第10話 夢に現れた人。その後、歌が、声が、聞こえる。

 私たち家族は、夜ご飯を食べながら歴史のクイズ番組をよく見ていた。今回は日本三大怨霊というテーマだった。何のことは無い、面白おかしく、大袈裟にしてクイズ番組にしているような内容だった。私はその番組の中で、


「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」という歌には聞き覚えがあった。


 小学校では、百人一首を覚えさせられていた。いろいろな歌のその意味を先生が説明してくれた時、こんな綺麗な歌を、男の人が詠んだりするんだな・・。と、とても心に残ったのが、崇徳上皇様の歌だった。


 何となくクイズ番組を見ていたが、怖い顔をしたその人が、空を睨んでいる絵は、その歌の印象とはかなりかけ離れたものだった。私はふと思った。


「本当にこんなに怖かったのかなぁ。この上皇様はどんな人だったんだろう。」


 とても気になったので、その上皇様の事を解説した本を、数日後、お母さんにお願いして買ってもらった。でも、途中で読むのをやめてしまった。何故か、「怨霊」という言葉がしっくりこなかったからだ。


 ある日、私は家でまったりと過ごしながら、その上皇様の本を読んでいた。


「どんな人だったんだろう。気になるなー。」と思っていると、急に眠くなって眠ってしまった。


 そうすると、私はすぐに夢を見ていたようで、後ろから強い光が射していて、逆光で顔が暗くてよく見えない、男の人が私にこう言った。


 「あのお方は、太陽のような言葉を話す方でした。」その言葉を聞くとすぐに、私はぱっと目が覚めた。


「今の人は誰だろう。」


 私はとても不思議な気分になった、五月人形の兜には、右と左に大きな飾りがあるけれど、その男の人は、その部分が無い兜のような、帽子のようなものを頭に被っていた。


 そんな不思議なことがあるものだから、私はますます、上皇様の事が気になった。本を詳しく読むと、京都に御霊みたまを移したとあったので、夏休みに丁度、京都に行くことだし、絶対にお参りに行ってこようと強く思った。


 また別のある日、家族で車で出かけた帰り道はとても綺麗な夕焼けで、遠くの山々がオレンジ色の夕日の光と一緒になって、物凄く幻想的な、薄いオレンジ色の水墨画のような景色になった。その景色に見とれていると、


「うおおおおおおーーー。」と、高いような低いような、よく聞こえる響く声が聞こえてきた。私はびっくりして、


「これ何の声?お父さん、ラジオの音大きいよ!」と言うと、お父さんは呆れた声で、


「何もつけてないし、何も聞こえていないよ。」と言った。私はびっくりして、


「え?だって、男の人の声聞こえるでしょ?」と聞いてみると、お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、「そんな声聞こえないよ。」と口をそろえて言う。


 私は「えー。」と言いつつも、その声に耳を傾けてみた。



 連なった山々の、この夕焼けの眺めは、かつて私がいた場所に似ている。


 山の重なり方によって、濃くなり淡くなる美しい柿色の色合いが、


 あまりにも美しいので私の心を強く動かした。


 帰りたいあの場所には帰ることが出来ないが、この景色は私の心を美しく染め、


 私を優しく慰めてくれる。


 天野浮舟が私を乗せ、私をあの夕日の中に連れて行ってほしい。



 夕日がだんんだん暗くなってくると、声は聞こえなくなり、何も無かったかのような藍色の空の、見慣れた街並みになった。私は本当に不思議な気持ちでいっぱいになった。


 家の前に着くと、お父さんとお母さんとお姉ちゃんが車から降りて来て、三人が同時に私の顔を覗き込むように聞いて来た。


「何?どうしたの?何か聞こえたの?」私は、聞こえてきた声と歌をそのまま伝えた。


 お姉ちゃんは、「えー。何も聞こえなかったし。でも、そんなことってあるんだね。」と、肩を窄めた。



 確か本に書いてあった、京都で上皇様の御霊が帰られた場所は、白峯神宮だったと思う。私は、「絶対に白峯神宮に行く!」と気合を入れて、夏休みの計画を練った

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