 結界を破るか時間を稼いで逢魔さんに任せればアレは倒せる相手であり、俺が無茶する必要ない。でも俺は、いつの間に自分で倒したいと思っていたのだ。

 理由は分からない、だけど俺は俺の手であいつを倒したい。

 単純に悔しいから、あそこまでやられて家族を危険にさらされて――どうしても自分の手で倒したいと思ったんだ。


「倒したい、そんだけだよ神綺様」

「そう、なら私が力を授けてあげる。貴方の名前を教えてくれれば、貴方に刀を授けるわ。どうかしら?」

「いいや、自分の力じゃないと意味が無い。俺の手であいつを倒すんだ」

「そう――貴方らしいわね。ならアドバイスよ、貴方の魂は何故か知らないけど、見知らぬ誰かを理想にしているの。理想があるのならその力を借りてみればどう? 私の誘いを断ったのだから負けることは許さないわ、頑張りなさい?」


 それだけ言って、彼女は消えたいった。

 少し残念そうにだけど俺のことを想いながら。

 今の彼女の言葉の意味は分からない。だけど俺は覚えておこうと思ったのだ。それを最後に意識が浮上していく、夢から覚める感覚だ。

 

「なんですぐ起きれたの?」


 目覚めてすぐ、困惑する少女を見た。

 俺が起きたのが信じられないようなそんな様子だ。


「さぁな、お節介な女神様のおかげだな」

「……意味が分からない。それに夢にも入れなかったし、もう一回眠らせてあげる」

「もうそれは喰らわないぞ、覚えたしな」

 

 再び刀を作り出す。

 より鋭利に俺の敵意を形にするように一本の氷刀を。

 冷気をたぐり寄せ作ったそれは、妖刀四季にとても似ていた。色合いは違うが、長さや鍔がそっくりだ。

 何故そうなったのかは分からない。

 でも、少し気付くことがあったのだ。

 確か神綺様は俺の魂は誰かを――いや、原作の刃を理想としていると。

 俺は【けもの唄】の読者だった。あの男、刃の生涯を観測者として見続けた一人の人間だ。推しキャラの技は全て覚えている。何よりそれに憧れて、格好いいと心から思ったのだ。


「そういうことか? 神綺様」

『ふふ』


 何処かから黒髪の少女の笑い声が聞こえた気がする。

 俺が刃を真似ることはおこがましいが、そんな事言ってられない。それに今の俺は曲がりなりにも刃なのだ。ならば、彼が出来たことを出来なくてどうする?


「刃はやった。何よりこんな奴にあいつは負けない――だから、俺も出来なきゃな」

「何を言ってるの?」

「いや、なんだ。負ける気しなくなっただけだ」

「……雰囲気が変わった? ううん、すぐ終わらせる」


 瑠璃の蝶が迫る。

 先程よりも多い暴風の如き蝶の嵐だ。

 それを俺は限界以上の強化をかける事で避け、彼女の首にへと刀を走らせる。


「当たらない――ッ」


 避けた。

 相手はそう思っただろう。

 だけど違う、確実に俺の刀は相手を傷付けたのだ。


「――ッゥなんで?」

「解説は負けフラグって言うけどな、ここは説明してやるよ。俺の刀は冷気を纏ってて刀身が長いんだよ、見えないだけでな」


 刃がよく原作で使う技の一つ。

 冷気による刀身の拡張だ。しかも自在にそれは変える事が出来る上、今言った通りの見えないおまけ付き。だから相手は長さを見誤り攻撃を受けてしまう。


「知れば避けれる」

「じゃあやってみろ病み娘。それにこれだけじゃないぞ?」

 

 空いている手で冷気を操り数十本の槍を作り出す。

 俺が霊力で作りだしたこれら冷気は、俺の解釈次第で幾らでも操れるのだ。

 さっきまでの俺だったらこれは尻込みしていただろう。だけど、あの男を理想としているというなら出来るに決まっている。

 

氷槍時雨ひょうそうしぐれ――避けてみろよ」


 高速で迫る数十の槍。

 それらは相手に狙いを定めて一気に迫る。

 殺傷能力に重きを置き、速さ重視のこの技はいくらあの少女でも避けるのは難しいだろう。しかも、あの眠らせる技のおかげでこいつの霊力は覚えたので追尾させるぐらいなんてことない。

 相手に喋る余裕を与えない、氷槍時雨を作りながら何度も接近し俺は相手を祓うためにも追撃を続ける。


「しつこい、眠ってよ!」


 初めて相手が感情を出してこっちに瘴気を放つ蝶を放ってきた。 

 それを俺は届く前に氷の壁で遮り、そのまま盾を作って接近する。


「――なんで、眠ってくれないの。眠れば一緒にいれるのに!」

「残念だが断る、家族が待ってるんだよ!」

 

 こいつを放置したら何が起こるか分からない。

 意識があり明確な敵である彼女を狩り人になる人間として生かすことは出来ない。


「ごめんな、トドメだ」

 

 俺が周囲に放った全ての冷気を一カ所に集め自分の刀に纏わせ、即興で作った鞘にそれを収めた。今から放つこの一撃は、触れるモノ全てを凍てつかせる刃の必殺の一振り――彼が最初に使っていた俺の憧れの技。


一刀烈華いっとうれっか――氷刃霊葬ひょうじんれいそう


 少女目掛けて、一気に抜刀する。

 周囲に氷の華を咲かせながら放った技は一瞬で相手の元へと届き、彼女の体を切り裂いた。

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