第31話 空から見ていた人の名前

お母さんが私の部屋に来て、お水とオレンジジュースを持って来てくれました。でも何だかバタバタしてる感じがします。 




 「りっちゃん、午後から橘さんがお見舞いに来るんだって。東京でのお世話係の方も来てくれるみたいよ。ちょっと家を片付けないとね!」




 そう言って、足早にさーっと私の部屋を出て行ってしまいました。




「私が風邪ひいたぐらいでお見舞いに来てくれるなんて、東京ってそんなに近いのかな?お仕事とか大丈夫なのかな?お父さんは私が風邪ひいたくらいで仕事休まないのにな。」




 もうだるさが無いので、お布団の上で座ってオレンジジュースを飲んで、窓の外を見てボーっとしていました。




 そうすると、また薄い画像の映画を見ているように、何かの映像が見えて来ました。




 真っ暗な中、誰かが静かに泣いているような声?音?が聞こえてきます。




「何故私だけがここにいるのだ。全ての力を私は持って生まれ、そのために私だけが残った。愛しい人も、大切な人たちも、全て消え去った。」




その声は、イブを空から見ていたあの人の声でした。空から地上を見ていたその人は、地上を見ながらとても悲しそうでした。でも、地上では、沢山の木や草や花が育っていて、動物の数も増えていました。なんだか、イブがいた時よりも凄く時間が経っている様子でした。




その寂しそうに泣いている人の声が、静かに聞こえました。




「再び、私はお前を創ろう。そして、私はお前が誰と幸せになろうと、二度と妬まず、二度と憎みまい。二度と地上に介入しまい。」




 そうするとその男の人は手のひらをゆらりと上向きにし、人差し指と親指だけ伸ばして、残りの指はゆるいグーのように折り曲げ、その腕を上に向けると、静かに地上に向けました。指先から強い光が出てきて地上の花が咲く所に辿り着くと、光が小さく分かれていき、中心部分からぐるぐると回りながら人の形になっていって、イブの形になりました。




「お前が寂しくないように、お前を守るために、別の者を傍に置こう。」




そう言うと、今度はもう一つ、光が中心部分からぐるぐると回りながら人の形になっていきました。それは、空から見ている人にそっくりな黒髪の男の人でした。




「幸せになっておくれ。幸せに・・・。そして私に永遠に幸せな姿を見せよ。お前の笑顔を。お前が幸せならばこの世は全てが穏やかで幸せになるだろう。お前が大事にされず、幸せでいないならば、この世は混沌となり、滅びるだろう。その時は、お前を守るために、全てを作り直そう。」




「男よ。お前をアダムと名付けよう。イブを守れ。これから続く世で、ただひたすら男は女を守れ。その位置付けが壊れた時、世は乱れ、終わりを迎えるだろう。この世界に、私が作り出していない者達がいる。その者からも、男よ、お前は女を守らなければならない。」




アダムは片膝をつき、胸に手を当て、深く頭を下げ、言いました。




「貴方の御心のままに。」






空から見ている人が、




「再び言おう。」そういうと、囁きのような、歌のような声が響いてきました。






産めよ増えよ 地に満ちよ




ただ生きよ 永遠とわに




私のために




我が喜びよ 我が幸せよ






見えずとも 触れ得ぬとも




想い続けよう 永遠に




我が喜びよ 我が幸せよ




幸せよ永遠に




イブはアダムと一緒に、うっとりと空の上を見つめていました。その姿を見て、空の上の人はとても優しい微笑みで長い時間イブを見つめていました。




そこで景色が空の上に変わりました。とても綺麗な天国のような雲の上でした。




「ルシファーよ。私のもとへ。」




また、空から見ている男の人が、同じ指の形をして、今度は下から上に手を振りました。そうすると、灰色の角のある姿の変わったままのルシファーがいました。




「姿よ、戻れ。」




そうすると、怖い形相のルシファーは、光に包まれて、元の姿に戻りました。両ひざをつき、両手を胸の前に交差して深く頭を下げていました。目をとても強く閉じています。




「私はお前を許そう。再び私の元で手となり足となり、私に仕えよ。」




そう言われて、ルシファーは顔を上げました。




「イブはどうなったのでございますか。」ルシファーが聞きました。




「再び地上で生きている。今度は私とお前に似たアダムを傍に付けた。これから先、私は地上に介入する事は無い。」




「創造主よ。私は地の底に落ち、あなたがおつくりになっていない者達を見ました。それらの者は、あなたに対する憎悪で満たされていました。あれらは私を形どり、その姿を写し取りました。あれらは地上を目指いしています。」




「ならば、監視せよ。私の世界の全てが私以外、全て無くなってしまった時に、私念だけが残った。私の世界にしがみ付き、生きようとしている。あれが私の世界を汚すとき、私はあれを滅ぼそう。何度でも。」




少し間をおいて、空から見ている人は言いました。




「お前は私と共に、イブを見守れ。」




ルシファーが立ち上がり、背中の羽を大きく羽ばたかせ




「なんという喜びでしょう。私を許して下さるのですね。」そう言うと、ルシファーは空に舞い始めました。光と一緒になって、ルシファーは本当に綺麗でした。






「空から見ている人も、いつも下を向いているけれど、そっくりだから超、綺麗なんだろうね。」私はそう思いました。






そこで、何かの文字が見えてきました。ローマ字で大文字のK、小文字のh、小文字のa、そして、小文字のsだったかな、zだったかな。。




「それが私の名だ。私の名はカザ。」




その声が聞こえると、薄い映画のような映像が終わりました。




「ああ、あの空から見ていた人は、カザって名前なんだー。カザさんかぁ。あ。創造主だからカザ様だよね。カザ様かぁ。」そう呟いていると、お母さんが私の部屋に来て、




「橘さん達がお見えになったわよー。」と言います。お母さんが、「狭苦しいところですが、どうぞ、」そう言うと、ぞろぞろと大人の人が入ってきました。


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