第19話

翌朝、耳をつんざくような轟音がレティシアを静かな眠りから引き裂いた。驚いてベッドに座り込むと、心臓が激しく高鳴った。数秒後、アレフが焦った様子で彼女の部屋に飛び込んできた。


「姫、ここから逃げなければ!」 彼は緊張した声で叫んだ。


混乱し、怯えたレティシアは急いで荷物をまとめた。宿を出ると、そこは混沌とした光景だった。村人たちはパニックに陥り、あらゆる方向に必死に逃げ惑っていた。炎が空高く舞い上がり、家々を焼き尽くしていた。


レティシアの隣で騒動を見ていたアレフは、ある若者を肩を掴んで呼び止め、情報を求めた。


「何が起こっているんだ?」 彼は緊迫した状況の中でも毅然とした声で尋ねた。


若者は息を切らし、パニックに陥った顔で、まるで苦悩を抑えようとするかのように額に手を当てながら、途切れ途切れに言った。


「シャイナイドが…誰かを捜している。見つからなければ…皆殺しにする…。」 彼はそう呟くと、アレフの手を振りほどき、群衆の中に消えていった。


アレフは素早くレティシアの方を向き、彼女の手にしっかりと触れた。


「あなたの安全のため、すぐにここから離れなければ。」 彼は心配そうに言った。


彼はレティシアの手が震えているのを感じたが、顔を上げると、彼女の瞳は強い意志で輝き、同情と勇気が入り混じっていた。一瞬、彼女はためらった。シャイナイドと戦ったことは一度もなく、恐怖が彼女の胸を締め付けた。しかし、周りの人々の叫び声と絶望に、彼女は逃げるのをためらった。村人たちを見捨てることはできなかった。


「この人たちを置いていけない…このままでは…。」 彼女は決意を込めて、力強い声で言った。


村人たちのことがアレフの心を苛んでいた。彼らを助けたい、一緒に戦いたいと思っていたが、彼の任務はレティシアを守ることだった。それが彼の最優先事項だった。アレフはレティシアの手を強く握り、炎と村に響き渡る恐怖の叫び声を避けながら、人通りの少ない道へと彼女を導いた。一歩進むごとに、助けを求める視線とすれ違うごとに、アレフは自分の責任の重さと、義務と慈悲の板挟みになっているのを感じていた。


状況はますます悪化していった。風にあおられた炎はあっという間に家々を飲み込み、景色を変えていった。シャイナイドは燃え盛る家から出てきた人々を捕らえ、尋問していた。時間内に答えられない者は…容赦なく処刑された。


ある家族が燃え盛る家から出てきた。母親は子供を抱いて一番先に出てきた。何の前触れもなく、シャイナイドが彼女に襲いかかり、刃が彼女の胸を貫いた。女性は息絶え、子供は横に転がって無事だった。泣き叫ぶ少年は母親の肩を揺すり、必死に呼びかけたが、返事はなかった。父親は恐怖に凍りつき、ショック状態でその光景を見ていた。身動き一つできなかった。


シャイナイドは残酷な笑みを浮かべながら、紫色の刃の刀を振り上げ、子供の泣き声を止めようとした。その時、別の刃が攻撃を遮った。アレフの剣が刀を受け止め、衝撃で弾き飛ばした。アレフは素早く反撃し、刃がシャイナイドの心臓を貫いた。シャイナイドは黒い灰となって消え去った。


シャイナイドが消えたのを見て我に返った父親は、涙を浮かべてアレフを見た。彼の顔には、悲しみと安堵、そしてわずかな復讐心が入り混じっていた。彼は息子を強く抱きしめ、まるで周りの混沌から守るかのように、何も言わずにその場を去っていった。失った妻の悲しみと記憶を抱えながら。


アレフは胸が締め付けられる思いで、拳を握りしめながら、家族が去っていくのを見送った。周囲はまだ混乱していたが、彼の心にはこの破壊を終わらせなければならないという決意が芽生えていた。


仲間の死に気づいたアレフの周りのシャイナイドたちは尋問を中断し、捕らえていた村人たちを解放した。しかし、その中の一人はまだ人質を捕らえ、短剣を首に突きつけて、アレフを睨みつけながら声を上げた。


「レティシア姫を見つけるまで、私たちは止まらない!」 彼女は冷酷に男の喉を切り裂きながら叫んだ。


犠牲者は息絶え、シャイナイドのリーダーは血まみれの剣を掲げ、他のシャイナイドに攻撃再開の合図を送った。村は殺戮場と化し、剣の音と叫び声が辺り一面に響き渡った。


レティシアは目の前で繰り広げられる惨劇を見て、圧倒的な罪悪感に襲われた。(私を見つけるためだけに、こんなにたくさんの人が殺されている!)その考えは耐え難く、彼女の表情は悲しみに曇った。


一方、アレフは混乱していた。なぜシャイナイドがそこまでレティシアの捕獲に執着しているのか、まだ理解できなかった。混乱の中、ある考えが浮かんだ。仮説だった。(どうやって私たちの居場所を知ったんだ?…奴しかいない。だが、奴に何の得がある?)


攻撃が続くにつれて、レティシアの無力感は増していった。周りの人々が次々と命を落とし、自分がその暴力の原因だと分かっていた。そこで、虐殺を終わらせるために、彼女は即席の舞台に上がり、シャイナイドたちの注意を引きつけ、全身全霊で叫んだ。


「私があなたがたが捜している人間です!」 彼女は恐怖を感じながらも、毅然とした声で叫んだ。「攻撃を止めなさい!」


レティシアの叫び声を聞いて、シャイナイドたちは村人への攻撃を止め、剣を振りかざしながら彼女の方を向いた。彼らの目は、まるで獲物を狙う獣のように血に飢えて輝いていた。


レティシアは抵抗しようと決意し、剣を抜いて容赦なく襲いかかってくる攻撃に立ち向かった。しかし、彼女が繰り出す攻撃はすべて、まるで煙でも斬っているかのようにシャイナイドたちをすり抜けてしまい、ダメージを与えることはできなかった。まるで影と戦っているようだった。それでも、レティシアは、少なくともシャイナイドたちが村人への虐殺を止めたことに、わずかながら安堵した。


アレフはレティシアの傍らに立ち、周囲の動きに警戒しながら、秘密にしておきたい能力を使わずに済む脱出ルートを探っていた。彼は巧みに攻撃をかわし、効果的に反撃した。レティシアは、以前アレフがシャイナイドを倒したのを見たことがあったとはいえ、彼の剣さばきに感嘆した。それでも、彼女は彼の戦い方に何か奇妙な点があることに気づいた。彼はまるで何かを隠しているかのように、ローレンと戦った時とは違う慎重さで戦っていた。しかし、敵の攻撃を防ぎながら、彼女はその詳細について考える時間さえなかった。


徐々に、シャイナイドたちは二人を取り囲み、剣と残酷な笑い声の壁を作り上げていった。アレフは流れるような正確な動きで攻撃をかわしていたが、攻撃を防ぐたびに、より速く、より激しい攻撃が襲いかかってきた。しかし、シャイナイドたちはまるでゲームでもしているかのように、楽しんでいるようだった。


レティシアは息を切らし、心臓が高鳴る中、アレフに不安そうな視線を向けた。(こんなにたくさん…どうやってこんなにたくさんのシャイナイドを相手にしながら、村人たちを守ればいいの?)


視線を交わし合う中で、二人は勝ち目がほとんどないことを理解していた。レティシアは深呼吸をして勇気を振り絞った。どんなに状況が悪くても、自分は一人ではない。それだけで、不可能に立ち向かう希望を繋ぎ止めるのに十分だった。


王室騎士団が到着した。彼らの鎧は朝日を浴びて輝いていた。しかし、彼らの剣はレティシアの剣と同じように、シャイナイドには効かなかった。


戦いはさらに不利になった。シャイナイドたちは王室警備兵の出現に挑発されたかのように、攻撃を激化させた。騎士たちは村人たちを守りながらシャイナイドと戦い、勇敢に戦ったが、多くが敵の容赦ない攻撃に倒れた。彼らは勝利の可能性が低いことを知っていたが、罪なき人々を守ろうとする決意は、死の恐怖よりも強かった。


光景は悲惨だった。炎は家々を焼き尽くし、地面には lifeless な体が横たわり、負傷した兵士たちは無駄な抵抗を続け、生き残った村人たちの顔には恐怖が浮かんでいた。この惨状はレティシアの心に深く刻まれ、深い悲しみと罪悪感を与えた。


(私がシャイナイドを倒す能力があれば…)彼女は絶望的に思った。(あんなに修行したのに、まだその能力を身につけていない。この人たちを守ることができない。)


アレフはレティシアの苦悩に気づいた。姫は破壊を前に無力な自分を責めていることを知っていた。彼女の安全は、ローレンとの約束であり、彼の最優先事項だった。彼は撤退し、戦いを王室騎士団に任せることを考えたが、村人たちを見捨てることに抵抗があった。


提案しようとしたその時、恐ろしい光景が彼の言葉を遮った。村長が背後から致命傷を負い、倒れた。全くの不意打ちだった。その残酷な光景にレティシアは凍りつき、目をそらすことができなかった。昨夜、あんなにも温かく迎えてくれた親切な村長が…殺されてしまったのだ。


悲しみとショックで気を取られたレティシアは、背後からこっそりと近づいてきたシャイナイドに気づかなかった。シャイナイドは致命的な一撃を加えようとしていた。レティシアは反撃するには遅すぎたが、アレフが身を挺して攻撃を受けた。刃は彼の右肩に深く突き刺さり、服を鮮血で染めた。

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