第23話 黒崎視点 再会

 私は黒崎宣孝くろさきのぶたか。今日、利津子さんのご家族が利津子さんが東京に行くことを概ね了承した様子で、週末に住居や待遇の具体的な話をしに、また九州の泉八家に赴く事が決まったと連絡が入った。




 九州に同行するのは総宮そうぐうと、遼習院大学学長の藤原と、私とその他数人の総氏そううじだそうだ。




 当日の打ち合わせも兼ねて、私は総宮の執務室を訪れた。総宮に近づくと、机の上には何か本や写真が置かれていた。




 ブルガリアに関する書類や写真があったので、その後のApocalypse についての調査結果のようだ。




「総宮。Apocalypse はその後動きはありましたか?」と尋ねてみる。




「幸い、あれ以来無いらしい。火星も動きは無い。ヒマラヤもあれ以来動きは無い。Apocalypse にはもう少し待ってもらおう。利津子さんが救出しなければ、他の人間では太刀打ち出来ないからな。その利津子さんには、学んで頂かなければならない事が山程ある。」




 手間のかかりそうな取り組みだが、総宮の表情はとても嬉しそうだ。しかし、ブルガリアの書類のそばにあるのは、どこかの小学校の写真みたいだな。幼稚園のアルバムは、手作りだ。私は尋ねてみた。




「何の写真ですか?親戚などおりませんでしたよね。」と言うと、




「ああ、利津子さんの写真だよ。」と言う。




 おいおい、まだ夏休みが終わったばかりで何故、卒業アルバムがある?さては、無理やり早めに手配させたな。幼稚園のアルバムは、どこかの家庭に頼んで借りたのか?コピーさせたのか?




 私は総宮が、九州の泉八家で初めて利津子さんに会った日の事を思い出した。




 今まで着たのを見たことが無い、ベージュのスーツを着て、髪型をしっかりと整えた総宮を見て、皆が「今日は総宮はどうした!?」と話題になったものだ。




 利津子さんは、黒い髪が肩の少し下まで伸びており、小学生らしい夏の日焼けをした、痩せ型の少し背が高い女の子だった。目は奥二重で、眉毛は優しい感じに少し下がり気味だ。しっかりと口元を閉じ、口角が上向きに構えられ、思慮深い雰囲気があった。笑うと笑くぼが印象的で、成長するにつれ、古風な雰囲気になるのが予想出来た。要するに、美人になりそうだと予想出来たのだ。


 


 総宮は、神獣鏡を利津子さんに見せるために声をかけた時には、緊張からか汗をかいていた。そして、顔が赤くなっていたのだ。私は予想通りの反応に、つい何度もじろじろと総宮を見てしまった。吹き出すのを堪えるのに大変だったのだ。 




 相手はまだ12歳だぞ。 




 神獣鏡が反応して、皆が驚いたが、その後の利津子さんの言葉を聞いて、上を向いている総宮は、明らかに目に涙が浮かんでいた。その後、利津子さんを見つめる目は、我々が立ち入る事が出来ない雰囲気だった。




 これから先が、本気で思いやられるぞ。しかし、お互いに想い合う事にでもなれば、全力で協力する所存だ。他の者も同じだろう。




 これから先、利津子さんは海外の神道界との関わり、正しい歴史と日本古神道を学び、祭祀としての道行みちゆきを学び、宮中祭事に関わらなければならない。世界の人類史を学び、Apocalypseを救出し、再会を果たし、日本と、地球の防衛とも関わらなければならない。




 そして、過去の自分を全て思い出すと言う、1番重い体験をしなければならないのだ。




 勉強のしやすい生活環境や、通学、食事、衣類、全てにストレスの無い穏やかな生活をさせてあげなければならない。




「総宮、利津子さんの住居はどうしますか?中等部には寮はありませんから、中等部の近くに準備しますか?」と尋ねると、




「警備も考えたら、1番安全なのは私のビルだ。あの区は都内で1番治安が良いからな。私も上層階に引っ越しをするから、同じフロアに利津子さんの部屋を準備してくれ。広さはファミリータイプで良いだろう。ホームシックになったら、お世話係が泊まってあげてくれ。」




私が「食事や洗濯などはどうしますか。」と尋ねると、




「お世話係を4人つけるようにしてくれ。家政婦と警備両方出来る人間を頼む。同じフロアに2人。これは女性で。下のフロアに2人。これは男性にしてくれ。皆、住み込みで任務に就くように。下のフロアには、家族がいつ来ても良いように、一部屋空けてファミリータイプの部屋に改装してくれ。」




「承知致しました。」私は続けた。「家具などはどうしますか。」




「そうだな。ナチュラル系の優しい色合いの物に統一してくれ。暗い色合いは避けるようにしてくれ。勉強部屋は、机は広いものを。本棚と収納は沢山作ってくれ。後はご両親に任せてもいいかもしれないな。」




「最上階は我々の実務室、会議室、神事の為の部屋、装備の保管室にする。屋上のヘリポートの設備を再点検しておいてくれ。ご家族にはヘリで直接来て頂いてもいい。あの区はショッピングモールが無いからな。一階から4階は、書店、文房具店、ホームセンター、ファッション街、映画館、スーパー、レストラン街、フードコートが充実した大型ショッピングモールを入札式にして招致してくれ。大繁盛するだろう。今いるテナントにはトラブルが無いように手配を初めてくれ。来年の2月には全て準備を完了させるように。」




 私は小さく吹き出してしまった。




「それ程のショッピングモールでしたら、全部同じビルで済ませられますね。あちこちに外出しなくてもいいから安心だ。事業としても、大きな収益が見込まれますね。流石です。」




 総宮は少し微笑んでいた。




 さあさあ、これは止まらないな。しかし楽しんでばかりもいられないのも事実だ。私も春が待ち遠しい。


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