第20話 ザ・決闘!
「お前、ダンジョン内での決闘をしたことは?」
「いいや、ない」
あれから少しして。ダンジョンの中でも拓けたところに移動した俺と武井は、門下生と菜々華に囲まれて向かい合っていた。
何をするかと言えば、当然ガチンコ対決だ。
俺から望んだことじゃないけど、武井を煽ったのは事実だし、華神一刀流じゃあ物事の是非を決める手段としてはよくあるらしい。発想が武士のそれなんだよな。
「そう難しいものじゃない。どちらかが参ったと言えば終わりだ」
「言わなかったら?」
「言いたくなる。手の一つでも斬り落とされれば、嫌でもな」
そう言って武井がするりと抜いたのは、一振りの日本刀。
モンスター由来の素材を使っており、切れ味は確かだ。
「俺を殺したら、シルバー・サムライががっかりすると思うが」
「殺しはしない。再生治療薬も用意してある、安心してあの人の前で無様を晒すといい」
ちなみに門下生も菜々華も、どちらも両方とも応援していない。彼女達にとって、決闘はエンターテインメントではなく、真剣な取り決めである証ってわけか。
“頃せ頃せ頃せ”
“RKが氏にます”
“ネイバーキモいから倒して”
まあ、配信を続けている以上、コメントはこの盛り上がりようなんだが。
俺が小さくため息をつくと、一歩前に出た門下生の一人が手を掲げた。
「――では、両者向かい合って……
そして、格闘マンガで聞いた掛け声とともに、戦いの火ぶたが切って落とされた。
先手を取ったのは、俺に向かって突進してくる武井の方だ。
「ちぇえええいっ!」
大ぶりで速い攻撃は確かに脅威だが、俺の体を乗っ取ったライドがさらりとかわす。
門下生達の中からもざわめきの声が上がり、武井が舌打ちをして連撃を繰り出してくる。当然、ライドならあっさりとかわせる。
“やばっ”
“ギリギリでかわすのすこ”
武井には見えてないけど、コメントもどちらかと言えば俺を応援してくれてるぞ。
「ふんっ! この、猪口才なっ!」
というか、こいつには今、俺以外の何も見えてないみたいだ。
「回避しか能のない男が、
乱暴に薙がれた刀の振り抜きざまに、こんなことまで言ってのけるんだから。
この男は、菜々華が襲われた時、モンスターがいると知っていたんだ。
モンスターを用意するのも、決闘と同じくらい珍しくない。
というのも、一部のダンジョンではモンスターを使役して戦わせる競技があるくらいなんだからな。そいつらを小さくして、安全に運ぶスキルも買えるんだぜ。
ただ、それには資格や試験をパスする必要がある。普通の人間じゃ所有できない。
――非合法な組織なら、ともかくだが。
「……あそこに、お前もいたのか?」
「余計なことを、喋るんじゃないっ!」
喋ったのはお前だろって言ってやりたいが、目が血走ってる武井に余計な言葉をかけると、今度こそヤバそうだ。今のところ攻撃は回避できてるけども。
ただ、こうも連続で斬りかかってくると、反撃のチャンスを見出せないようだ。
ライドがさっきから、回避に徹してるのがその証拠だ。
「どうする、ライド! このままへばっちまう前に、反撃しないと!」
俺がそう言うと、ライドはさらりと答えた。
『反撃も何も――とうの昔に、彼の攻撃はすべて解析できているが?』
思わず俺がずっこけそうな、とんでもない返事だった。
「え!? じゃあなんで反撃しないんだよ!」
『あっさり勝ってしまっては、盛り上がらないだろう。僕達が窮地に陥ったところを、カウンターで倒す。これが動画を白熱させるコツだよ』
確かにシルバー・サムライの生配信は、同接数もすさまじい勢いになっているし、この調子なら『RKの目指せ登録者100万人』の人気もうなぎ上りだろうな。
けど、やるならせめて他のところでやってくれ。
「こんな時まで取れ高のことなんて気にするなよ! やれるならさっさとやるぞ!」
『もう少し引っ張りたかったが……そういうなら仕方ない』
残念そうな声と共に、ライドが俺の拳を握り締めた。
つまり、調子に乗って乱暴な太刀筋を振るう武井を倒せる証拠だ。
「これで終わりだ、あの人に近寄る害虫め――」
とうとう自分の欲望を隠しすらしなくなった武井が、武士とは程遠い斬撃を振るった。
「――終わるのはお前だよ」
「な、にっ?」
もっとも、そんなものに当たってやる必要はない。
さっとかがんだ俺は、ノーガードの顎めがけて――。
「行くぜ、ライド!」
『やってやれ、黒鋼!』
全力のアッパーカットを、叩き込んだ。
「かっ……!?」
がくん、と武井の頭が揺れた。
意識は途絶えてないところを見るに、やっぱり華神一刀流で鍛えてるってのは伊達じゃないな。
なら、もう数発。
「ぐごっ! ぶっ! がぁっ!?」
掌底。腹部へのブロー。裏拳。
「これで、終わりだっ!」
「うがあぁっ!」
そしてとどめの――回し蹴り。
地面を何度かバウンスするほどの衝撃で吹き飛ばされた武井は、顔を突っ伏したまま動かなくなった。
こき、と俺が指を鳴らすのと同時に、ダンジョンの静寂が破られた。
「そこまでっ! この勝負――RKの勝利!」
あくまでフェアな審判である門下生の一人の宣言で、あっさりと決闘は終わったんだ。
ライド頼りだったとはいえ、とりあえずこれでピンチは切り抜けられたってわけだ。
「ナイスだったぜ、ライド。勝てたのはお前のおかげだ」
『君も貴重な情報を聞き出した。見事だったぞ、黒鋼』
俺はライドと拳を合わせるように、両の拳を軽くぶつけた。
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