第20話 VSハモ

「(クソー! 出て来やがれー!)」


 泉のほとりでオレは叫ぶ。

 戦っていたハモの魔獣が水中に逃げ、そのままずっと出てこないのだ。


 一応、〖挑発〗や〖魅惑の輝き〗を使っていた影響からか完全には逃げておらず、泉の奥からこちらを窺っている状態だ。

 が、その後何度〖挑発〗しても全然近付いて来ない。この手の〖スキル〗は重ね掛けが難しいのだ。


「(うりゃうりゃ、餌だぞー)」


 体の一部を細長く伸ばし、竿と糸のような形にして水の中でゆらゆら揺らす。

 釣り竿は〖ウェポンボディ〗の対象外だから変形には少し苦労したし、糸に至ってはチューブみてぇな太さになったが。


 そんな出来の悪い釣り竿だったからだろう、ハモに食いつく気配はない。

 餌がないのも一因かもしれねぇ。


 鹿の死体を使うことも考えたが、それで餌だけ奪われてしまうと悲惨だ。

 最終的にはこの鹿だけでももらって帰るつもりなのだから。


 最後の博打としてならともかく、今は思いつく限りの手段を試したい。


「(あーっ、あんなところにUFOが飛んでるぜー!)」


 回れ右して、背中を見せてみるも反応なし。

 ていうかそもそもスライムの前後は分からねぇ。


「スラッスラッ」


 踊って見た。

 しかしハモは出てこない。

 天岩戸のようには行かないか。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>不破勝鋼矢(ジュエルウェポンスライム)が〖スキル:踊り〗を獲得しました。

・・・

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「(さて、次は……)」


 体の一部を鞭に変え、水の中に潜らせていく。

 ハモは警戒するように少し下がった。


 まあ、距離はあんま関係ないんだけどな。


「(発動、【肥大地雷アース・グロウス・サンダーボルト】!)」


 〖マナ〗を体の先端に集め、それを雷に変えて撃ち出した。

 泉の中を閃光が染め上げる。


「(効いてるみてぇだな)」


 雷は真っ直ぐにハモを貫き、持続的にダメージを与えていた。

 ビクビクっと体を痙攣させている。


 水中で藻掻き、逃げようとするハモに雷を放射し続ける。〖マナ〗を消費し続ければレーザービームみたく撃ち続けることも出来るんだ。

 ただ、〖マナ〗消耗が激しいから残量確認はしねぇとだが。


 それから〖マナ〗残量が三割を切った頃。オレは大きく飛び退いた。

 一拍遅れて鋭い牙がオレのさっきまでいた地点を襲う。


「(ようやく出て来やがったか)」

「シュゥッ!」


 このままだとジリ貧と判断したのか、ハモが襲い掛かって来たのだ。

 オレはすかさず近づいて攻撃しようとするが、その時にはもうハモは後ずさっていた。


 さっきビビって噛みつきを避けたのがミスだったなぁ。

 牙が迫り来る光景は、本能的な恐怖を刺激する。

 一度目の時は無傷だったんだし大丈夫だって頭では分かってても、条件反射で逃げちまった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>不破勝鋼矢(ジュエルウェポンスライム)の〖魂積値レベル〗が30に上昇しました。

・・・

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 と、そんな反省の最中に〖レベル〗が上がる。

 けどハモは死んでいない。

 これは泉にいる他の水棲生物の〖経験値〗だろう。


 オレの【ユニークスキル】は雷撃にある程度指向性を持たせられるが、それでも多少は分散しちまう。

 水の中ともなれば尚更だ。


 巻き込んぢまったのを申し訳なく思いつつ、ハモの方を注視する。

 電撃はかなり効いたらしく、先程の噛みつきも最初のよりキレが無かった。


 だが、戦闘不能には程遠い。

 奴の三つある目はしっかりオレを見据えている。


「ジュ、るぅ……!」


 ハモは苦し気に呻きながら〖スキル〗を発動。

 さっき使っていた渦巻きや、ド派手な紫色をした見るからに毒って感じの液体の塊などを放って来る。


「(うおっ、とっ……っと)」


 それらをひょひょいと躱す、躱す、躱す。

 ハモはどちらかと言えば近接攻撃が得意らしく、弾幕の方は粗が多い。


 ただ、問題はどう反撃するかだよなぁ。

 出来ればこれ以上〖マナ〗を消費したくねぇし……かと言ってここからじゃ鞭を伸ばしても届かねぇ。


 そうして頭を悩ませていた時、ふと視界の隅にとあるものを見つけた。

 その思い付きを実行すべく、回避しながら位置を調整する。


「(よし、〖スラッシュ〗!)」


 鞭剣を振るい、斬り落としたのは牡鹿の角の片割れ。

 素早くそれを巻き取り、自分の方へと引き寄せる。


「スラッ!」


 そして即座にジャンプ!

 迫っていた渦巻きや毒液などの射線を飛び越え、そして【ユニークスキル】を食らわせる。


「しゅるぅっ!?」


 そして雷撃で一瞬、動きが鈍った隙を突き──


「(〖投擲〗!)」


 ──牡鹿の角を投げつける!


 赤く鋭く禍々しい牡鹿の角はハモの頭にクリーンヒットした。

 鹿の怨念だろうか。運よく角の尖った部分が当たったため、深くまで食い込んでいる。


「ジュゥ、ぅ……」


 それを受けたハモは、それまで怒涛の勢いで使っていた〖スキル〗の発動を停止させ、代わりに激しく暴れ回る。

 何か、角が刺さっただけにしちゃあ大袈裟だな。いや、結構深く刺さってるんだしそりゃあ痛いだろうがそれだけじゃあない。どこかただならぬものを感じさせる暴れっぷりだ。


「(まさかあの角、ホントに呪いとかあったのか……?)」


 しばらくの間、バシャンバシャンと水面を荒らしていたが、段々と力が抜けて行き、やがて水の上に横たわる。

 頭部から流れる血が、透明な水を赤黒く汚していた。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>不破勝鋼矢(ジュエルウェポンスライム)の〖魂積値レベル〗が38に上昇しました。

・・・

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