第37話 『戦闘狂』

 私は再び剣を構え、そのリオナと名乗るヴァンパイアに飛び掛かった。


 「えっ!? おい! 何をするのじゃ!!」


 私の連続攻撃を、彼女はまたすべて受け止めて――。


 「ちょっと落ち着けっ!」


 拘束魔法を放ち、無数の魔力の鎖が私の体に巻きつく。が、黒い魔剣の能力『絶対境界』によって魔法は無効化され、鎖はボロボロになって砕け散った。


 「ええええっ! なんでじゃ!?」

 「もらったあああああっ!!」


 魔法が効かなかったことにビックリしているリオナのスキをつき、私は一瞬で彼女の体を六等分する。


 「ぎゃーっ! って、こらっ!! いきなり何をするんじゃ!?」


 首だけになったリオナが、唾を飛ばしながら私を睨んだ。


 「何って……戦い?」

 「いや、そういう流れじゃなかったじゃろ!? この戦闘狂っ!!」

 「ええ……自分だって楽しいって言ってたクセに!」


 私が唇を尖らせているうちに、リオナの体はまたくっついて元通りになった。


 「我の眷属になる話をしておったじゃろうが!?」

 「あー、ごめん。不死身って聞いてついテンション上がっちゃって。えへへ。あ、あと眷属とかはめんどくさそうだから、ならなくていいや」

 「ぐっ……こいつ、我を舐め腐りおって! というかお主、ぜんぜん魔力がないくせに、なんで我の魔法が効かないのじゃ!?」

 「ああ、それがこの黒い魔剣の力だからね」


 私は答えて、黒い剣を再び構える。


 「へえ、今はそんな武器があるんじゃな――って、おい!?」


 私は再びリオナの首を切断した。


 「こらーっ!! 何度、我の首を斬ったら気がすむんじゃ!」

 「ええ、そんなの決まってるじゃん。どっちかが死ぬまで」

 「なっ……!? あのなぁ~……」


 彼女がため息をつきながら、首を胴体にくっつけると、傷はみるみる再生していく。


 「我は不死身だから、死ぬことはないんじゃ! だが、お主がそんなに死にたいというなら仕方ない。せっかくのその強さ、殺してしまうには惜しいが」


 そう言って、リオナが剣を頭上にかざすと、彼女の体から赤い糸が無数に伸びていき、それが剣に巻きついていく。


 今まで針のように細かった剣がどんどん巨大化して、彼女自身の身長の二倍くらいもある真っ赤な大剣に姿を変えた。


 「スズ、と言ったか。リハビリ代わりになかなか楽しめたぞ。じゃが、もう終わりじゃ! 能力強化、ペタマックス!」


 彼女が頭上にかかげた剣が眩しい光を発し、その周囲を赤い電流がビシビシと走った。

 どうやら、魔法が効かないとわかったから脳筋作戦に出たようだ。


 「望むところよ! 再生できないくらいバラバラにしてあげる!」

 「調子にのるなよ! 死ねええええっ!!」


 リオナが剣を振り下ろす。超巨大な剣にもかかわらず、さっきの細長い剣と同じ、いや、それ以上の速さだ。


 私はとっさにその攻撃を剣で受け止めた。ガギィン! と激しい音を立てて、ものすごい衝撃が全身に伝わってきた。


 さすが、シエルがビビるほどの魔力の持ち主。圧倒的なパワーだ。


 だけど、まだ私のほうが速い。

 私が受け止めた大剣を受け流すと、軌道がずれた大剣はそのまま床に激突した。


 そのまま、私はリオナに攻撃するべく踏み込んだ。


 瞬間。


 剣の衝撃を受けた床の石畳が崩れて、いきなり私の足元に真っ暗で巨大な穴が出現した。


 あ、やばっ、落ちる。


 そう思った時。


 「スズッ!!」


 穴のふちからゼクスが手を伸ばしていた。


 「つかまれ!!」


 さすがゼクス! ありがとう!

 そう思って彼の手を掴もうとしたのだが。


 「きゃっ!!」


 敵に魔法を放って応戦したシエルが、反動で飛ばされたのかいきなり横から吹き飛んで来て、ゼクスの体に突っ込んだ。


 そのため、彼の手を掴む直前で私の手は空を切り、そのまま私の体は真っ暗な穴の中に落下し始めた。


 「わああああああっ!」


 最悪だ……せっかく楽しい戦いのクライマックスだったのに!


 「スズ――――ッ!!」


 ゼクスの叫ぶ声を聞きながら、私は深い穴の中を急降下していった。

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