国木田明衣子の鉄則 〜留年寸前僕、陰キャ美女たちとイチャイチャ幽霊退治してたら世界を救う羽目になる。~
伊矢祖レナ
第一章 陰キャ男子は留年する。
第1話 人生は理不尽で、
――僕は今、美少女JK三人とともに、夜の旧校舎を全力疾走している。
後ろには、学校の怪談に出てくるような怪異たちを引き連れて。
JKのほうは、ひとりは走りながらスマホを正確に打ち、ひとりは自分より大きなリュックを背負い、ひとりは原始人みたいに布一枚しか纏っていない。
理解不能なパーティーメンバーだ。
廊下はびしょ濡れで、ところどころには異様に薄くて長いゴム風船が縮れた状態で落ちている。
なんでそんな奇っ怪な状況になっているのか?
こっちが聞きたい。
こっちが聞きたいけど、この深夜の大騒動に僕が巻き込まれた理由だけにフォーカスするなら、原因は今年の六月にさかのぼる。
暗い暗い、梅雨の時期だった――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
僕が人生の理不尽さを初めて知ったのは、幼稚園のたんぽぽ組さんのときだ。
お昼休みの園庭で。
幼児用の小さなサッカーボールを手に持ち、すみれ組さんの陽キャたちに、
「はんどだ! はんどだ!」
と一斉に責め立てられていた僕は、そもそもゲームの参加者ではなく、ただの通行人だった。
僕は、庭の隅でいつものようにひとりで遊んでいたら、ボールが転がってきたので、渡してあげようとしただけである。
それなのに、突然ハンドという重罪を負わされ、一発レッドで強制退場させられたのだ。
あの時の悲しみたるや……
そもそも線も引かずにフィールドを主張していることや、園庭はお前たちのもんじゃねぇよという憤りもさることながら、それが口に出せない弱い自分への不甲斐なさが、幼い僕に襲い掛かった。
僕はそのときのことを、高二の今でも思い出してしまい、悶絶するのである。
理不尽なことは、他にもある。
小学校の頃だ。
給食は全て食べるのがよろしいと考える、まぁ古臭い哲学をお持ちの教師がいて、食べるのが遅い僕は、昼休みはおろか、掃除の時間にまで給食を食べさせられていた。
みんなが机を後ろに寄せているというのに、たった一人ご飯を口に運び続けることの異様な羞恥、埃舞い散る中で食べる汁物のまずさは、筆舌に尽くしがたい。
他にも、クラスメートにどもりを強調されて真似されるつらさも、運動会で『最後の人頑張ってください』なんていう、余計なお世話アナウンスで衆目を浴びる屈辱も、隣の席の子のシャーペンを拾ってあげたら『触らないで!』と取り返される切なさも、すべて経験済みだ。
そんなエピソードが、ゆうに数万個はある。
僕の十七年の人生は、そういう惨めな記憶ばかりでできていて。
それらの経験を踏まえて覚えた教訓はひとつ。
『この世界で生きるのは、陰キャには向いてない』
ということだ。
――曇りガラスの向こうに思い出す嫌な記憶たち。
低気圧の日は、よくダークサイドに引っ張られる。
薬を変えてもらった方がいいだろうか……
高校二年の梅雨の放課後。
久しぶりに来た教室。
僕の目の前で何がしかを話している担任の声が、やけに遠くに聞こえる。
偏差値高めの私立なら、世界で一番醜い序列ことクラスカーストも少しはマシになるのでは、なーんて思って頑張って勉強して入った高校だったが……
結局クラスには馴染めず、部活にも入れず、居場所がないまま二年になった。
学校が、集団生活が、社会生活そのものが、僕を拒絶しているようだ。
クラスも、担任も、学校も嫌い。
社会も、世の中も、人間も嫌い。
そんなことを思う、僕自身も嫌い。
全部、全部、全部……嫌いだ……
「それならそれでいいが……陰野、このままじゃ出席日数足りないぞ」
急に現実的な言葉が、僕の耳に入ってきた。
「……はい?」
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