長万部 三郎太

電話の相手に

「指定された時刻まで、あと30分……」



先ほどから何度時計を確認すれば気が済むのだろう。

わたしは逸る気持ちを押さえられず、自問自答しながらもまた腕時計を見つめた。


路肩に停めた車の中で、わたしは娘のことばかり考えていた。


娘は……。

娘は今頃どうしているのだろうか。無事なのか。お腹を空かせていないか。

怖い思いをしていないのか。


ふと気になって、カバンの中に入れたお金を確認する。

電話の相手に言われたとおりの額は揃っている。不足はないはずだ。


「まずは落ち着いて。そして、目立つ動きはしないでください」


いつだったか、TVに出ていたベテラン刑事がそのようなことを言っていた気がする。しかし、実際その状況下に置かれなければ、到底理解できるものではない。


わたしは押し寄せる不安感をある種の怒りに変え、耐え忍んだ。


無事に娘を迎え入れたら、大好きなケーキを望むだけ与えよう。

頑張ったぶん、欲しがっていたぬいぐるみもプレゼントだ。


娘が戻ってきたら……。


その時、スマホのアラームが鳴った。指定された時間になったのだ。



わたしは意を決して建物の中に入ると、お金を取り出し入り口にいる関係者らしき人に話しかけた。




「預かり保育、半日コースをお願いしていた長万部です。

 娘を迎えに来ました」





(ウチの子は無事なんだろうな?シリーズ『娘』 おわり)

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長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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