第四章:魔王都は燃えているか!
第35話 『赤い夜空』
魔女の森を抜けた私が見たのは、夜空を真っ赤に染めて燃える魔王都の姿だった。
私はそれを見て、ついつい期待してしまう。
あそこに行けば、もっと強い奴と戦えるって。
正直、魔王は弱すぎた。ザコ過ぎた。魔剣の力で奴隷契約の呪いが無効化されたこともあったが、それにしてもアッサリと終わり過ぎた。
正直、物足りない。全然、戦い足りない。
思えば、魔王軍に入って最初の頃は、どんなに敵が弱くても、それなりに戦いは楽しかった。だけど、私の能力が上がれば上がるほど、戦いはあっさりと終わってしまうようになって、いつも物足りなさを感じていた。
もっと強い奴と戦いたい。
強い奴と戦って、倒してこそ、私が本当に最強なんだって実感できる。
だから、私は期待していたのかもしれない。
燃える魔王都。
あそこに、魔王よりももっと強い奴がいるって。
「おーい、スズ様~!!」
私が魔王都に向かって歩いていると、背後から聞き覚えのある声が追いかけてきた。
「スズ様にまた会いたいって願いがかなったぞ!」
「やっぱり俺たちにはスズ様しかいないんだあっ!!」
「相変わらず可愛い! かっこいい! 結婚したい!」
鬼兵士たちが、口々にそんな気持ち悪いセリフを吐きながら走って来る。なんか気持ち悪さがパワーアップしてないか?
「スズ、勝手に先に行くからビックリしたぞ」
ゼクスも駆け寄って来た。なぜか、シエルを背中に背負っている。
「あれ、どしたの。シエル、怪我でもしたの?」
「違うんだ、スズ! これには事情があって……」
なんだかゼクスが急にあわあわしだして、私と離れている時に不死者が襲ってきて、しかも同時に謎の試練が始まって、なんとか両方やっつけた、という話をしてきた。私が酔っ払いの話を聞いてるあいだに、そんな楽しそうなことがあったのか~いいなぁ。
「それで試練のあと、オルルカって赤い髪の女が現れたんだ」
「え? オルルカ?」
話を聞くと、彼らが会ったオルルカは、私が会ったのと同一人物としか思えなかった。私と一緒にいる同じ時間に、ゼクスたちにも会っていたってことか。さすが、魔女って言われてるだけのことはあるな。
「スズ、彼女が言うには、魔王城ではかなりの強敵と戦うことになりそうなんだ。俺たちの今のレベルでは、倒すのは難しいだろうって言われてしまった」
「へえ、そうなんだ」
確かに、この二人はレベルがまだまだ低い。戦いの経験が不足している。ゼクスから見たら、あのザコの魔王だってかなりの強敵だろうし、それ以上の敵がいたりしたら、もう何もできずに殺されてもおかしくはない。まあ、私にとってはきっとソイツもザコだろうけど。期待してガッカリするのは嫌だから、強敵なんて言葉に期待するつもりはない。
「まあ、死にたくないなら、行かないほうがいいと思うよ?」
私なりの、めちゃくちゃ優しい忠告だったのだが、ゼクスはフルフルと首を左右に振った。
「いや、スズが行くなら俺も行く。シエルも同じ気持ちだ。本当にそんなに危険なんだったら、大切な仲間を一人で行かせるわけにはいなかいし、俺がスズのことを守るんだって決めているからさ」
いや、だから私は守らなくていいって……彼の中での私の評価はどういうふうになってるんだよ。
「そうですよ、スズさん。私たちが一緒ですから、安心してください。どんなに強い敵だったとしても、私とゼクスがいればザコ同然ですから」
シエルが、ゼクスの背中におんぶされたままドヤ顔で宣言した。一体どういう立ち位置で言ってるんだよ。
まあ、一応は勇者と大聖女ってことだし、オトリくらいの役には立つかもね……。
「さあ、サクッと魔王を倒して、早く王都に戻りましょう」
「うん? 魔王はもう倒したよ?」
「「は?」」
ゼクスとシエルが、そろってポカーンとして私の顔を見た。なんだよこのバカップル。早く結婚して引退すればいいのに。
「いや、スズさん!? ちょっと待ってください!! 魔王を倒したってどういうことですか!? 魔王は魔王城にいるのでは!?」
シエルが大声でまくしたてて来る。めっちゃ元気じゃん! なんでおんぶされてるんだよ!
「魔女の森の中を歩いてたから、私が倒したよ」
「いやいや! ありえないでしょ! 魔王が外をウロウロ歩き回るなんて! ねぇ、ゼクス!?」
「あ、ああ……そうだな。というか、そろそろ自分で歩けるか、シエル?」
「あっはい……」
ゼクスの背中から降りると、シエルは急に元気がなくなってしまった。どんだけわかりやすいんだよ!
私は魔王都の上空の空を指差した。そこには無数の竜が飛び回っている。
「なんと言おうが、私が魔王を倒したのは事実だよ。で、あの魔王都の炎。きっと、魔王都は何者かの侵略を受けて、魔王はそれから逃げ出したのよ。ヘタレだから」
「ふむ……もしそうだとしたら、魔王軍よりもさらに凶悪な存在かもしれませんね。あの、空に飛んでいるのは、私たちが戦ったのと同じドラゴンゾンビのようです。オルルカは、魔女の森に瘴気が漂って来たことで、不死者が目覚めてしまったと言っていましたが、その瘴気の出どころは、どうやら魔王都みたいですね」
「なるほど、不死者か」
そういえば、魔王の全身には何かに噛みつかれたような傷がところどころにあったような気がする。
「魔王が逃げ出すような敵だけど……あんたら、本当に行くの?」
できればビビって帰ってくれた方が気楽なんだけど。
「当たり前だろ。そんなバイオハザードみたいな場所にお前を一人で行かせられないからな!」
ゼクスが力強く頷く。
なんだよ、パイをサンドって。またわけわからんことを言い出したよ。
「そうです、くどいですよ! 私たちは仲間なんですからね。さあ、そうと決まれば、今夜のうちに片付けてしまいましょうか。全員に『スピード超強化』のバフをかけますね!」
そういって、彼女が杖を空にかざすと、私以外の全員の下半身が赤い光を放ち、歩く速度が一気に速くなった。
「あれっ、シエル? なんか、スズだけバフがかかってないみたいだけど?」
ゼクスが不思議そうに私とシエルを交互に見て尋ねた。シエルも首を傾げる。
「おや、本当ですね。全員にかけたはずなんですけど……」
「ああ、いいよ。私は気にしなくて~」
魔剣の能力のせいで、強化バフもかからない体になっちゃったからね。
まあ、私は別にバフがなくても問題ない。実際、彼らと同じくらいのスピードで歩いているけど、ぜんぜん余裕だし。むしろ、もっと速くてもいいくらいだ。
そんな私の様子を見ていたシエルが、ハッとしたように目を見開いた。
「あっ、もしかして……魔剣の能力を解除できたのですね?」
「え? うん、そうだよぉ~。というか、あれ? シエル、前に聞いた時はこの魔剣の能力は知らないって言ってなかったっけ?」
「ハッ!? えっと……そ、それはっ! ……し、調べたのですよ、あなたに質問されてから、気になって……だから、今は知ってますよ!」
なるほど。さすが大聖女だけあって、真面目なんだな。なんか、すごい目をキョロキョロさせてるけど……。
そんなことをやっているうちに、魔王都の城門が近づいていた。
そこは地獄のような有様だった。城門からは大量の不死者があふれ出し、外をさまよい歩いている。
と。
その城門の前でフラフラと歩いていた不死者たちが、突然、一斉にこちらを振り向いて、不気味な声を上げながら、ものすごい勢いで走って来た。
「「グオオオオオオオオ!!」」
私は剣を抜いて叫んだ。
「さあ、死にたくなかったら、死ぬ気で私についてきなさいよ!」
「「「おおおおおお!!」」」
鬼兵士たちが、鬨の声を上げる。
こうして、月夜の下、燃え盛る魔王都での市街戦は唐突に幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます