第18話 富士山と光の噴水
高速道路で2時間くらい走ると、下関の鳴門大橋を渡った。カーブの所でお父さんが
「くるくるくるくるー。」と楽しそうに言う。
そうするとお母さんが、「くるくるくるくるー。」と言うので、お姉ちゃんも私も、「くるくるくるくるー。」と言って、カーブをみんなで笑いながら通った。なんだか、何でも楽しくておかしい。楽しくて楽しくて仕方なかった。私とお姉ちゃんはテーブルの所に座っていた。キャンピングカーってお部屋みたいで凄い!
一旦、休憩で、めかりサービスエリアに寄ると、周りが瀬戸内海に続く海になっていて、大きな橋が目の前に見えた。お昼はここでとることになり、皆で定食を頼んだ。
私とお姉ちゃんは、鳥天がよかったのだけど、竜田揚げしかなかったので、それにした。お父さんとお母さんはウニふぐ海鮮丼を頼んだ。
私とお姉ちゃんの竜田揚げの定食はすぐに運ばれてきた。量が多くてびっくりしたけれど、お父さんとお母さんの、凄く大盛りの海鮮丼が運ばれてきた時には、もっとびっくりした。
「ええ?これ全部食べれるの?」と思わず言ってしまった。
でもお父さんもお母さんも、「やっぱり海の幸だよねー。」と嬉しそうだった。
皆、全部食べ上げると、サービスエリアの展望台に行って写真を撮った。皆でアイスクリームを食べながら海峡の景色を満喫した。
「おーい。やばいな。お父さん、お腹いっぱいで眠くなるかも。」そういうとお母さんがお父さんの肩を軽く叩いて、
「ええ?コーヒー買っておかないと。」と言って自動販売機に走っていく。
途中お父さんが寝ちゃうのが心配だったけれど、全くそんな心配は必要なかった。お父さんとお母さんは本当に仲がよくて、ずーーっと話しているからだ。
「お父さん、お母さん、今日は神戸に泊るんでしょう?神戸の後は富士山で、帰りもずっとお父さんは運転してるの?」と聞いてみた。
「帰りはフェリーにするよ。さすがに疲れがたまるからね。」とお父さんが言う。
「えー!船に泊るのー?!初めて!」お姉ちゃんと私は大興奮だ。
お母さんが、「ちゃーんと家族だけのお部屋でね。なかなかいい感じのお部屋なのよ!」と、にーっと助手席から振り返って笑っていた。
途中何度かサービスエリアで休憩し、キャンピングカーの中でみんなで寛いだり、大阪に寄って食い倒れる迄食べようとか、富士山の上でカレーを食べたいとか、話は尽きなかった。
夜になると、神戸の銭湯でお風呂に入り、キャンピングカーの中で休む。マットを出して、椅子を倒すと、テーブルのあるお部屋が、寝室に変わった。私はキャンピングカーって、何て面白いんだろう!と興奮気味だった。
「おーーい寝るぞ。明日は朝ごはん食べたらすぐ出発で、お昼には富士山だー!」
お父さんはとても楽しそうだった。お母さんと私たちも、まだ話がしたかったけれど、休むことにした。
次の朝、道沿いのファミリーレストランで朝食を食べた。
「モーニングセットは安いのに、しっかりしたメニューよね。」とお母さんが感心していた。お父さんは、「いや僕はお母さんの朝ごはんが一番だよ。」と言うと、私とお姉ちゃんも、「お母さんのご飯が一番!」と言って皆で顔を寄せてくすくす笑った。朝からみんな楽しくて仕方なかった。
朝食を食べ終わると、お父さんはすぐ運転席に座って、
「富士山目指して出発だぁー!」とまた元気がいい。皆で「お父さん頑張ってー!」と言って、足をバタバタさせたりしてはしゃぎまくった。
はしゃいだのもつかの間、私は眠ってしまって、起きた時には富士山に着いていた。あっという間に着いたのでびっくりした。
「りっちゃん、ほんと凄く、ぐっすり寝てたね。」と言われて、凄く損をしたような、でも早く着いたような、複雑な心境だった。
私たちはまず、富士山みはらしというレストランでお昼を食べた。お父さんは噴火カレー、お母さんは、ほうとう、私とお姉ちゃんはまた、唐揚げ定食を食べた。
「本当は鳥天がいいよね。」とお姉ちゃんが言った。私も「鳥天がいい。」と言った。
お昼ご飯を食べたら、富士山五合目で、私とお姉ちゃんは馬に乗った。お父さんとお母さんは、馬を引いて歩いて進んでくれた。
最後に四合目の大沢展望台に行った。夏で緑の木の景色が広くひろがって、高い所からぐるりと周りを見渡すことが出来る。富士山の四合目はかなり上の方だからその景色はとてもとても遠くまで広がっていた。
その時だった。白い丸い光が、富士山の後ろから、遠くから、富士山に集まってきて、富士山の上に向かって流れてきた。その丸い光の中には、動物もいれば、昆虫もいた。人の顔をしたものもあった。
私は、これは映画を見ている時に見えた、人の魂や動物や昆虫の魂だと思った。それが、物凄く沢山、富士山の上の方に吸い上げられるように流れて噴き出している。まるで噴水の様だと思った。
「富士山が、魂を天国に流しているの?」私はそう感じた。
そんな光の中に、見たことがある顔があった。
「あの顔は、住職様が見せてくれた写真と同じ・・。」そう思うと、それが私に近づいてくる。
「父さんに伝えてくれて、ありがとう。」そう聞こえてきた。その丸い光が、私の周りを何度か回ると、流れるように上に昇っていく。
その時だった。私の体に誰かが重なった気がした。でも私はその人の姿が見えている。白くて長い着物を着た女の人だった。
右手の指に、何か紐のようなものを通して、平たいものをぶら下げていた。それを何度も親指と小指で回している。左手はそれを離れて包むようにかざされていた。
その人の目は、とても優しいような、とても悲しいような、何とも言えない表情で光たちを見つめていた。
その女の人が指で回している、それが回るたびに、低くて重い小さな音がした。その回っている物から、透明の波のような、何かが広がっていく。その広がっていくものを通った魂が、輝きを増していく。
「慈しみが全ての魂を包み、苦しみと悲しみ、恐れと痛み、全てが洗い清められますように。」
其の人がそういうと、光たちはその女の人をくるりと回って、上に流れていく。その女の人に、光たちは「ありがとう」と言っているようだった。私は鳥肌が立って、とても感動しているような感じになった。
沢山の光がとても綺麗で、何だかとても居心地がよくて、安心できる。それはこの魂たちが感じていることの様だった。ずっとその様子を見ていたいと思った時、
「りっちゃん、アイスクリーム食べる?」とお母さんに言われたて、全部が消えた。
「うん。食べるー。」と条件反射のようにお母さんにこたえる。私はまた景色を見た。それは普通の緑が生い茂る景色だった。
今まで何度か、死んでしまった人の辛い思いや、悲しい思いを見てきた。怖い思いをして死んでいった人を見てきた。ミサイルを落とされて、戦争で沢山の人が死んでしまう火事や、それを少しでも防ごうとする動物たちの姿を思い出すと、私は胸が一杯になった。
あの女の人のように、天国に行こうとしている一人一人の魂の、辛い思いや悲しい思いや、怖かった思いを消し去ってあげることが出来たらいいなと思った。
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