第188話 星を侵し壟断す溶混弄呑SEVENth
雷鳴が途絶え静寂が戻る。
月と無数の星々が散らばる果てのない夜空。背後に伸びる水平線と、前方を覆う黒い地平線。
直前まで荒れ狂っていた雷の影響で周囲は広漠としており、普通なら開放感の一つでも覚えそうなものだが……オレにはそれでも窮屈に感じられた。
四方を壁に囲まれたかのような息苦しさ。
遥か遠くの星々も、少し腕を伸ばせば掴めるような感覚。
「不思議だよな、体格はそんな変わってねぇってのに」
声帯を震わせ疑問を呟く。
いや、それを声帯と呼んでいいかは疑問だが。
スライム時代は体表の微振動で「スラスラ」言っていたが、今はそういうのもなく声を出している。
「また一層ヘンテコな生き物になっちまったな」
今のオレの姿を表すなら、宝玉とそれを貫く二重螺旋、ということになるだろう。
天より落ちる雷の螺旋と、地より突き出す岩石の螺旋。それらが刻一刻と色味を変える七彩の宝玉で交錯し、絡み合っている。
それぞれの螺旋の先端は刃のように尖っていることから、さながら空と大地が互いに槍を突き付け合っているみてぇだ。
「…………」
「と、まずはカオスをどうにかしねぇとな」
意識を外側へ向け直す。
〔
「〔
刹那、夜空が真昼に染められた。
幾百の雷条が降り注ぎ、四方数キロメートルのカオスを悉く焼き砕いたのだ。
これこそが〔
三種の神権の内、今発動したのは第一の概念、〔雷〕。
分かりやすく破壊力に秀でた〔
「まあこれだけじゃ駄目だが」
今の攻撃は肩慣らしに過ぎねぇ。カオスを振り払いつつ眷属を始末しよう、程度のものだ。
実際、眷属は全滅させられたものの、出力は最大の半分も出しちゃいねぇ。それにカオス討伐に必須な形を定める〔
なので当然、カオスの散らされた体も瞬く間に修復していく。
いくら威力があってもこれだ。この星の神様が負けたのもこういう性質で虚を突かれたのが一因だろう。
「だからまあ、そこを解消できるなら問題はねぇはずだけど……加減ミスったら怖ぇし戦場は移すか。跳ね上げろ〔大地〕」
〖マナ〗とは似て非なる力……と言うより、〖マナ〗の原液である〔
カオスが根を張った大地が、轟音と共に空高く吹っ飛んだ。
地面とはつまり星神の体だが、だからって大地の表層が剥がれた程度じゃ何の痛痒にもならねぇ。
〔
「うっし、これで心置きなく力を振るえるぜ」
オレ自身も空へと浮かび上がり──〔
あちらは突然の浮遊体験にも動じず根を伸ばして襲おうとしてきているが、遅すぎる。
〔
行動速度も、反応速度も。
〔
カオスに向けた岩石螺旋の切っ先が、勢いよく伸びる。
黒い樹海の中心を貫いた螺旋を起点に、最後の〔
「形造れ、〔
絶えず形を変えていたカオスの肉体が固定化される。【栄枯雷光輪廻】による部分的なものではなく、広大な樹海の全体が。
カオスの誇る無敵の護りは余さず消失したのだった。
「確か、日本神話に出て来る矛だっけか」
〔
天地開闢の際、
つまりは創世の神器だ。
今起きたのも同じこと。
形を持たずそれ故に無敵なカオスの肉体に、明確な形状を与えた。混沌を固形化させた。
「なるほど、〖経験値〗が増えてたのもコイツが原因か」
実際に使ってみて確信した。
収穫量アップの効果は〔雷〕と〔大地〕の相乗で生まれたものだが、それが〖経験値〗のような実体のねぇものにまで及んでいたのは〔
階梯能力は〔
取り分け【ユニークスキル】は調整がなされていないため、三種全ての性質が反映されやすいのである。
「おっと、また思考が逸れたな」
どうにも気が緩んじまってる。
理由は明白。敵が居なくなったからだ。
カオスは変わらずすぐ近くに居るが、最早あいつは敵ですらなかった。
「…………」
そのカオスはと言うと攻撃態勢に入っていた。
眷属の噴出口をこっちに向け、さらに〖マナ〗を集めて混沌の塊みてぇな物を放つ。
「織り成せ、〔大地〕」
対するオレは空中にマナクリスタルを生み出した。いや、正確にはマナクリスタルのような物、か。
〔大地〕によって強化・改変されているこれは最上級マナクリスタルとさえも比べられない性能をしていた。
既にアーティファクトとしての形に整えられている球状マナクリスタルへ、〔
あっという間に白く輝き出し、そして引き金を引く。
「〖スキル〗再現、〖
〔大地〕の力により、マナクリスタル内の〔
かつて使っていた〖
その一つが指向性の付与。
臨んだ方向にのみ魔弾……否、神弾を飛ばせるようになった。
「じゃあな、カオス」
追撃は必要なかった。
〖マナ〗とはエネルギーの質が桁違いな〔
カオスの眷属も、攻撃も、咄嗟の防御も……一瞬の拮抗すらもなく全てを打ち砕き樹海を穴だらけにする。
そして爆裂。〔
「葬れ、〔大地〕」
カオスの〔
無数に散らばっていたカオスの破片が、瞬く間に風化し、土となる。
これで万が一の復活の可能性も潰せた。
世界を脅かす〔
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