第16話 夏休みの戦争の授業 天国の扉が開かれる瞬間

今日は夏休みの登校日だ。




 学校では戦争映画を鑑賞する為、全校生徒が体育館に集まった。今年は、作者の実体験を本にしたものがアニメ映画になった、「ガラスのうさぎ」という映画だ。




 私は戦争映画は好きではなかった。とても怖いシーンが沢山あるからだ。6年生になってから沢山の人と会って、色々見えてしまったから、映画を見て何か見えたくない。そう思っていた。




 映画をずっと集中して見ていたくないので、私は前に並んでいる智子ちゃんや、後ろに並んでいる聡子ちゃんに、つついて悪戯をしたり、小さな声で話しかけたりしていた。智子ちゃんも聡子ちゃんも、やっぱり映画が面白くないみたいで、ふざけたり、一緒に話をしていた。




「こら。喋らない。」そう言って担任の新庄先生が、軽く頭を叩いていく。私と智子ちゃんと聡子ちゃんは、顔を合わせて肩を窄めた。




 空襲で人が逃げ惑う様子が流れた。主人公のお父さんが空襲で死んでしまうシーンとなった。戦争は怖いな。と思いながら、自分が生きている今の時代に、自分の住んでいるところが戦争でなくて良かったと思っていた。




 それと同時に、戦争で死ななければいけなかった人たちが、今は天国で幸せに過ごしていればいいなと思った。




 その時に、とてつもなく濃いオレンジ色の強い光が見えた。映画があっているはずなのに、真っ暗ではなくなったので、不安になって来た。でも周りは普通に映画を見ていた。だれも光は見えていないようだった。




 光っているのは空のようだ。私は上を見上げた。




「あれは何?どうしてこんな光があるの?」




 怖くなって周りを見回すと、私は空にいた。夜の空に浮かんでいたのだ。下からの光で空がオレンジ色になっていた。下はずっと遠くまで物凄い火事だ。沢山の人が、炎の中を逃げ惑っている。そしてミサイルの爆発に巻き込まれて、吹き飛ばされたら動かなくなっている。怖い・・!怖くて声が出ない・・!




 飛行機がたくさん飛んでいる。その飛行機からはミサイルが下に飛び出していた。沢山の飛行機の中では、どんどんミサイルを下に落としている飛行機の方が多かった。




 飛行機に変な影が見えたので、それをじっと見てみると、ミサイルを下に落としている飛行機に、大きな動物のような羽のある獣のようなものがしがみ付いて、飛行機を操縦している人のいる窓を打ち破り、その操縦士の首を掻き切った。そして、飛行機がだんだん落ちていくと、その獣は他のミサイルを下に落としている飛行機に飛び乗っていく。その獣はよく見るとあちこちの飛行機に沢山いた。




 私は下を見た。そうすると別の場所に景色が移った。私は今度は森の中にいた。そこには何故か、動物が沢山集まっていた。遠くの空がさっきと同じように、オレンジ色に光っている。




 その動物たちは、遠くにあるその光の方を見ていた。そうすると鳥が飛び立っていく。狸のような、狐のような動物や、猫や犬が、その光の方に飛び立っていった。そして、飛行機に飛びついていく。


 


「さっきの獣は、動物たちなの?どうして動物が人間を助けようとしているの?」




 景色が別の景色に変わった。今度は、とても寒い所に沢山の兵隊さんが居た。多分日本の兵隊さんだ。銃をもって、これから何処かに行くようだ。




 遠くには外国の兵隊が沢山いた。日本の兵隊さんより人数が多かった。




「これ、大丈夫なのかな。いやだな。死なないで。」




 そう思っていると、日本の兵隊さんの後ろに、赤い服を着た兵隊が沢山いた。どんどん外国の兵隊さんたちと近くなると、外国の兵隊さんたちの方から、パン!パン!と拳銃の音みたいな音がした。日本の兵隊さんは、攻撃されているようだった。




 日本の兵隊さんがどんどん倒れていく。動かなくなった人もいた。誰か助けて!そう思っていたら、赤い服の兵隊さんが日本の兵隊さんの前にどんどん進んでいった。そして、外国の兵隊さんの方から沢山拳銃の音がするのに、今度は誰一人として倒れたリせず、逆に外国の兵隊さんが叫びながら逃げていく。




 日本の兵隊さんが唖然としていると、私の体はまた移動していく。日本の兵隊さん周りに、鳥やタヌキや狐たちがたくさん死んでいた。




「ああ!!何てことだろう。動物が日本の兵隊さんを守ろうとしてくれたんだ。」と私は思った。




 今度はまた空にいた。オレンジ色に夜空が染まっている中にいるので、私はまた怖くなった。でもさっきとは様子が違って、下から丸い光が沢山浮き上がってきて、オレンジ色の空に吸い込まれていた。丸い光の中に、人の顔が見えた。体が無いのに人の顔が見えるのは、それが人の魂だからだだと思った。




「死んだ人の魂?このオレンジ色の空の光は、天国に入る入口なの?」




 沢山の光がオレンジ色の光に吸い込まれていく。その光景は、何も知らなければ夢のように綺麗な光景かもしれない。でも私は、怖い思いをして死んでいった人や動物のために、大きな天国の門が開いているんだと思うと、胸がとても苦しくて、とても痛くて、とても悲しかった。




「天国で、怖かったことや悲しいことは忘れて、戦争で死んだ人が皆、どうか幸せでありますように。」




 そう祈った後、私は映画を見ている自分に戻った。ちょうど映画も終わったみたいだった。私は物凄く汗をかいていた。熱が出てしまったみたいで、先生が家にいるお母さんに連絡をしてくれた。保健室でお母さんが来る迄休ませてもらい、お母さんの自転車の後ろに乗って、家に帰った。




 今日の話をお母さんにすると、お母さんは心配そうにいった。




「熱を出すの久しぶりね・・・・。なんだか、どんどん不思議なことが増えているように思うんだけど。お母さんがお友達に合わせたりしたからかな。」




 お母さんが悲しそうな顔で言うので、私はちょっと笑いながら、




「お母さん、私ね、歩いて帰るのめんどくさかったからラッキー。」




 そういうと、お母さんは「お母さんはりっちゃんのアッシーよ。アッシー。」と笑っていた。




「お母さん、動物はね。人間の事をとても大切に思ってくれていて、お友達みたいに、同じように対等に考えているから、人間を守ろうとしたみたいなの。でも、人間は動物を食べたり、檻の中に入れたり、酷いことばかりしてるね。」




 というと、お母さんは優しく私に微笑みかけたが、特に何も言わなかった。お母さんが、




「りっちゃんが見たものは、youtubeとかで動画がいくつかあるみたいよ、戦争中の不思議な体験で。りっちゃん、それをどこかで見たの?」




と聞かれたので、えー。と思い、




「見たことないよ。だってお父さんとお母さんとしかyoutube見ないし。」




そういうと、お母さんは「そう・・。」と言ってため息をついた。

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