おわり はわあぁあっ! かっこいいですわアル!
あああああっ!!
かわいい!
可愛い!
どうしましょう!?
可愛いですわぁっ!!
わたくしはヴェールの中で、にやけてしまいそうな唇を引き結ぶのに必死でございました。
月日の流れるのは早いもので、わたくしは二十一歳に、アルは十八歳になりました。そう、アルが成人したのです。
クレスとエミーが三歳ちょっとになった今、わたくしたちはようやく結婚式を挙げている真っ最中なのですが……
目の前を歩くふたりが、もうそれはそれは天使のような愛らしさなのですわ!
愛しいわたくしたちの息子クレスは、リングボーイとしてわたくしたち夫婦の結婚指輪を運んでくれています。ああ可愛いっ!
ハーディ殿下の可愛い娘のエミーは、フラワーガールとしてヴァージンロードに花びらをまいてくれていますわ! きゃあ! かわいい!
わたくしの隣を歩くお父様は、先程からぐずぐずと涙ぐんでいらっしゃいます。
あの日はショックを受けていらっしゃったお父様ですが、きちんとお伝えすれば分かってくださいましたし、クレスが無事に生まれたときには狂ったようにキャッキャウフフと喜んでくださいましたわ。
そしてクレスとエミーの前を悠然と歩くアルは、もう
あれからまた背が伸びましてね、本当にたくましくて優しくて頼りになるパパですのよ。
ああ、アル! 愛しています!
貴方の妻になれる今日……わたくしは自信を持って、自分こそが世界で一番の幸せ者だと言い切れますわっ!!
――無事に入場が終わりまして、誓いの儀式が始まります。
「新郎アルフレート・ジュリアス・シュタイエル、貴方はイェルカ・フォン・シルベスターを妻とし、病めるときも健やかなるときも、悲しみのときも喜びのときも、妻を敬い、慰め合い、ともに助け合い、死がふたりを分かつまで愛し合うことを誓いますか」
「はい、誓います」
はわあぁあっ!
かっこいいですわアル!
凛々しくてよく通る、そのお美しいお声……お耳が妊娠してしまいそうです!
あぁあ! 好きぃ! 大好き!!
「新婦イェルカ・フォン・シルベスター、貴女はアルフレート・ジュリアス・シュタイエルを夫とし、病めるときも健やかなるときも、悲しみのときも喜びのときも、夫を敬い、慰め合い、ともに助け合い、死がふたりを分かつまで愛し合うことを誓いますか」
「はい、誓います」
あああっ! 誓ってしまいましたわ!
とうとう誓ってしまいましたっ!
死がふたりを分かつまでどころか、わたくしは死んでもアルを愛し続ける自信がありますわ!
「次に、指輪の交換を」
緊張した面持ちの我が息子が、リングピローをついっとこちらに差し出しました。
ああ、我が子ながらなんて可愛いんでしょう。
隣のエミーもとっても可愛らしくって……もうわたくし嬉しすぎて死んでしまいそうですっ!
アルの手がそっとわたくしの手を取り、薬指に指輪をはめます。
指先にちょんっとアルが口づけを落としました。
……。
ぐあああ! ときめきすぎて心臓がぁあ!
「……イェルカ?」
「あ、いえ。べつに……幸せすぎて意識が飛びそうになっていただけですわ」
わたくしを心配してくれた優しい優しいアルにそう告げ、わたくしは彼の薬指に指輪をはめ、口づけを落とします。
「次に……誓いの口づけ」
はい、来ましたわ!
誓いの口づけですわ!
真っ白いレースのヴェールを、アルがはらりと上げました。
「イェルカ、顔が真っ赤だね。瞳もとろけちゃって……可愛い」
「アルも……っ、アルも、かっこよくて可愛いですわぁ……」
「うん、ありがとう。……じゃあ、目を瞑って」
「はい……」
アルの手が頬を撫で、腰を抱き寄せられます。
そして――唇が、触れ合いました。
「もうこれで、イェルカは正真正銘僕のものだ」
「わたくしの全ては、とっくに貴方のものですよ」
皆に拍手されて盛大に祝福される中、わたくしとアルは夫婦になりました。
「ママー、ケーキたべたい」
「はい、クレス。あーん」
「あーんっ――おいしい!」
結婚式を終えた後の披露宴は、和やかでアットホームな感じのゆるーいパーティになりましたわ。
子どもがいるわたくしたちに皆さん気を遣ってくださって、お互いに面倒な挨拶なんかは極力省くことにいたしまして、自由にお食事やお酒を楽しんでおりますの。
「ご結婚おめでとうございます、アルフレート兄上、イェルカ姉上」
「ありがとうございます、ハーディ殿下」
十七歳になられたハーディ殿下は、来年成人を迎えた後に、結婚式を挙げられることになります。
正妃となられるお方との挙式ですが、側妃となられるお方の披露宴も執り行う予定だそうです。
あの国王陛下の誕生祭の日に、わたくしがアルの子を身籠っていることを公表してから。アルが襲われそうになることもめっきりなくなり、ハーディ殿下がアルの身代わりをする必要もなくなって。
殿下は女遊びもやめて、五人の子どもとそのナディア嬢以外の四人の母親と、なんだかんだ仲良くやっていっているそうですわ。
「クレス、エミーもケーキがたべたいわ」
「うん、おいで、エミー。いっしょにたべよう」
すくすくと育ったクレスとエミーはとても仲良しで元気いっぱいで、先日エミーは「おおきくなったらクレスのおよめさんになるの!」と言っていました。
これにはクレスもまんざらでもない様子でしたが、クレスより喜んでいたのはエミーのパパであるハーディ殿下でした。
「クレスとエミーは本当に仲良しだね」
「うん! パパっ! ぼくはおおきくなったら、きょうのママとパパみたいに、エミーとけっこんしきをあげるんだ!」
「そうか、それは楽しみだな」
クレスはアルのお膝の上に乗って、エミーはわたくしのお膝の上に乗っています。
「ねえ、エミー。エミーはパパのお膝には乗らないの? パパが寂しそうにしているわ」
「えー? でも、エミーはいつもパパとなかよしだよー? ねー、パパっ!」
「うん、そうだな。――普段のエミーは、ちゃんと俺にべったりですよ。きっとイェルカ姉上に会えたのが久しぶりだから、姉上に甘えているんだと思います」
エミーは二歳前くらいから王宮で暮らすようになり、わたくしたちの邸宅にはときどき遊びに来るという形になりました。
最近はお式の準備でわたくしが忙しくて会えていませんでしたから、その反動で甘えているということなのですね。
「来年はハーディ殿下のお式ですね。楽しみですわ」
「ええ、楽しみにしていてください。兄上と姉上の式に匹敵するくらいの、素晴らしい式にしますから」
「僕も楽しみにしているぞ」
みんなで楽しくにこにこ笑って、ケーキやお料理と行った美味しいものを食べて、結婚式と披露宴は幕を下ろしました。
クレスを寝かしつけて使用人にお世話を任せた後、わたくしとアルはふたりでベッドの上におりました。
結婚初夜。
わたくしたちが男と女として寝る、二回目の夜でございます。
「イェルカ、愛しているよ」
「わたくしも愛しています……アル」
甘いキスを交わして、熱くとろけるような幸せな夜を過ごしました。
愛する人と結ばれて、愛する人との子どももいて、わたくしはとても幸せです。
――そして、数カ月後。
「あのね、アル……」
「なんだい、イェルカ」
「実は……ふたりめが、できたみたいです」
「!」
「まだ時期的に早いですが、もうちょっとしたら……また、お胸のマッサージしてくれますか」
「ああ、もちろん」
またアルに毎日お胸をもみもみされる日々が始まり、その後――クレスに弟か妹が生まれる予定です!
おしまい
年上おっぱい悪役令嬢と年下泣き虫王子の婚約破棄劇 幽八花あかね @yuyake-akane
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