第3話

 「人間補助ロボットシステムair」それが初めて発売されたのは、まだ、世界が崩壊するずっと前、西暦2120年頃。それ以前までもロボットは各家庭に一台という形で普及していた。しかしairは高耐久・高性能、そして低価格を実現し瞬く間に世間へ浸透していった。


 彼女の傍らで動いているのも、初代のairだった。

 キャタピラがついており、細い腕型のアームを10本と、太い主アームが2本ついた、愛らしいデザインとは反対に本来、危険地帯での作業をするために生産された業務用のロボットであり、他のモノと違って必要最低限のコミュニケーションしか取れない。


「どう?水質」

「平常値デス、マダ移動スル必要ハアリマセン」


 新型爆弾の影響で、地球の気候やそれまでの文明が崩壊した。

 軸が反転し、実験の行われたメキシコ湾の中央が一瞬にて赤く染まり、9000度の爆風と放射能、津波、地震、噴火、異常な地盤変動によって多くの国が沈み、一瞬にして地球の人口の95%が死亡した。

 皆等しく、優秀な人間もそうでない人間も、秀逸な学者も宗教家も犯罪者も芸術家も閣僚も、そして築き上げてきた文明も――

 皆、等しく飲み込まれた。


 しかし、それまでの大戦の影響か、寸前か偶然か、逃れることができた人もいた。

 そのたった5%は、強力な地盤変動でも歪まない強固な地下シェルターや空中にいた者でその時国際宇宙ステーションにて観測を行っていた職員たちはみるみるうちにあっという間に赤く、真紅に染まっていったその光景に


『まるで一つの生命から生気が抜けていくのを目の当たりにしたかのような悍ましさを覚えた――もっと別の言い方をするなら……まるで地獄が完成したかのような恐怖を覚えた』


 と語っている。

 当然、残った5%の人間だけでこれまでのようなインフラや設備などを整えられるわけがなかった。

 そこには、有名な学者や論者、政治家等々、有識者や組織の重鎮に居座る者なども居たそうだが、結局再興できず、早々に死んでしまったらしい。

 皮肉なことに、そんな人間よりも目立った学も地位も無い平凡な人間だけが、生き抜くことができた――


 しかしながら、それから数年経った後に数万台のairがまだ壊れずに生き残っており、そのどれもが、特に耐久性にこだわった業務用だった。

 そうして、人々は散り散りに変貌してしまった地球を移動しながら生きるようになったという話だった――彼女ももう、しばらくは人と会っていない。


 最後に会ったのは確か――

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