メモリアル

@kuragenomori

第1話 きっかけとか言う未知数のもの

あの山を見て私は解像度の低い思い出を掘り返した


「今日未明、自殺と思われる40代ほどの男性が自宅と思われるアパートで発見されました」

朝起きた時、たまたま流れていたニュースを僕は気にも留めず、しおれたサランラップが覆いかぶさった朝食に手をつけていた。


母は朝早くから仕事をするために家を出ていて、

朝起きても家には自分しかいなかった。

そんな母は世間一般的に毒親と言わざるを得ない人になってしまった。


昔は近所の人にも好かれる優しい人であったが、父親との関係がトリガーとなり横暴な性格になってしまった。

 

離婚がきっかけで都会を離れ、山に囲まれた田舎でパートで働く母親と2人きりで暮らすようになった。


僕はその田舎にある高校に転校することになり、

アパートから徒歩で行けるような立地で母親も満足気であった。


そうして朝食を食べ終わり、初めての登校の日

先生から自己紹介をするように言われたため、

「木下楓です。よろしくお願いします」

と、素っ気ない挨拶で事を済ませた。


席に座った途端僕は、同級生に質問攻めに遭った。

自分の容姿のこと、転校する前の学校のこと、などなどたくさんの質問が飛び交い、頭痛がした。


なんとか頑張って返答していたが、一週間ほどすると嘘のようにその話題は消えて日常を取り戻し、僕の机は寂しくなっていた。


元々人と話すのが苦手なタイプで、できれば話すことを避けるように、本を読んだりしていた。転校する前は、親からの圧力によって、たくさんの塾に行っていたため、成績は上位で、運動もそこそこできていた。


そんなある時、いつものように自分の机に座りながら本を読んでいた時、いかにも人柄が良さそうな男がこっちに近づいてくるのが視界に入り、逃げるように席を立とうとした瞬間、

「木下くん!」という声が教室に響いた。


もちろんそんな大きな声で呼ばれてトイレに逃げ込むほどの度胸はなく、緊張で立ち尽くしてしまった。


話しかけてきた男の正体は学級委員長の倉本君だった。その時話した内容は緊張で覚えてないが、

何も部活に所属してない僕に部活勧誘の案内のパンフレットを渡してくれた。


そのパンフレットは、バスケ部、サッカー部剣道部などなど、運動部が大半を占めており、文化部は細々と最後のページに表になって載っているだけであった。


運動部のような暑苦しいところは嫌で、

何か読み書きするような部活がいいと思ったため、新聞部に入ることに決めた。


僕の主な仕事は学校であった出来事を取材班のメモを元に面白おかしく新聞にして、掲示板に貼り付けるという内容だった。


初めはあまり部活に行けていなかったが、自分の書いた新聞が好評であったため、やりがいを感じて部活に専念する生活が続いた。


転校から2ヶ月ほど経った。

僕はいつものように取材班が取ってきたメモを読んでいた時、取材班の白井日織という先輩が、

「ここ間違ってるから」

と言ってメモにマーカーで二重線を引いた。


部長である白井先輩のメモで書いた新聞は着眼点が面白いと先生からの評価も良く、僕含め新聞部の中でも尊敬されていた。


もちろん僕の好評であった新聞は白井先輩が書いたメモによるものであり、仲良くなってメモの取り方を教えてもらおうかな、などと考えていたが、のちにこれが甘すぎる考えだとわかった。



もうすぐ夏休みが始まろうとする暑い日に、僕は学校で一人で残り、新聞作りに勤しんでいた。


これまでに4回ほど新聞を書いてきたこともあり、作業は慣れて筆が踊るように新聞を書いていた。


「もう6時だから雨降るし、そろそろ帰りなよ」

後ろから部室の鍵を閉めにきた白井先輩の声がした


「す、すいません、す、すぐ帰ります」

 と僕は言って、素早くペンを動かした。


「どれどれ、ん?ここ改行しないとじゃん」

と白井先輩が指摘した。


「あっ、忘れてました」

と言って訂正して、しばらく指摘をくらい、

6時半をすぎた時なんとか部室を出た。

僕は何を思ったのか、鍵を返しに行った先輩の帰りを待ち、礼をしてから校舎を離れた。


僕は友達という友達がいなかったため、自分の事を気にかけてくれる人ができてとても嬉しかった。


雲が空を隙間なく埋め尽くして少し暗くなり、今まで帰っていた道とは少し違う道で帰った。

制服がまだ慣れないながらも、少し風が強い帰り道の風景に夏を感じていた。


そして家に到着して玄関を開けた瞬間に

冷水を頭から被ったかのような気持ち悪い雰囲気が僕を襲った。


「た、ただいま」

怯えながら、微かな声で帰宅を知らせる。

リビングに入ると、お皿だった破片が床に散らばっていることに気づいた。

それと同時に嗅いだことのある悪臭が鼻を刺激した


母がお酒を飲んでいる。


自分の中の生存本能が働き、家を飛び出た。


一心不乱に家から離れることだけを考えて、上から冷たい視線が襲う中、少しずつ斑点模様になっていく道を進んでいた。


行く当てなんてものはなく、惹かれるように近くにある山に逃げ込んだ。

山に入り少し進んだ時、少し開けた土地が辺りに広がった。


カエルの声が鳴り響き、びしょ濡れになりながらもその場所を目指し、走っていった。

やっとの思いで到着し、その場所の中央部に、まるでこの村を支えているかのような大樹があった。


雨も強くなり、傘も持たず飛び出てしまった為、

大樹の安心感のある葉の下に隠れ今日はここで過ごそうかと迷っていた。


母がお酒に飲み込まれてしまったのは、父親が家を飛び出してからである。

父親の働いていた会社の汚職が発覚し、売上が大幅に下がり、見事に倒産してしまったことが原因で、喧嘩の日々が続いた。


「ここからどうするの、あんたが働かなかったら楓の学費は誰が払うの」

続けて母が問い詰める。

「それにあの子制服が気に食わないってずっと言ってるのよ、新しい制服も買ってあげなきゃ、分かってあげてよ」


父親は母親の問いに終始無言を貫き、日本酒を浴びるように飲んでいた。


その後父親は家に帰ってこなくなり、失踪した。


大樹の下に隠れてから少し経ち、雨が弱くなってきた。家に帰る気など毛頭なく、山で一晩過ごそうと思っていた時、少し前方の草むらから音が聞こえることに気づいた。

































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