絶対攻略不可能?最強魔王城

ソーマ

この魔王、絶対倒せない!?

「……ついにここまで来たな」


巨大な扉を前に、一人の青年が呟く。

彼の名前はジーク。とある冒険者パーティーのリーダーを務める剣士だ。


「この扉の向こうに、魔王がいるのね」


ジークの隣に立っている少女が扉を睨みながら言う。

彼女の名前はシーラ。ジークと同郷の魔法使いだ。

ジークが冒険者として名を上げる為に故郷を旅立つ時、『世間知らずのアンタ一人で旅立ったら不安しかないから一緒に行ってあげる!』と言って勝手に着いてきたのだ。

『なんでお前が……』と憎まれ口を叩くジークであったが、一番近くで見てきた彼女の魔法の腕は信頼できる。

シーラもシーラで、長年一緒に過ごしてきたジークの事は信頼している。

ジークが冒険者になる為に毎日欠かさず剣の稽古をしてきた事を知っているのはシーラだけだ。


「へっ、いかにもって感じの扉だな。扉だけでも威圧感がハンパねぇや」


ジークとシーラの少し後ろに立っているのは隻眼の大男、グランだ。

ジークとシーラが冒険者としてはまだ未熟だった頃、初めての依頼で指南役として同行してくれてからの縁で、今はこうして一緒のパーティーを組むようになっている。

その剛腕から繰り出される大剣での破壊力と熟練の冒険者としての知識には何度も窮地を救ってもらった。

ジークとシーラにとってグランはとても頼りになる兄貴分だ。


「でも、今のアタシ達ならきっと攻略できるよ! 魔王を倒し、世界に平和を取り戻そっ!」


パーティー最後尾にいるのは、身軽な服装と弓を背負った少女、シルフィアだ。

彼女はジーク達が中堅冒険者として名を上げ始めた頃、盗賊討伐の依頼で制圧した洞窟の奥底で捕らえられていたのを助けた時から一緒のパーティーで冒険している。

余程酷い目に遭わされたのか、当時は酷く怯えた様子で、助けたジーク達からも逃げ出そうとする有様だった。

特にグランが近寄ろうとしただけで腰を抜かしてしまっていたのだが、今はそれを自分で笑い話にできるほど明るい少女になった。


「おいおい目的を間違えるなよシルフィア。今回の依頼は制圧じゃねぇ。数多くの冒険者や傭兵、果ては各国の騎士団までもが攻略に失敗したこの城の実態の調査だ」

「ぎゃあ出たー! 海坊主!!」

「誰が海坊主だクラァ!!」

「きゃー! グランが怒ったーっ♪」


今ではグランに一番懐いてすらいる。

シルフィアがグランをからかい、グランが怒って逃げるシルフィアを追いかけ回す。

このパーティーではお馴染みの光景だ。

別にグランも本気で怒っている訳では無く、このやり取りを楽しんでいる節がある。


「……シルフィアも明るい子になったよな」

「そうね……洞窟の奥で捕まってた時は酷い有様だったものね……」

「そーそー全裸で手を鎖に繋がれて全身舐め回されるってどんなプレイなのよ。一体こんなつるぺたボディの何が良いんだか」


ジークとシーラの話を聞いていたのか、シルフィアが割って入ってくる。


「まー舐め回しただけで満足してたのかそれで済んでたのが救いだったねー」

「あー……盗賊行為よりそっち方面の罪状の方が重かったなそう言えば」

「盗賊集団と言うよりは特殊性癖集団だったわね、アレは」

「そういやシーラにもアイツら目の色変えて襲いかかってきたけど……」

「ち、違うわよ!? シルフィアと違って私はちゃんと出るとこ出てるわよ!!」


そう言って胸を張るシーラ。だが……


「……なぁ、グラン?」

「言ってやるな。それも優しさだ」

「そんな優しさいらないわよっ!! 言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!」

「シルフィアと大して変わらなぶへぇっ!!?」


言い終わる前にシーラ愛用の杖がジークの横っ面にヒットした。


「な、何すんだよ!?」

「ジークがデリカシーの欠片も無いこと言おうとするからでしょっ!?」

「言いたいことがあるなら言えって言ったのはシーラだろ!?」

「……コイツらも変わんねぇなぁ」

「もう付き合っちゃいなよー」

「「だ、誰がこんな奴とっ!!?」」


一字一句ズレずにハモるジークとシーラ。


「ほら、そういうとこだよー」

「ったく、なんでいつもいつも緊張感が無いんだろうなウチは」

「でもアタシ、このパーティーのこういうノリ大好きだよ?」

「まっ、それについては同意見だ。変に緊張してギスギスするよりは何倍もマシだ。でもそろそろ気を引き締めて行こうぜ」


そう言って大剣を構えるグラン。

シルフィアも背負っていた弓を構える。


「……そうね。この城に入ってから魔力温存の為に戦闘は徹底的に避けてきたから、全力全開で行けるわよ」

「ああ、シーラの魔法はいつも世話になってる。今回も頼むぞ」

「まっかせなさい!」

「弓と支援魔法はアタシに任せて!」

「俺がいる限りシーラとシルフィアには絶対に手出しはさせねぇ。だからジーク、お前はいつも通り前線を頼むぞ」

「ああ…………じゃあ、行くぞっ!!」


ジークの合図と同時に扉を開け放つ!

扉の向こうは、如何にも魔王城の玉座の間といった感じの禍々しい玉座と無駄に高級そうな絨毯、そしておどろおどろしいビロードが飾られて……なかった。


「あ、あれっ?」

「えぇっ?」

「むっ!?」

「へっ?」


想像とは全く違う光景にそれぞれおかしな声を上げる4人。

目の前に広がっているのはごく普通の一般的な民家の居間のような空間だった。

ジークの知ってる物との大きな違いと言えば、床は木ではなく、何かの草を編んだかのような板が敷き詰められている事だ。


「これは……タタミ、か?」

「知ってるのかグラン?」

「確か東の方の国の一般的な住居の床に使われているもの……だったと思う。俺も実物を見た事はこれが初めてだ」

「不思議な匂いがするわね」

「アタシは嫌いじゃないなー。なんか落ち着く」

「あれー、お客さん? いらっしゃーい」

「!? 誰だっ!!」


パーティーメンバー以外の声が聞こえてきたことで、ジーク達は気を引き締め直して戦闘態勢を取る。

声の発生源からは、闇よりも暗いローブに禍々しいオーラを放ち、頭には人間ではないことを示す角を生やした魔王の姿が……無かった。

そこに居たのは、クセの強い銀髪を背中まで伸ばし、田舎の村娘が着てても全く違和感が無い普通の布の服を着ている幼女だった。

もちろん角も生えていない。

幼女は机に布団を被せたような物に足を突っ込み、机に頭を乗せて非常にだらけた格好のままジーク達を見つめている。


「え……ホントに誰?」


あまりにも緊張感の無い格好に、ジーク達の戦闘の意志は一気に削がれてしまった。


「人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀だよー?」


体勢を変えないまま幼女が頬を膨らませて抗議する。


「……え?あ、あぁ……俺は、ジーク」

「シーラ、よ」

「……グランだ」

「シルフィアだよー!」


毒気を抜かれたジーク達はついつい自己紹介してしまう。

シルフィアだけはいつも通りだが。

それを聞いた幼女は満足気に頷いた。


「うんっ! よく出来ました! じゃあ今度はわたしの番だねっ」


そう言って幼女は顔を上げて立ち上がる。


「わたしはマオ! ホントはもっと長い名前なんだけど、人間には発音できない文字とか入ってるし、何よりめんどくさいからマオで良いよ!!」


腰に手を当てて仁王立ちで名乗る幼女改めマオ。


「『人間には』って……」

「うんっ! わたしは人間じゃないよ。こことは違う、魔界って所の生まれだよ」

「という事は、やはりお前は魔王……!」


マオの話を聞いたジークが再び戦闘態勢に入ろうとするが……


「ちょっとー! マオーじゃなくてマオ! ちゃんと覚えてよ! せっかく分かりやすく短くしてあげたんだから!」


そう言ってまた頬を膨らませるマオ。


「……え?」

「わたしはマオ! 伸ばさないでちゃんと短く切って!」

「……ご、ごめんなさい……」


ぷんすかという言葉が物凄く似合う怒り方で怒るマオに、つい頭を下げて謝るジーク。


「……うん、すぐに謝れるのは良い事だと思うよっ!」


そう言ってにっこりと笑うマオ。

だが次の瞬間、シーラの顔に緊張が走る。


「……! 皆、見た目に騙されちゃダメ! コイツの中からとんでもない魔力の圧を感じる……!」


シーラが頬に冷や汗をかきながら杖を構える。


「……へぇ、人間にもそういうのが分かる子がいるんだ」


シーラの言葉を聞いたマオが不敵に笑い、人差し指を立てる。

その指先に小さな光が灯る。

その光は一瞬の間を置いて、超高速でグランの顔に衝突した!


「ぐあぁぁっ!!?」

「グランっ!?」

「嘘……全く見えなかった……」

「グランっ! 大丈夫っ!?」

「目が……目が……」

「目……? 貴様っ! グランに何をした!?」


ジークがマオを睨みつける。


「……シーラちゃんの言う通り、わたしは魔界でも指折りの魔力を持ってるの。シーラちゃんの魔力を100としたら、わたしは500万位かな」

「そ、そんな……私の5万倍……!?」


あまりにも大きな差に愕然とするシーラ。


「ただねぇ……回復系特化なんだよ、わたし」

「………………は?」


だが続けて出てきたマオの言葉に今度は唖然とするシーラ。


「回復系なら治癒・解呪・欠損部位の再生・蘇生何でもござれなんだけどねぇ……炎の魔法なんて全魔力を注ぎ込んでも焚き火の火種にもなりゃしないんだよ」

「えぇ……」

「じ、じゃあさっきグランにやったのは何なんだよ!?」


ジークはさっきからうずくまっているグランを指さして糾弾する。だが……


「目が……見える……?」

「え?」


グランの呟いた言葉にジークは間の抜けた声を出してしまった。

グランの方を見ると、今まで大きな傷を受けて機能しなくなっていた右目が物を映している。

それどころか、その大きな傷痕すら綺麗に消えていたのだ。


「言ったでしょー? わたしの魔法は回復系特化だって。それくらいの傷を治すなんて朝飯前だよっ!」


ドヤ顔でふんぞり返るマオ。


「ジーク……この子、なんか凄く人畜無害な感じしない?」


シーラがこっそりジークに耳打ちしてくる。


「……いや、今まで幾つもの冒険者パーティーや傭兵団、騎士団までもが攻略に失敗してるんだ。油断は出来ない」


ジークは気を引き締め直す。


「なぁ、マオ……」

「んー? 何かな?」

「どうしてお前は人間界に来たんだ?」

「あー、それなんだけどね。元々わたしが住んでた所が魔界政府の開発予定地になってねぇ。立ち退きを依頼されたんだよね。もちろん立ち退き料はたっぷり貰ったから、せっかくだし別世界に居を構えるのも良いかなーって思った訳」

「た、ただの気まぐれ!? 人間界を征服とかは……」

「はぁ? 何ソレ? そんなの全く興味無いよ」

「今までここの制圧に来た冒険者とかは……」

「あー、何人か来たねぇ。国のためーとか依頼だからーとか言って寄って集って襲って来たよ」

「想像したらスッゲェヤベェ絵面だな……」


武装した大人が集団で幼女に暴行……

グランの言う通り、かなりヤバい光景だ。


「でもね、言ったでしょ? わたし回復魔法なら最強だから。いくら攻撃されても瞬時に全快するんだよ」

「うわぁこれは酷い無間地獄」

「しかもわたしは疲労も回復するからね。向こうの物資が尽きたー、とか疲労が限界だー、とかで帰っちゃうんだよ」

「そりゃそんなの正直に報告出来るわけ無いわな……」


総力を持って幼女一人をボコったけど倒せなかったのでしっぽ巻いて逃げました、とは確かに報告できない。

そんな事したらプライドズッタズタである。

まだ依頼達成できませんでしたの方が世間体は悪くならないだろう。


「後、このお城に住んでる人は非戦闘員ばかりだからねー。侵入者を見かけても近寄らない様に言い聞かせてるんだよ。これだけ敵意無いアピールしてるのに何で次から次へと武力投入してくるかなー?」

「あ、言われてみれば城での戦闘は全く無かったっけ……」


この城に来るまでは魔物との戦闘も何度かあったのだが、城に入ってからは全く無かったのを思い出したジーク。

シーラの魔力温存の為に都合が良かったので気にしてなかったが……


「え? じゃあ私達が戦闘を避けたんじゃなくて、避けられてた……?」

「でも、トラップは山のようにあったぞ! それで敵意が無いとは言えんだろ」


グランの言う通り戦闘こそ無かったものの、トラップは幾つも仕掛けられていた。

グランの経験とシルフィアの不思議と良く当たる勘で上手く回避出来ていたが、これで敵意が無いとは……


「普通さ、自分の家に防犯設備の設置位すると思うけど?」

「……あ、確かに」


言えた。


「……じゃあ、マオはホントに人畜無害で、ただ単に引っ越してきただけ……ってのが真相なのか……」

「……なんかすっごい拍子抜けしちゃったわね。もう帰ろっか?」

「一応俺たちへの依頼は調査だけだから、これでも達成って言えるしな」

「じゃーねー、マオちゃん」


そう言ってジーク達は帰ろうとしたのだが……


「えー、もう帰っちゃうのー? もうちょっとゆっくりしていかない? 一緒にコタツでぬくぬくしようよー」


マオに引き止められた。


「……コタツ?」

「うん、さっきまでわたしが入ってたコレ。暖かくて落ち着くんだよね」


そう言って再びコタツに潜るマオ。


「……はぁ〜、やっぱ冬はコレに限るね〜」


マオは再び机の上に頭を乗せ、完全リラックスモードだ。


「ねーねージーク! せっかくだしちょっと休憩してからにしようよ! マオちゃんもああ言ってる事だしさ!」


シルフィアが早速コタツに向かって駆け出した。


「あ、一応靴は脱いでね」

「はーい」


マオの言うことに従い、靴を脱いでコタツに入るシルフィア。


「……あ、コレすっごく気持ちいい〜」


そしてマオと同じように蕩けた顔をして机の上に頭を乗せた。


「でしょー?」

「シーラもおいでよー」

「そ、そんなに気持ちいいの……?」


シルフィアに誘われ、シーラもフラフラとコタツに吸い寄せられていく。

そして靴を脱ぎ、シルフィアの隣に入った。


「……何コレ、なにこれ〜〜…………」


そして蕩けた。


「ほらー、ジークちゃんとグランちゃんもおいでよー。まだスペースに余裕あるからさー」

「……ど、どうするグラン?」

「シーラとシルフィアがああなっている以上、放っては行けんだろ……」


結局ジークとグランもコタツに入ることを選んだ。


「へへー、じゃあ皆揃ったところで、はいコレ!」


そう言ってマオは何か果物っぽいものを真ん中に置いた。


「……コレは?」

「魔界で採れた果物だよ! カンミって言うんだけどね、コタツに入って食べるとたまらなく美味しいんだよー」

「魔界の果物……? 大丈夫なのかしら」

「大丈夫だよー、生き物に害は無いから。それにわたしの魔力を込めてるから、健康になってムキムキボディになれるよ!」

「えっ……ムキムキはちょっと……」

「アタシも……グランみたいになるのは……」

「どういう意味だクラァ!」

「ちなみに女の子が食べた場合はムチムチのボインボインになるよ?」

「「いただきます!!」」


マオの言葉に反応したシーラとシルフィアが光の速さでカンミを掴んで食べる。


「「おいし〜〜〜〜!!」」


そして揃って歓声を上げた。


「二人も食べなよ。大丈夫、ムキムキって言ってもあくまでも健康的な範囲でだから」

「あ、ああ……」

「じゃあ、ひとつだけ……」


そう言ってジークとグランもカンミを取って食べる。

口にしたと同時に程良い酸味と甘みが口の中に広がる。

そして爽やかな風味が全身に広がり、癒してくれるような感覚が巡る。

確かにこれは美味い。


「ああ、何か癒されてる感じがする…」

「……ふっふっふっ、全員食べたね?」


全員がカンミを飲み込んだのを確認して、マオが不敵に笑う。


「!?」

「わたしの魔力が籠ったカンミを食べた。それはわたしと契約したって事!」

「な、なんですって!」

「これでジークちゃん達はわたしの命令に従わなければならなくなったのだ!!」

「なっ……!?」


迂闊だったとジークは今更ながらに後悔した。

もっと注意を怠らず警戒するべきだった。

いくら本人が人畜無害だとしても、従える軍勢に戦力があれば脅威となりうる。


「わたしの命令、それは……!」

「っ!!」

「いつでも良いからまたここに遊びに来る事!」

「…………へ?」


しかしマオから放たれた命令に、ジーク達は耳を疑う。


「いやー、こんな僻地に城建てちゃったから、中々お客さんが来ないんだよねー」

「まぁ、確かに……」

「それに城の周りには野生の魔物もうろついてるし、そういう意味でも人が来てくれないんだよー」

「えぇ……」

「たまに来たと思ったら、人の話も聞かずに襲ってくる奴らばっかりだしさ」

「う、うーん……」

「だから、ジークちゃん達みたいな人が時々遊びに来て欲しいなって思うんだよね。ダメかな?」

「アタシは良いと思うよー!」


真っ先にそう言って手を挙げたのはシルフィアだ。


「マオちゃん良い子だし、お友達になれると思うんだ!」

「……こっち方面の依頼をこなす時の拠点としては使えるかもしれねぇな」


意外とグランも乗り気だ。


「わたしとしてはそれでも良いよ? 会いに来てくれるなら理由はどうでも良いし」

「……ジーク、どうする……?」


シーラが聞いてくる。どうやらジークの意見に従うつもりらしい。


「……別にここに来るのはいつでも良いんだよな?」

「うん、魔力感知で誰が来るかは分かるからね。ジークちゃん達が来た時はトラップも稼働しないようにしとくよ」

「だったら特にデメリットも無いし、近くに来た時は寄らせてもらうかな」

「やったね! 約束だよっ!」


ジークの了承を得たマオは、笑顔を輝かせるのであった。



依頼達成の報告を持ち帰ったジーク達は、攻略不可能と言われた謎の城の実態を掴んだ凄腕冒険者として一躍時の人となった。

どこに行っても歓迎され、町の子供たちからは冒険の話を聞かせて欲しいとせがまれる日々だ。

マオの城もジークの報告により、危険性皆無という事で調査は打ち切られた。

これでマオを襲いに行く冒険者等もいなくなる事だろう。

しかしそれは訪問者もいなくなるという事で……


「ジーク、準備できた?」


宿屋で旅立ちの準備をしていたジークに、シーラが声をかける。


「ああ、新しい装備はまだちょっと慣れないけどな」


ジーク達は全員報酬で装備を新調していた。

何故なら……


「ホントに程良くムキムキになるとは……お陰でちょっと重い装備も楽に扱えるようになったなぁ」


恐らくマオの魔力の籠ったカンミのお陰だろう。

ジークの腕は一回り程太くなったのだ。

全身引き締まったような感覚もあり、体調もすこぶる良くなった気がする。


「アンタは良いわよ、装備だけで良かったんだから。私とシルフィアは下着から全て新しいのに変えないといけなかったんだからね? 全く、予定外の出費よ……」


ブツブツと文句を言うシーラだが、顔はにやけている。

それもそのはず。つるぺたボディのシルフィアとそのシルフィアと大差の無かったはずのシーラは、マオの言葉通りムチムチのボインボインになっていたのだ。

シーラはローブなのであまり目立たないが、シルフィアは露出の多い軽装なので目のやり場に困る事態になった。

『町を歩くだけでナンパされて大変だよー』とシルフィアは文句を言っているが、顔はシーラ同様にやけていた。


「……よし、準備完了! グランは先行ったし、シルフィアは……」

「シルフィアも準備終わってるわよ。後はアンタだけ」

「そっか。で、今日の依頼は?」

「魔物の討伐依頼よ。人里に何体か出没するようになってきたからそれを退治する事。討伐が厳しそうなら魔物が寄り付かないようにしてくれれば良いらしいわ。場所は……」

「……あ、ここ、マオの城の近くだな。せっかくだし顔出してみるか」

「そうね、グランとシルフィアもきっと良いって言うわ。マオも喜ぶわよ」

「よーし、それじゃあ出発だ!」

「ええ!」


熟練冒険者となってもジーク達のやる事は変わらない。

冒険者として依頼をこなす、それだけだ。




変わった事と言えば……最近できた友達の家に遊びに行くことが増えたくらいである。

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