第五章
第145話 星の魂
「何ですかこれはっ!? こんなこと、今まで一度も……っ」
『是。
狼狽する賢人へとさらなる機械音が投げかけられた。
ディスプレイに映っているのはどこまでも続く真っ白な空間と、そこに浮かぶ年若い人間……らしきモノ。
中性的な顔立ちで服は無地。何の感情もない平淡な表情をしているが……彼(彼女?)の身体は目を覆いたくなるような惨状だった。
右肩から先と右膝から下、それから右脇腹と左
耳も片方しか残ってねぇ。
だが最も特徴的なのは、怪我なんて表面上のものじゃあない。
どこまでも人間そっくりなのに、どこかが決定的に異なっていると、そう感じさせる異質な雰囲気に何よりも目を奪われた。
『アンタは……何だ? その怪我は平気なのか? てか〖念話〗は届いてんのか??』
『案ずるな、我が耳目はこの星そのもの。汝らの一挙一動も仔細漏らさず。其処に映る像も汝らに合わせて作りし
何者なのか、って問いには答えてくれなかった。いや、オレの聞き方が悪かったのかもしれねぇけど。
しかし気になっていた答えは隣から聞こえて来た。
「まさか貴方は……星神、なのですか?」
『是。此のアーティファクトが窺うは我が意志なり』
『???』
疑問符を浮かべっぱなしだったオレに気付き、賢人が分かったことを伝えてくれる。
「まず、この装置は星の魂を観測するアーティファクト……その受信機です。
『ああ、土蛟と戦う前に居たとこだろ?』
「あの場を研究室としたのは秘匿性や警備面だけが理由ではありません。星の中核との距離を少しでも縮めるためでもあります」
『つまり、その星の中核とやらに魂がある訳か……。俄かには信じられねぇな』
星なんて岩石の塊だと思ってたし、そこに意識があるって言われてもビックリしちまう。
まあ、こんなファンタジー世界で今更っちゃ今更だが。
「いいえ、それほどおかしな話でもありませんよ。〖マナ〗が魂から発生することは知っていますね?」
『疑似魔像機の勉強の途中で習ったぜ』
通常、疑似魔像機の〖マナ〗残量は大気中の〖マナ〗を吸収することで回復する。
生物みたく自動回復はしねぇ。単純な演算回路には魂が宿らねぇからだ。
賢人や“巨像”みてぇな凶級疑似魔像機の演算回路なら魂が発生するらしいけどな。
「では、大気中の〖マナ〗はどこから来ていると思いますか?」
『ん? 生物から漏れ出た〖マナ〗の残滓とかじゃねぇのか?』
「いいえ、それでは収支が合いません。生物から漏れ出る〖マナ〗は微量ですし、生物の個体数と〖マナ〗濃度の相関は弱いですしね。この疑問を解消するために大賢者様が考案したのが、大気中の〖マナ〗の源がこの大地であるとする仮説です」
『! それで星の魂って訳か!』
濃淡の差はあれど〖マナ〗が世界中に満ちている以上、〖マナ〗の源が魂であるのなら、逆説的に星には魂があるってことになる。
「その仮説を元にいくつもの研究が行われました。また、いつまでも星の魂と呼ぶのでは不便ということで、星神という仮称も与えられました。世界そのものである星神は全知たり得る、という推察に基づいた命名です」
『それで出来たのが星神にコンタクトを取るアーティファクト、って訳か』
現在の状況と照らし合わせてそう呟く。
だが、オレの予想は少し外れていたらしい。
「半分不正解です。現行技術では星神の思考の断片を拾うのが限界で、交信の段階には至っていませんでした。平時はこのアーティファクトももっと雑音交じりで、無秩序な情報の濁流を分析し有益な情報を掬い取るのですが……」
『此度は我が意志により直接の交信を試みたが故である』
ふむふむ?
普段は独り言を盗み聞きしてるだけだけど、今回は対話するつもりだから声がハッキリ聞こえる……的なことか?
『取りあえずアンタのことは分かった。それで、何で通信しようと思ったんだ?』
『汝に天啓を授けるためである、異界の者よ』
『さっきも言ってたな、異界の者って。……もしかしてそれは──』
『──是。汝の事なり』
『っ、じゃあアンタがオレを転生させたのか!?』
『是。死を迎え〔
ディスプレイに映る瀕死の星神がこくりと頷いた。
途中、いくつか聞き慣れねぇ単語があったが〖念話〗のおかげで何となくニュアンスは分かる。
つまるところこの神様がオレを助けてくれたようだ。
『マジかっ、ありがとうございます! 轢かれた時は死んだって思ったっすけど命拾いしました!』
目一杯に感謝を伝える。
この話が本当ならどれだけ感謝してもしきれねぇ。
……まあ、地球に帰る方法を知ってるかもって打算もちょびっとだけあるが。
それから一段落し、ふと疑問に思ったことを訊ねる。
『ところで、どうしてオレを助けてくれたんです? 慈善事業すか? 他にも転生者仲間が居たり?』
『否、転生を果たせしは汝のみ。そして汝に懸けし悲願は──この〔
何やらまた用語が増えたな。
けど〖念話〗のニュアンス翻訳のおかげで意味はなんとなく掴める。
〔
依頼が討滅なので〔忌世怪《カルキノス》〕は生物でもあるはずだ。
『ちょっと分からないんですけど、なんで〔
『〔忌世怪《カルキノス》〕は地上を滅ぼす存在なり。魔獣の身でありながら理を外れ、際限なく〖
『いや、大丈夫です』
そんな直接的に危険な魔獣だってんならこっちに否やはねぇ。
サクッと倒しちまうとしよう。
『そいつの居場所とかって分かりますか? 早速行って来るっすよ』
『無謀なり。現在の汝では負けはせずとも勝利は不可能。件の〔
『っ、じゃあその傷は……っ』
『是。奴の力に
どうして人を転生させられるような力ある神様が頼み事をしているのか、正直なところ不思議だった。
答えはシンプル。星神でさえ潰走する程に敵が強大なのだ。
転生させるのと戦うのとは全く別軸の能力だろうが、さりとて神が弱いというはずがないだろうし。
『奴の力は傷より
『……その〔
『知らぬ存在では無い筈だ。汝は既に眷属と接触し、二度とも勝利を収めている』
その回数の意味するところに考えを巡らすより早く、神様が答えをくれる。
『此度の〔
『……っ』
星神から飛び出した予想外の単語にオレは思わず息を呑んだ。
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