お泊りデートなんですか?

 月明かりのきれいな診療所の前で、カルメとログは揉めていた。

「いやだから、それじゃ私がここまで送った意味ないだろ」

 カルメは舌打ちをして軽く怒鳴ったが、

「ですが、俺だってカルメさんのことが心配なんです。カルメさんにも太刀打ちできないような魔物が現れたら、どうするんですか」

 と、ログもめげずに言い返している。

「その時は、お前もやられるだろ」

 カルメが呆れ交じりに言って突き放そうとするが、ログは首を振って彼女の腕を掴んだ。

「でも、カルメさんを治療することはできるかもしれないじゃないですか」

「大体、そんな強い魔物は森にいねーよ」

 腕を振り払いながら文句を垂れた。

 確かに、カルメよりも強い魔物などここの森にはいない。

 そんな危ない状況ならば、カルメは森になど住んでいなかった。

「今度の帰りは俺一人で大丈夫ですから、送らせてくださいよ」

「何を言っているんだ。さっきより暗くなっているんだから、もっと危ないんだぞ。そんな道を一人で帰らせられるか」

 カルメとログは、今度は家に帰るカルメを送っていくか否かで争っていたのだ。

 意地でも送っていきたいログと、送られたら最後、今度はまたカルメがログを送らなければいけなくなってしまうから必要ない、と主張するカルメ。

 互いに主張を一歩も譲らずに、不毛な言い合いをしていた。

「二人とも、何をケンカしているんだい?」

 診療所から、ひょっこりと顔を出したのはミルクだった。

 ちょうど、これから帰るところだったのだろう、その手には鞄が握られている。

「あ、師匠。うるさくして、すみませんでした」

 ログが申し訳なさそうに頭を下げた。

「そうだね、ご近所迷惑になってしまうから、ほどほどにね。それで、何があったんだい?」

「カルメさんが家に帰ると言うので、送って行こうと思ったのですが、そうすると、家まで送りに来た俺を、カルメさんがもう一度家まで送る羽目になるから嫌だ、と言われてしまって」

 ログが言いにくそうに説明するのを聞いて、ミルクは面白そうに笑った。

「おやおや、ずいぶんと可愛いケンカだね。仲が良いようで何よりだ」

 その言葉にカルメは舌打ちをした。

「仲良くない。コイツが頑固なんだ。私に危険な事なんて、そうそうないのに」

 不満をあらわにして文句を言うと、ミルクは、

「確かにカルメちゃんの言う通りだ。カルメちゃんとログ君だったら、ログ君の方が森の一人歩きは危ないだろうねえ。でも、ログ君の大切な人を心配する気持ちも、僕にはわかるよ」

 と、しみじみと言って笑った。

「どうしたらいいでしょうか」

 ログが助けを求めるようにミルクを見ると、彼は悪戯っぽく微笑んだ。

「そうだねえ、それならカルメちゃんは、お家に帰らなければいいんじゃないかい?」

「はあ? なんだそりゃ。野宿でもしろってのかよ」

 舌打ち交じりに言うカルメの文句を、ミルクはのんびりと笑って否定した。

「違うよ。診療所に泊まったらいいと思ったのさ。幸い診療所には使っていないベッドがいくつかあるからね。使ってはいないが、いつ患者さんを寝かせてもいいようにしているから、ベッドそのものは清潔だしね」

 ごく気軽にそう言うと、カルメは呆れたように苦笑いを浮かべた。

「診療所のベッドって、勝手に使っていいのかよ」

「いいよ。僕が許可しているから、勝手にではないもの。それに、今はログ君が診療所の一室を使って住んでいるから、生活のための環境は整っているんだよ」

 ミルクは優しく微笑んだ。

「あっそ、なら泊ってくか」

 これ以上不毛な争いを続けることを嫌がったカルメは、あっさりと頷いた。

だが、カルメがミルクの提案をのむと、今度はログが、

「ええ!?」

 と、焦ったような声を出した。

「なんだ、問題があるのか? なら帰るぞ」

 否定されると思っていなかったのか、カルメがムッとして言う。

「いや、だって、一つ屋根の下ですし」

「おんなじ家でも別の部屋なら問題ないだろ。というか、何考えてたんだ?」

 カルメがログをジト目で睨むと、途端にログは顔を赤くし、慌てて両手を右往左往させた。

「いえ、何でもありません。カルメさんに問題が無いならウチ? に泊まっていきましょう」

 騒がしく診療所に入って行く二人を、ミルクは微笑ましく眺めた。


 診療所は、村の中では大きな建物に分類されている。

 ログの部屋になっている元物置部屋や診察室、手術室や入院患者用の部屋、談話室や台所に風呂など、部屋はいくつもあった。

 清潔な診療所内に入ると、カルメは嫌そうに顔をしかめた。

「やっぱここは、薬の匂いがキツイな」

「苦手ですか? 結構、匂いが強いんですかね」

 すっかり鼻が慣れてしまっているログは薬の匂いが気にならず、そんなに診療所は変な匂いがするのだろうか、と首を傾げた。

「まあな。薬臭い。というか、そもそも薬が嫌いなんだ。苦いし」

 薬が嫌だから風邪をひかない、という幼い子供みたいなことを本気で実行しているのが、カルメだ。

「そうなんですか。でも、実は俺、薬の調合の勉強をしてるんですよね。病気を治す系の魔法は使えないので」

「あー、診療所のセンセイも薬系は使えないんだっけ? まあ、こればっかりは適性だからな。そもそも外傷を治す系の魔法をセンセイやお前ほど使えるやつだって相当珍しいんだろうし。こんな小さなとこにいないで、都会に行けば良い就職先なんてより取り見取りだろ」

 治療の魔法にも、いくつか種類があり、大きく分けると外傷を治す魔法と、病などを治す薬系の魔法がある。

 また、一般的に治療の魔法と言われれば外傷を治すものを指し、薬系の魔法はかなり珍しい部類に入る。

 カルメの指摘に、ログは苦笑いを浮かべた。

「それは、カルメさんも一緒じゃないですか。それに、ここにはカルメさんがいますから」

「私は村がしょぼければしょぼいほど、需要があるんだよ。大体、私がここにいるからって、お前、私が他に行けばお前もそっちに行くのかよ」

 カルメが嘲笑うように言うと、ログは即座に頷いた。

「もちろん。だって俺たち、恋人ですし」

 カルメはログの勢いに少し引くと、半笑いになった。

「そんなバカな。錯覚にそこまですることないって。いい加減目を覚ませよ」

「嫌です。カルメさんの冗談は嫌いじゃないですが、その冗談だけはやめてください」

 錯覚という言葉にログはムッとした表情を浮かべたが、その横顔は少し傷ついても見える。

 ログは自分の恋を錯覚と言われるのが嫌だった。

 しかし、カルメはそんなログの態度を嘲笑った。

「冗談じゃない。すぐに分かるさ」

 真剣な目をするログをあしらって、カルメは患者用のベッドが並ぶ部屋のドアを開ける。

「結構、綺麗にしてるんだな」

 床には塵一つ落ちておらず、ベッドにも真っ白なシーツがパリッと敷かれ、その上に薄手の毛布が乗っかっている。

 綺麗に磨かれた窓からは、美しい月明かりが差し込んでいた。

「ここ、本当に私が使っていいのか?」

 自分には場違いな気がして、カルメはチラリとログの方を振り返った。

「誰かが使っても使わなくても、毎日掃除しますから、大丈夫ですよ。むしろ、たまには使われないと掃除し甲斐が無いですし。いや、誰かに怪我をしてほしいとか、病気になってほしいってわけではありませんがね」

 慌てて発言を訂正するログを見て、カルメから自然と笑みがこぼれた。

「分かってるって。そういうことなら使う。そうだ、お前の部屋ってどんな感じなんだ?」

 診療所にある個人用の部屋とはどのようなものなのだろうか、と気になって、カルメは好奇心を露わに尋ねた。

「そんなに珍しい部屋ではないですが、部屋のうち、余っていて中途半端に物置になっていた場所を片付けて、部屋にしたんです。見たいなら、見せますよ」

 そう言って、ログは自分の部屋にカルメを案内した。

 ログの部屋は、簡素なベッドと机、衣装タンスと観葉植物が置かれたシンプルなものだった。

 ベッドに乗っかっている毛布はグシャグシャになっていて、部屋着と思われるものがベッドの縁にかろうじてかかっていた。

 ログは、カルメがベッドにしっかりと目を向ける前にそれらを回収すると、素知らぬ顔で毛布を畳み、部屋着を毛布の下に隠した。

 ログの隠密行動に気が付いていないカルメは、軽く部屋を見回すと、

「質素だな」

 と、簡素な部屋にシンプルな感想を漏らした。

 それに対し、ログが軽く頭を掻く。

「あはは、まあ、これから物が増える予定なので」

「ふーん」

 カルメは生返事をしながら机の引き出しを開けた。

 中には分厚い本が一冊と、ノートが二冊入っていた。

 本をペラペラとめくると、難しい専門用語で書かれた、更に難解な内容と数式が並んでおり、薬について書かれたものであることのみが分かった。

「カルメさん、堂々と物色しますね」

 あまりにも自然に引き出しを開けるので、ログは、いっそ感心してしまった。

「まあな。しかし、凄いな。これが読めるのか?」

 ペラペラと本をめくって文字を追うが、やはり内容は一向に理解できない。

 眉間に皺を寄せてページをめくるカルメをログは微笑ましく見つめると、それから少し誇らしげに胸を張った。

「すごく難しいので、少しずつですが。ただ、師匠に教えてもらって、簡単なかぜ薬なら作れるようになったんですよ」

「へえ、もしかして、この部屋で調合してるのか?」

 カルメは部屋に入った瞬間に、ふわりと香った薬の匂いに気がついていた。

 その理由をカルメは、ここが診療所の一室だからだと考えていたのだが、もしかしたらログはこの部屋で薬を作っているのかもしれない、と考え直した。

 だが、ログは微笑んで首を振った。

「いえ、薬はちゃんと調合する場所がありますから。ただ、勉強のために薬やその材料を持ち込むことはあるので、匂いはそのせいかもしれませんね」

「ふーん……結構、勉強してるんだな」

 ノートをペラペラとめくると、ログが一生懸命に勉強した跡が見える。

「なあ、他人って、そんなに助けたいものなのか?」

 カルメは他人が嫌いだ。

 他人を助けるのは、それによって利益が得られるときのみで、理由もなく人間を助けようとは思えない。

 魔法というものは使い手の心を反映させるものだが、治療魔法は特にそれが顕著だと言われている。

 他者を癒したいという気持ちが強くなければ、使い手は対象を上手く癒せない。

 ログやミルクが優れた治療の魔法使いであるのは、その適性をもっているという事ばかりではなく、それだけ他者を助けたいという意志があるということだ。

 ログの勉強のみに焦点を当てても、何故ここまで一生懸命に学習して他者を癒そうとするのか、その気持ちが何一つ理解できなかった。

『私は、自分すら満足に治せないのに』

 カルメの場合はたいした素質が無いだけだが、それにしても、その能力はあまりにもしょぼい。

 その原因に、心の問題が含まれていることに薄々と気が付いていた。

 カルメの質問に、ログは少しだけ黙り込むと優しく笑って答えた。

「助けたいですよ。痛いのも、苦しいのも嫌でしょうし、苦しんでいるその人は、きっと誰かの大切な人だから。それに……」

いい淀んで、チラリとカルメを見る。

「それに?」

カルメが促すと、照れ笑いを浮かべて、

「今は、誰よりも癒したい、大切な人がいますから」

と、言葉を出した。

 それから、ログが真直ぐにカルメを見つめると、彼女は舌打ちの代わりに大きなため息を吐いた。

「お前は、オチに私を出さなきゃ粉砕骨折でもするのか」

 その言葉には呆れが滲み、照れのようなものは一切、感じられない。

「粉砕骨折って……本心ですよ。カルメさんの心には響いていなさそうですが」

 甘い言葉が一切通じず、ログはガックリと肩を落とした。

「まあ、所詮、錯覚だからな」

 カルメがせせら笑うのを、ログは不満げに見つめた。

「カルメさんはすぐ錯覚って言うの、やめません?」

「仕方がないだろ。事実だ」

 カルメが嗤うと、ログは不満げに口角を下げる。

「錯覚じゃないですけどね。ともかくご飯を食べましょう。簡単なものでよければ作りますよ?」

「私も作れる」

 カルメが堂々と言うと、ログは彼女に胡乱な目を向けた。

「カルメさんは今日、とんでもない怪我をしてたじゃないですか。いいです。俺が作ります」

 料理に関して、ログの中でカルメへの信用がゼロに近い所まで落ちてしまっている。

「普段はちゃんと作っている」

 別に料理を作りたいわけではないが、自分がまともに料理もできないと誤解され、バカにされるのを嫌がったカルメが、不機嫌にそう言って口角を下げた。

 しかし、ログも譲らない。

「でも、怪我されたくないので」

「怪我しても治せるだろ」

「痛い思いをされるのが嫌なんです」

 キッパリと言うと、カルメは諦めて頷いた。

 ついでに舌打ちもしておく。

「わかったよ、任せる。意外と頑固だな」

「それはカルメさんでしょう。ですが、出来るだけおいしいものを作りますよ。その間、カルメさんはお風呂でも入っていてください」

 カルメに呆れ交じりの言葉を返すと、

「お風呂があるのか?」

 と、お風呂が好きなカルメは、嬉しそうに言って笑った。

「ありますよ。水を替えて、温度の調節をしないといけませんが」

「いや、私は水を出せるし、温度も自由に変えられるから問題ない」

 カルメは水の魔法でその温度を操ることができるので、普段から魔法で浴槽に湯を張り、風呂に入っていた。

「便利でいいですね。それじゃあ、行ってらっしゃい」

 ログは台所へ、カルメはお風呂へと向かった。


 小さいが快適だった風呂を上がり、カルメは髪を乾かしてから台所へ向かった。

 着替えがないので、仕方なく脱衣所のタンスに入っていた白いシャツと、茶色い七分丈のズボンを履いている。

 シャツは少し大きいようでダボっとしていて、それを着た彼女からは少し幼い印象を受ける。

 診療所は涼しく、火照ったからだが程よく冷やされて、カルメは気持ちが良さそうに目を細めた。

 台所に着き、扉を開けるとふわりと料理の良い匂いが漂ってくる。

 テーブルにはトマトソースのパスタに根菜のサラダ、カボチャのポタージュが並んでいた。

 おいしそうな匂いとその見た目に、カルメは控えめにお腹を鳴らした。

「あ、カルメさんお帰りなさい。ちょうどできたところだったんです」

 ログはエプロンを畳んで空いている椅子の上に置くと、料理が並んだ机に座った。

 カルメはその対面に座る。

「カルメさん、なんか、ちょっと雰囲気変わりました?」

 ログが顔を赤くしてカルメを見た。

 しかし、カルメは不思議そうな様子で自分の髪を摘まむと、

「そうか? いつも通りだろ」

 とだけ言って、興味なさげにつまんでいた髪を放した。

 風呂に入ったことで、カルメの髪は少し綺麗になり、肌艶もよくなっていた。

 また、乾いたばかりの髪からは石鹸の良い匂いが漂っている。

 風呂によって、カルメの見た目はいつもより少しだけ良くなっていたのだが、カルメ自身はそのことには気が付いていなかった。

 なお、今カルメが着ている服は上下ともにログの部屋着と同じデザインであり、白いシャツに至ってはログの替えの部屋着である。

 ログは、ドキドキしながらカルメを見つめていた。

「まあ、私の雰囲気なんてどうでもいいだろ。それより冷める前に食おう」

「あ、はい。食べましょうか」

 何気に食事を待ちきれないカルメが、ログに食事を促す。

「「いただきます」」

 食事の挨拶をして、二人は食事を始めた。

 カルメはまず初めに、パスタを頬張った。

 トマトの程よい酸味が美味しく、自分では作ったことのない新鮮な美味しさを感じた。

 また、根菜のサラダもかかっているドレッシングや野菜の切り方から、どことなく洗練された都会を感じる。

「都会生まれなのか?」

「え? はい。そうですが、どうしてですか?」

 唐突な質問にログは首を傾げた。

「いや、料理から都会を感じたから。どれも美味しかったし」

「美味しいですか?」

 カルメから感想がもらえるとは思わず、ログは嬉しそうに声を弾ませた。

「ああ、美味いよ……ありがと」

 カルメは気恥ずかしくなって、小さなかすれた声で礼を言った。

「どういたしまして」

 ログは、そう柔らかな声で返事をしたが、声と同じくらい柔らかな笑顔をカルメが見ることはなかった。

 ほんのりと染まってしまったかもしれない頬をログに見られまいとして、カルメは顔を伏せたまま食事を続けていたからだ。

『人が作った飯食うの、久しぶりだな。久しぶりというか、初めてか!? いや、そんなことはないな。小さい頃は、一応、あの女が料理を用意していたわけだし。でも、ある程度、年齢がいってからは初めてかもな』

 そう思うと、目の前のパスタが特別貴重に思えた。

何だか、暖かな食事を共にするログの存在に、妙に和む。

『こういう生活も、いいかもな』

 不意にそう思ってしまったのだが、カルメは自分自身に心底驚き、その考えを吹き飛ばしてしまおうと頭を振った。

「カルメさん!? どうしました?」

 カルメの突然の奇行に驚き、ログは目を丸くした。

「いやなんでもない、ちょっと虫が飛んできただけだ」

「え? でも、顔もなんか赤いですよ」

 カルメは熱くなる頬の温度を感じると、これ以上顔を見られないようにそっぽを向いてログの食器を掴んだ。

「気のせいだ。食べ終わったから食器を洗うぞ」

「ええ……あ、ありがとうございます」

 ログは釈然としない様子でカルメを眺めたが、自分の分の食器も持って台所へ向かうのを見ると、素直にお礼を言った。

 そして、カルメとすれ違った瞬間、何故か一瞬涼しくなって、ログは余計に首を傾げた。

 カルメは慣れた手つきで洗い物をしていく。

 流石に今回は皿も割らなかったし、怪我もしなかった。

 二人は台所で分かれると、カルメはその日眠ることとなっている部屋へ、ログは自分の部屋へと帰って行った。

 夜はますます深まり、カルメは疲れも手伝ってか、ぐっすりと眠れたのだが、ログは緊張してあまり眠れなかった。


 翌朝、寝ぼけるログを置いてカルメは診療所を出た。

 そして、診療所を出てすぐのところでウィリアにばったり遭遇してしまった。

 カルメはローブについているフードを目深に被ると、急ぎ足でウィリアから遠ざかろうとしたのだが、あっさりと腕を掴まれて捕まってしまった。

「おい、放せ」

「おはようございます~カルメさん。ログの診療所から出てきましたが、もしかしてお泊りですか~」

 目をキラキラとさせて問いかけてくるウィリアに舌打ちをすると、

「そうだ」

 と言って、掴まれた腕を払った。

「きゃ~、さすがにちょっと早いんじゃないですか~?」

「何がだ」

 カルメは舌打ち交じりに、不機嫌に言葉を返す。

「だって、ねえ~」

 体をくねらせるウィリアにイラっとしたカルメは、もう一度舌打ちをした。

「何が、ねえ~だ。何を考えているのか知らないが、私はいかがわしいことはしてないぞ」

「え~? そ~なんですか~」

 ウィリアが残念そうにするのを見て、カルメは嫌そうにウィリアを睨みつけた。

「当たり前だ。お前に構っている時間なんてないんだよ。どけ」

「は~い、お気をつけて~」

 カルメの怒気をものともせず、ウィリアはへらへらと笑った。

 ウィリアにゆらゆらと手を振って見送られ、カルメは舌打ち交じりに村を出る。

『なんか最近、アイツら図太くないか?』

 ウィリアもミルクも、少し前まではカルメの態度に多少なりとも怯えていたし、決して自分からは話しかけてこなかった。

 それが最近、ごく一部の村人が、カルメに対してあまり恐怖を抱かずに接触してくるようになっていたのだ。

 その原因は、もちろんログがやたらとカルメを構うことにあるのだが、彼女自身は村人の変化の原因が分からずに首を傾げていた。

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