第33話 有名なおしどり夫婦
橘さん達は帰って行きました。私はまだやみあがりだったからか、一つだけ、聞きたくても聞けなかったことがありました。私が聞きたかったのは、
「カザ様は、とても寂しいみたいだから、沢山の人がカザ様に祈ったり、話しかけたりしてあげてほしいけど、どうしたらいいですか?」
という事でした。後で連絡して聞いてみようと思います。
私は橘さん達が持って来てくれたお菓子を食べようと思って、お母さんの所へ行きました。そうするとお母さんは電話で話していたので、私は紙袋の中のお菓子の箱を出して、箱を開けました。箱の中に、綺麗なブリキのお菓子ケースがあり、その蓋に貼られているセロテープをはがしていると、お母さんの大きな声が聞こえました。
「えっ!岡本典子に会えるの!?」向こうを向いていたお母さんは、急にこちらを向いてそう言うと、目を大きくして口を片手で塞いでいました。
それは京都の基子おばあちゃんからで、基子おばあちゃんの知り合いが岡本典子と知り合いで、検査のために入院したから、様子を見る為にお見舞いに一緒に行ってくれないかと言われたみたいです。
お母さんは何だか凄く興奮していて、お母さんが子供の頃からとても人気がある有名な歌手の人らしいです。交通費も、お母さんの分も出してくれるって言って、とてもウキウキしていました。
この時点で、私は明日の土曜日に、東京に行くことが決まってしまったようでした。
「私、病み上がりなんだけどな。」そうおもったけれど、お母さんが嬉しそうだから、行ってあげるとしようかな。
最近、珍しいウイルスが見つかったので、それを警戒する報道がされるようになっていました。
私が東京に行くことが決まって、橘さんや富田さんも病院に一緒に来る事になりました。私、もうどこも悪くないから心配しなくていいのにね。
東京に着いたのは、午後2時位でした。
病院では、個室みたいな椅子の沢山ある部屋に通されました。岡本典子さんの家族が沢山来ていました。その部屋に、私とお母さんと、橘さんと富田さんが入って行きます。
「あら!大変!岡本雅史がいる!うわぁ~!夫婦そろって芸能界では超売れっ子なおしどり夫婦なのよ!」
お母さんが小さい声で興奮気味に私に言いました。
お母さんは、岡本典子さんの旦那さんの岡本雅史さんがいる事で、更にもっと驚いていました。何故なら、岡本雅史さんは、毎朝お母さんが見ている、朝の番組のメインキャスターだったからです。
「ああ、初めまして。岡本雅史です。こちらは一人娘の麗美です。あなたが利律子さんですか?噂はよく聞いていますよ。今日は宜しくお願いします。」テレビでよく聞く声の男の人が、目の前で喋っています。
私は「うわぁ~。本物だ~。」と思いました。麗美さんにもご挨拶をし、お母さんを紹介しました。
「直接典子に会って欲しかったのですが、最近のウィルスの感染予防で、今日から面会出来なくなってしまって。」
岡本雅史さんは困った顔をして、
「今後、典子の容態はどうなるか見てもらえないでしょうか。実は典子は、極秘でガンを克服したばかりなんです。検査入院だけど、変なウイルスが流行っているし、心配で。」
岡本雅史さんが言います。私は、岡本典子さんに意識を向けてみました。
でも、、、。
そこには激しく泣いている、私の前にいる人達の姿がありました。ガラスに遮られて、息を引き取る瞬間に、側にいる事ができないでいました。
私は何て話したらいいかわからなかくなりました。以前お母さんに、人が死んでしまう事を、はっきり言っては駄目だと言われていたから、まず私はお母さんと橘さんの顔を見ました。
お母さんは、少し舞い上がっていて、私のSOSには気がついてくれません。橘さんは、気がついてくれないかな。そう思っていると、
「利津子さん、少しだけ私がアドバイスしましょう。少し向こうで話しましょうか。」
橘さんが、一旦、私を皆んながいない場所に連れて行ってくれました。誰もいないか確認して、私は橘さんにはなしました。
「典子さんは、今日の夜には苦しくなってきて、死んでしまいます。家族の人とガラス張りの壁で遮られたまま死んでしまいます。どうして側にいけないのかと言いながら、家族の人も、看護婦さんも、皆んな泣いています。私に、何か出来ないですか?」
「何かあったらと思って、小さな鳥獣鏡を持って来ています。富田に持って来させましょう。それまで、さっきまでいた所にいましょう。何も話さなくていいです。私が伝えます。私がすぐ側にいますから、大丈夫ですよ。」
「はい。わかりました。でも、鳥獣鏡は周りの人には耐えられないんじゃないんですか?」私は心配になりました。
「今日持って来ている鳥獣鏡は、弱い物ですから大丈夫ですよ。」
そう橘さんが言ってくれてほっとしました。
みんなで集まっている場所に戻ると、橘さんは富田さんに何か話しかけました。そうすると、富田さんはさーっと神妙な顔つきになり、急ぎ足で部屋を出ました。
「利律子さん、何か見えましたか?」岡本雅史さんにそう聞かれたので、
「出来るだけ会えるようにしたほうが良いと思います。今日は病院にいたほうが良いと思います。」と伝えました。
それを聞いて岡本雅史さんは表情が止まりました。
「何が見えたんですか?」岡本さんはそう聞いてきました。
私はすぐに、「苦しそうにしている典子さんが見えます。」と答えました。
少しすると、富田さんが桐の箱を胸元の高さに持ち、橘さんの前に来ました。以前、黒崎さんがしていたように、橘さんの前で箱を高い位置に持ったまま礼をしし、橘さんの前に置いて、箱を橘さんの方に向け直し、一礼して後ろに下がりました。
最初はみんな椅子に座って、たわいもない雑談をしていましたが、時間が経つにつれて会話が少なくなってきました。その時でした。看護婦さんが急ぎ足でやって来て、
「岡本さん、救急病棟の集中治療室の面会用の部屋に来ていただけますか?奥様の容体が変わってきました。ご家族の方は、万が一の為、PPTを装着してください。ご家族でない方は、面会室のみ、入れます。その場合も、皆さんマスクをして下さい。」そう言いました。
岡本雅史さんは、不安そうに立ち上がり、「PPTって何ですか?」と看護婦さんに聞きました。
看護婦さんが白いビニールのような服を広げ、「防護服です。こちらを着装してください。集中治療室では、感染症対策のために感染症の可能性がある方と接する場合は、看護師も医師も皆、PPTを装着しています。」
岡本雅史さん達は急いでPPTを着始めました。私とお母さんと橘さんと富田さんは、集中治療室の面会室に来てほしいと言われ、行くことになりました。
看護師さんに、
「身内の方でないなら、子供さんは通されない方が良いと思います。」と言われたので、
「私、行きます。」と答えました。
面会室に通されると、ガラス越しに見えたのは、人口呼吸器をつけ、苦しそうにしている典子さんと、PPTという防護服を来た人が何人も、忙しそうにしている様子でした。
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