第28話
二人はダニエル(Daniel)が勧めた別の宿に泊まることにした。今度は完全に東洋風のスタイルだが、さらにロマンチックな装飾が施されていた。アレフ(Aleph)は、秋の王国(Aki no Kuni)に着く前に、ダニエルが自分とレティシア姫(Leticia-hime)に何を期待しているのか疑問に思った。しかし、そんな考えを振り払い、温泉でリラックスすることに集中した。
レティシア姫はホテルで使われている衣装に興味津々だった。冬の王国(Fuyu no Kuni)出身の彼女にとって、このスタイルは珍しかった。入浴後、宿泊客は浴衣を着て、館内を普通に歩いていた。
温泉で温まった後、レティシア姫は繊細な浴衣を着て部屋に戻った。濃い灰色の浴衣を着たアレフの姿が目に入った。彼女は少しの間立ち止まり、彼を観察した。その姿に驚いた。彼は…いつもと違って見えた。よりリラックスしていて、より…魅力的だった。こんな彼を見るのは初めてで、レティシア姫は言葉が出なかった。興味を隠そうとしたが、ある一点が彼女の目を引いた。浴衣の下から見える金のネックレスとペンダントだった。好奇心に駆られた。もしそのペンダントに秋の王国の紋章が刻まれていたら、アレフの正体についての彼女の推測はさらに確信に近づく。
勇気を振り絞り、レティシア姫は彼に近づき、ネックレスに触れようとした。しかし、アレフは彼女の手に優しく触れ、予期せぬ優しさで彼女の目を見つめた。
「その格好は、髪をほどいた方がもっと似合いますよ。」柔らかな笑みを浮かべて囁いた。
レティシア姫が反応する前に、アレフは優しく彼女の髪留めを外した。レティシア姫の長く黒い髪が滑らかに肩に流れ落ち、薄い色の浴衣とのコントラストが際立つ。アレフは彼女の顔にかかる髪を丁寧に払い、指が彼女の肌に軽く触れた。彼の視線の強さに、レティシア姫は顔を赤らめた。恥ずかしそうに視線を逸らし、顔を隠そうとした。しかし、アレフは優しく彼女を引き寄せ、予期せぬ抱擁に包み込んだ。
「君の髪の香りが好きなんだ。」耳元で低い声で囁いた。
レティシア姫の心臓は高鳴った。アレフとの距離、彼の香り、張り詰めた空気…すべてが彼女を酔わせた。心臓の鼓動が彼に聞こえてしまうのではないかと心配になった。抱擁はほんの一瞬だったが、その強さにレティシア姫は息を呑んだ。アレフは彼女を解放し、独り言のように呟いた。
「…落ち着かなければ。」
図書館の若い女性たちの言葉がレティシア姫の頭に響いた。「これが絶好の機会よ。彼はあなたの婚約者でしょ…」。王国の文化によって感謝の示し方が違うことは知っていた。そして今、何か行動を起こさなければならないと感じていた。勇気を出し、レティシア姫は再びアレフに近づき、彼の顔に優しく触れ、彼の目を見つめながら、ゆっくりと彼に近づいていった。
アレフは驚き、後ずさりした拍子にベッドから落ちかけていたシーツに足を取られてしまった。その不器用な動きで、二人は一緒に倒れ込み、レティシア姫はアレフの上に覆いかぶさる形になった。レティシア姫の顔は真っ赤になり、驚きと恥ずかしさでいっぱいだった。アレフは、レティシア姫の柔らかな体が自分の体に触れ、彼女の甘い香りが漂ってくるのを感じ、理性を失いそうになった。彼は起き上がり、レティシア姫は彼の前でベッドに跪いた。混乱したアレフは「彼女はこれから何をするつもりだ?」と不安と困惑の中で考えた。
ゆっくりと、レティシア姫は身をかがめ、アレフの頬に柔らかなキスをした。アレフはシーツを強く握りしめ、彼女を抱きしめたいという衝動を抑えようとした。そのシンプルな仕草に、彼は完全に不意を突かれた。顔を赤らめ、独り言のように呟いた。
「これは…夢に違いない…。」
レティシア姫は恥ずかしさのあまり、すぐに身を引いた。しかし、立ち上がろうとした時、アレフは彼女を止めた。片方の手で彼女の首筋を掴み、もう片方の手で彼女の手を包み込み、レティシア姫に覆いかぶさるように顔を近づけた。彼の唇はレティシア姫の唇のすぐそばまで迫っていた。まるで内なる葛藤と戦っているかのように、彼は一瞬ためらい、そして彼女の耳元で囁いた。
「なぜ…なぜキスをした?」
彼の低い、魅惑的な声が耳元で囁かれ、レティシア姫の心臓は高鳴った。
「…感謝の気持ちです。」ほとんど聞こえないような声で答えた。
「感謝?」
「私にしてくれたことすべてに。」レティシア姫は彼の目を見つめ返す力を振り絞りながら説明した。「図書館の女の子たちに…感謝の気持ちを示す方法だって…言われたんです。」
「なるほど…。」アレフはレティシア姫には理解できない感情を込めて言った。
彼は急にベッドから立ち上がり、コートを掴むと、振り返ることなく部屋を出て行った。レティシア姫は混乱し、身動きがとれなかった。
「どうして彼は怒ってしまったの?」と不安に思った。「私が何か間違ったことをしたのかしら?」
アレフは宿の外で壁を殴りつけ、フラストレーションに苛まれていた。レティシア姫の無邪気な仕草と柔らかなキスの感触が、まだ鮮明に脳裏に焼き付いていた。こんな感情に流されてはいけないことはわかっていた。
「私は今、何をしようとしていたんだ?!」と自問自答した。「レティシアに恋をしてはいけない!いけない…たとえ、既に…完全に恋に落ちてしまっていたとしても。」
ダニエルは宿に近づくと、アレフが壁を殴りつけ、苛立っているのを見つけた。心配そうに、彼は慎重に近づいた。
「アレフ、どうしたんですか?」優しく尋ねた。
「限界だ…。」アレフは感情に震える声で答えると、急いで立ち去ってしまった。
「こんな風に感情を抑えつけ続けたら、うまくいかないって忠告したのに…。」ダニエルはアレフの心中を察し、首を横に振った。
部屋に入ると、レティシア姫がベッドに座り、頬を赤らめ、物思いに耽っているのを見つけた。ダニエルは二人の間に何かが起こったことを察知し、事情を聞こうとした。レティシア姫はためらいながらも、アレフとの出来事を話した。
「私…私、何か間違ったことをしましたか?」か細い声で、ためらいがちに尋ねた。
ダニエルは考え込むように頭を掻いた。アレフの苛立ちも理解できたが、レティシア姫が間違った行動をとったとは思えなかった。ただ…言葉選びを間違えただけだ。
「間違っていたとは言いませんよ、レティシア。」ダニエルは説明した。「あなたの行動は間違っていませんが…状況によっては、良くない場合もあります。」
彼は少し間を置いて、慎重に言葉を選んだ。
「『感謝』の代わりに、『あなたは特別だから』とか、『あなたのことが好きだから』と言えばよかったんです。素直な気持ちが一番です。買った本を読んでみてください。きっと役に立ちますよ。でも、一番大切なのは、自分の気持ちに正直になることです。」
ダニエルは机の上にある本に目をやった。刺激的なタイトルの本は、愛の謎を解き明かすことを約束しているようだった。レティシア姫はダニエルのアドバイスに従い、読書に没頭した。ページをめくるごとに、愛と情熱の新たな定義に触れるごとに、深く、そして心を解放してくれる理解が彼女の中に広がっていった。最後の章を読み終えると、レティシア姫は本に顔をうずめ、心臓が高鳴るのを感じた。ついに理解した。彼女はアレフに恋をしていたのだ。
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