第8話 叔母さんの親族に囲まれて その2
「お坊様。」と私が言うと、お母さんが私に、「住職様と呼びなさい。」と言った。私は肩を窄めた。
「住職様。この男の人はもう無くなっています。森の奥のようなところです。」そう言うと、その住職様の奥さんらしき人が、「ああ・・。やっぱり。やっぱり樹海に行ってしまったのね。」そう言って泣き崩れてしまった。
多分、お母さんは怒って私を見ているだろう。はっきり言ってしまったからだ。でも、私は浮かんでくることを急いで話していく。なぜ、こんなに震えるような思いで、急いで喋らないといけないのか、自分ではよくわかっていない。
「この男の人は、普通の学校に行きたかったんでしょう?でもダメだって言われて、お坊様にはなりたくなかったみたい。でも、住職様の言うことを聞いてあげたいけど、自分の夢を諦めるのがとても辛くて、ご飯も食べれないくらい辛くなって、自分で森の奥に向かったみたいなの。」私は涙が出てきた。
「でもね、今はとても後悔していて、本当に後悔していて、僕を早く見つけてほしいって。」
そう言うと、住職様は私の前に座り込み、両手を強く握りしめて泣き始めた。
「そんなに嫌だったのか。そんなに嫌ならなぜもっと言ってくれなかったんだ。こんなことになるくらいなら・・。」
私は、「まだ見つかっていないんですよね?」と言うと、
「でも、手紙が届いているんだ。樹海に行くと。探さないでほしいと。遠くに行きたいと・・・・。樹海に行くと言ったらもうそういうことだ。息子は死にに行ったんだ。幸せにできると思ったのに、そのためになら、何でもしてあげれたのに・・。」
そう言って、床に頭を何度も叩きつけている住職様を見て、私は急いで駆け寄り、それを止めた。
「住職様、やめてください。まだあるんです。このままだと、娘さんが大きな事故に遭います。住んでいるところに、竹藪があるでしょう?そこに、小さなお地蔵様やお墓が沢山埋まっています。その人たちが、住職様に自分たちを早く安らかにしてほしいんだって。それをしないと、娘さんが事故に遭います。」
そう言うと、近くに座っていた住職様の娘さんが、
「私?!わぁ、怖い。気を付けないと・・。」そういうと何とも複雑な顔で、その娘さんは私に話しかけてきた。
「お兄ちゃんはね、自分がお父さんやお母さんに大事にされてることは良く分かってたみたいなの。でもね、どうしても映画関係の会社に就職して、映画に関わる仕事をずっとしたかったみたいなの。家業も大切だけど、諦めきれないで本当に悩んでいたの。」そう言って娘さんも泣き出してしまった。
今度は住職様は私に強い口調で、「そんな物は無いぞ!何かの間違いだ!」と言い出した。
お母さんのお友達の叔母さんと、住職様の奥さんは、この人はもう・・・。というような呆れた表情で、「子供にそんないい方しないんですよ!」と怒り出した。
私は何故か、早く知らせないといけないと思い、「今から行ってみるとわかるよ。」と言って、隣の敷地の、竹藪の中を歩いて行った。みんなぞろぞろ付いて来た。私は竹を何本かまとめて両手で束ねると、それを持ち上げてどかした。そうすると、土に半分埋まっているお地蔵様と、お墓のような四角い石が出てきた。
住職様は、「なんだと!!」ととても驚いていた。私は話し始める。
「これはもう何十年もこのままほったらかしにされた物です。住職様にみんな助けを求めています。死んだ人の思いは、生きている人間には、逆の働きをしてしまうみたいで、助けを求める気持ちが、家族の不幸を招いているんです。急いでここを綺麗に整えてあげてください。そして、安らかになってもらえるように、何度も祈ってあげてください。それを急いでしないと、娘さんが大きな事故に遭います。ですから、必ずそうしてください。」
そう言うと、住職様は少し嫌そうにして、「わかった。」と一言答えた。
その後、今日集まっていた人は皆が、「利津子ちゃんはすごいね。」という話になっていた。お婆ちゃんが私に言う。
「今度、京都に来てみない?丁度夏休みでしょう?交通費も出すわよ。是非来てね。」と言われた。
私は嫌とは言えず、「はい。分かりました。」と答えた。お母さんがとても大きな目をして私を見て、目をぱちぱちとさせていた。勝手に返事をしてはいけなかったのかな。
私はやっとケーキだけ食べる事ができた。もう夕方で、もうすぐお父さんが帰って来るからと、お母さんが申し訳なさそうに帰ることを告げると、皆さん、「時間がたつのは早いわねぇ。」と言って、また経過を連絡すると私とお母さんに言って、お見送りをしてくれた。
大きな門の前に、10人近い人がお見送りをしてくれている。私はとても不思議な気持ちになった。
後日、樹海で住職様の息子さんの死体が見つかった。
お婆さんの孫娘さんのおなかの赤ちゃんは、女の子だとわかったと連絡があった。
そしてまた一週間くらいした後、住職様の娘さんが交通事故に遭ったと連絡が入った。私はその知らせを受けたときに、その場に座り込んで震えてしまった。一命をとりとめたとのことなので、私とお母さんは急いで病院にお見舞いに行った。
娘さんは両足にギブスをして、両足が吊るされて重傷だった。私は、そばで付き添いをしている住職様の奥さんに、「あれから住職様は何もしなかったのでしょう?」と聞くと、住職様の奥さんが私にこう言った。
「その通りよ。」少し怒っているかのように叔母さんは顔をしかめた。
「でも今、急いで、できるだけの人をかき集めて、あの場所を綺麗にしているところよ。」そう言うと、叔母さんは私の手を取って続けた。
「利津子ちゃん、本当に私たちに話してくれてありがとう。娘は、事故に遭うって言われていたから、大きなトラックが突っ込んできたときに、これだ!って思って、急ブレーキをすぐに踏んだそうよ。そのおかげで、命は助かったわ。骨折も両足だけだったわ。顔も頭も問題ないし、本当に助けられたわ。警察の人が、奇跡だって。トラックも、娘の車も、グシャグシャなの。娘は利津子ちゃんのおかげで、元気で生きているの。ありがとう。」
そう言って、また住職様の奥さんは泣き始めた。
私も大泣きした。娘さんも泣いていた。お母さんも泣いていた。
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