第2話:神降ろしの儀式
ある日の事、俺と剣は車に乗せられ何処かへ移動していた。
時間にしては一時半ぐらいだろう、抱えられているときに見た時計では一時十分ぐらいだったし、移動時間的に多分そう。
「それにしてもなんで急にお袋は二人を連れてこいと言ったんだよ」
「用件も伝えず来いなんて
後部座席に座りながら二人の会話を聞くことしか出来ないので俺は軽く瞑想しながらも耳を傾ける。
そこで聞こえた翠凰という名前には心当たりがあった。
百獣夜行の襲撃の後で十六夜家の本家に引き取られた剣はそこで冷遇される。強くなれとだけ言われ、虐待とも言える修行の日々に置かれるのだ。
(で、それを指示したのはその翠凰っていう婆さんなんだけど)
彼女は愛する息子とその嫁をほぼ失った反動でそうなったと描かれているし、あの事件さえ防げば味方にはなる人物であろう。
まぁ……だとしても剣に対する所業は許せないが、全部百獣夜行が悪いのでなんとも言えない。
「俺怒られるのか? お袋めっちゃ怖いんだよ」
「大丈夫よ、流石に急に怒られるなんてことは……ないはずね」
「断言してくれ、かなり怖くなってきた」
そんな怖がるような人か?
とも思ってしまったが、原作で書かれている所だけ見てもかなり怖かったのを思い出してきた。怖いというか、やばいというか……厳粛で剣に関する以外の出来事には絶対に私情を挟まないそんな人。
敵対者とかには容赦ないし、何より漫画越しでも分かる雰囲気が……あれ、なんか会いたくない。
「ねぇ昴、刃が震えてるわ顔も蒼いし」
「これまじで怒られるのか? ――嫌な予感してきた」
父さんもめっちゃ怖がってるし、実際に翠凰という女性は死ぬほど怖いのだろう。なんだろう、車止まってついたっぽいけど……ド深夜に呼び出されるのってよく考えたら怖くない?
「お待ちしておりました昴様方、翠凰様がお待ちです」
「……怒ってたか?」
出迎えてくれたのは黒いスーツの女性。
畏まる彼女に対しての第一声がそれなのはどうかと思うが、気持ちは分かるので微妙な気持ちに襲われた。
「怒ってはいなかったかと……それより丑三つ時までに案内しろと言われているので早く行きますよ」
そんな事を言われたので俺は父に剣は母に抱えられ目の前に広がる意味不明な程豪華な屋敷に足を踏み入れた。門をくぐり屋敷に入り通されたのは地下の一室。
蝋燭が並び床には五芒星が描かれた暗い一室には一人の女性が待っていた。
「丁度来たのね昴、間に合うとは思ってなかったわ」
「……急げとは言われたからな、それで何の用だ?」
そこに居るのはどう見ても二十代前半にしか見えない女性。
白髪だが顔はどう見ても若く、どう考えてもこの人が自分の祖母には思えない。だけど原作通りのその姿にやっぱりこの世界は【けもの唄】の世界なんだと再確認させられる。
「昴、私に隠している事がありますよね?」
「……何もないが?」
「いいえ、貴方の嘘をつく癖は覚えていますが――今顔を少し逸らしましたよね。それに怒っている訳ではありませんよ? 確認するだけです」
「それなら剣も呼ぶ必要はなかっただろ」
「それも確認のためです――二人して同じ才を持っていた場合は困るでしょう?」
え、これ何の話?
俺に関わる事なのは分かるが、まるで話が見えてこない。
才能云々で心当たりがあるとすれば、降霊の類いだろうが……それだけでこんな時間に呼ばれるなんて思えないし。
「剣にはその才はない、見鬼である俺が確認済みだ」
「なら剣は離れていて大丈夫です――孫を守るために降ろすだけですので」
「別室にいてくれ凜」
「大丈夫なの?」
「あぁ、その代わり剣を頼むぞ」
そう言われ、地下から上がって別室に移動する母さん。
それを見送った後で父さんは翠凰さんに向き直り、少し気配を強めながらこう言った。
「……丑三つ時までにである程度察してたが、本当にやるつもりなのか?」
「星詠みで見ましたが、その才は異常です。信頼できるモノを降ろしておけば暫くは守れる筈です」
これで俺ってなんか才能あるんだやったーとなれればいいが、この人にここまで言われるという点で喜べる訳がなかった。この人の特技は陰陽術による占星術であり、その力はこの世界でも最高クラスだ。確実な未来までは見えないが、ある程度の未来を見ることが出来て、他者の才能を見ることが出来るという。
「隠そうとした理由は分かりますし、実際上手く隠せてはいましたよ? ですが、日に日に強くなる孫の力のおかげで見つけられただけです。この子、現時点で霊力までも異常なので」
あれ、これバレたの俺のせいじゃない?
毎日数時間の瞑想で霊力を増やすという事をやっていたけど、そのせいでバレた感じじゃないか? ごめん父さん、俺が悪いかもしれないけどわざとじゃないんだ。
「安全なんだろうな」
「はい、私が監修しますし降ろすモノには交渉済みです。数年ですがこの子を守ってくれるでしょう」
「分かった。その言葉信じるぞお袋。それと名前ぐらい呼んであげてくれ」
「……刃でしたっけ?」
「そうだよ。孫なんだから名前ぐらい呼んでやれ」
「それもそうですね……では刃を五芒星の中に」
……ちょっと待ってくれ、これって流れ的に俺に何か降ろされる感じなのか?
え? やばくないかそれ――流石に赤子ボディに神霊の類いをいきなり降ろすのは不味くない?
「では儀式を始めましょうか、昴は離れていてください」
翠凰さんが何やら呪文を唱え始めると部屋の蝋燭が揺れ始める。
風もないのに激しく揺れて、異質とも言える寒さが部屋を支配していく。そして俺の前に何か巨大なモノが現れて――。
『やっと見つけたわ』
次の瞬間それが横からかき消され、それこそ別種のナニカが降りてきた。
それで見えたのは見たことないのに見覚えのある黒いセーラー服を着た美少女、中学生ぐらいの見た目の彼女は俺をみて微笑んだかと思えば、
『よろしくね、私の運命の人』
それだけ言って俺の頭を愛おしそうに撫でてきた。
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