魔王軍から追放&婚約破棄された鬼姫、イケメン勇者パーティにスカウトされるが…この大聖女、なんか怪しくない?
あいきんぐ👾
追放された鬼姫
第一章:王都テスタリアを死守せよ!
第1話 『追放』
魔王が世界を支配するまで、あと一歩。
あとは、人間族の王都を陥落させるのみ。
――という、ある日。
魔王の間に呼び出された私が扉を開けると、そこに集まっていた24人の精鋭上級魔導士たちが、一斉に拘束魔法を放った。
「なっ!?」
まさか魔王城の中で、いきなり攻撃を受けるとは思っていなかった私は、不覚にもその魔法をまともに受けて、全身に何重もの拘束魔法の鎖が巻きつき、完全に身動きがとれなくなって膝をついた。
「いきなり何をする!?」
脱出しようと力を込めるが、拘束魔法によって筋力低下と魔力低下のデバフがかかり、それが24重ともなると、さすがに厳しい。私は周囲の魔導士たちを睨んだ。
「早く解除しなさい! お前たち、死にたいのか!?」
すると、玉座に座ってふんぞり返っていた魔王が、薄ら笑いを浮かべて声を上げた。
「スズ、大人しくしろ。野蛮な鬼姫の貴様が暴れないように拘束しただけだ。こうでもしないと、まともに会話もできんだろうからな」
「会話? なんで、会話するのに私を拘束する必要があるのよ!」
「貴様が野蛮な戦闘狂だからだ」
魔王はあざ笑うように言った。その隣で、青髪をツインテールにして、黒いドレスを着た、無駄に胸の大きい女が、目を三日月型にして笑っていた。
パンドラ。夢魔の姫であり、魔王の妃だ。
「本当に野蛮ね。それに半鬼半人なんて、おぞましく下品な種族の血をふたつも引いて……生きていて恥ずかしくないのかしら?」
「パンドラ……」
私はそのいけ好かない高慢ちき女を睨みつけた。魔族以外の種族を見下すコイツの態度、本当に大嫌い!
「まあ、怖い。まるで獣ね。半鬼半人ではなくて、半鬼半獣の間違いだったかしら?」
「なんだと!?」
さすがにムカついた私は、立ち上がろうと脚に力を入れたが、その瞬間、横から髪を掴まれて、床に顔面を叩きつけられた。
「大人しくしやがれ! ゲヒゲヒ」
げっ、この下品な笑い声は……と思って、首をひねって見上げると、やっぱり。
私と同じ魔王軍十三番隊の、えっと、名前なんだっけ。興味がないから名前も覚えてないや。とにかく、十三番隊の隊長のホブゴブリンが、いやらしい笑みを浮かべながら私の頭を押さえつけていた。
ちなみにコイツは元は副隊長で、前の隊長が昇格したことで自動的に隊長になっただけのザコだ。
「おい、手を離せ、このザコゴブリン!」
「なにぃ、隊長に向かって、なんだその口の利き方は!? 相変わらず生意気なメスだ!」
ホブゴブリンが腕に力を加え、私の顔をグリグリと石の床に押しつける。この野郎ぉ……絶対、殺す。
「スズ、あまり陛下の前で、醜態をさらすな。見苦しいぞ」
魔導士たちのうしろから、黒い鎧に青いマントをまとい、青白い長髪をなびかせた男が現れ、無表情で私に忠告した。
というか、こらーっ! 私がこんな状態なのに、そのセリフはおかしいのでは!? まがりなりにも、婚約者だよね!?
――そう。彼は元、私と同じ魔王軍十三番隊の隊長であり、今は出世して将軍になった暗黒騎士。そして、魔王軍が世界征服を達成した暁には、私と結婚する約束になっている。つまり、婚約者。えへへ。照れますねぇ。
しかし、いつも二人きりの時は優しい彼が、今日は随分と冷たい眼で私を見てくる。あれれ、私、何も悪いことしてないよね?
「おーい、ゲイルフォン、あんたからも魔王に言ってよぉ。なんで、私がいきなり、こんなひどい目にあわないといけないのさ!?」
私が訴えると、ゲイルフォンは青く光る目をさらに冷たくして、私を見下した。
「二度も言わせるな。陛下の前だ。大人しくしろ」
はぁ、なんだよ、それ。ひどくない!?
まったく騎士って奴は、権力に弱いから困る。私と魔王、どっちが大事なの、と問い詰めたい気分だ。
仕方ないので、私は魔王に視線を戻した。
とりあえず、話しとやらをさっさと終わらせて、早く帰ろうっと。
「で、魔王サマ。私に話ってのは、一体どんな話なの?」
私が唇を尖らせて尋ねると、魔王は相変わらずニヤニヤした笑いを浮かべながら、玉座にふんぞり返って答えた。
「スズ。今日をもって、貴様を魔王軍から追放する」
「はあ!?」
突然の、そして予想外の宣告。正直、まったく意味不明だ。
だって私は今まで、魔王軍十三番隊の先鋒隊として、そこそこ活躍してきたつもりだ。一番槍もダントツであげてきた。正直、ここまで魔王軍が大躍進できたのも、私の功績が大きいんじゃないの~なんて思ったりもしてたのに。
「なんで私が追放!? 理由は!?」
「貴様が野蛮な戦闘狂だからだ。統一された世界で、貴様のような危険人物は必要ない。それに、人間の血を引く貴様が魔王軍にいたら空気が悪くなる」
おいおい。こらこら。
今まで散々、こき使ってきておいて、何ちゅーいいぐさだ。
「本当、人間のドブ臭い匂いをまき散らかされて、こっちはいい迷惑ですわ。ああ、くさい、くさい」
パンドラが、魔王にしなだれかかって、クスクスと笑う。マジでふざけてんのかコイツ。
「色情狂のおばさんがまき散らすフェロモンの香りに比べたら、よっぽどマシだと思うけど?」
あっ、思わず思ったことをそのまま口にしてしまった。
「ぶ、無礼者がッ!!」
頭を掴んでいたホブゴブリンが、私の顔面を思いっきり石畳に叩きつけた。まあ、いくらデバフされてても、ザコの攻撃なんて効かないけどね。
一方、パンドラを見上げると、真っ赤な顔をして目をワナワナさせている。よっしゃ、効果絶大。プププ、ざまぁ。
「半端モノの分際で、私をコケにしてくれるじゃない……どうやら、自分の立場というものが、まだわかっていないようですわね」
そう言って、彼女が部屋のはしに控えていた魔導士の一人に目で合図すると、その魔導士が私のほうに手をかざした。
すると、私の体を拘束していた魔力の鎖が上に引っ張り上げられて、強制的に立ち上がらされた。
また別の魔導士が、トゲトゲのついたメイスを2本、ホブゴブリンとゲイルフォンに手渡した。
……え、まさか?
私の顔を見て、パンドラが愉快そうに笑った。
「フフフ、どうしたのかしら、顔が青いようだけれど。さあ、泣いて謝るなら、今のうちですわよ?」
「はあ? 色情狂の上に色盲なの? 私の顔が青いなんて――」
私がその愉快なセリフを言い終わらないうちに、ホブゴブリンがトゲトゲメイスで私の腹を殴った。
「黙らんか! 無礼者ッ!」
「がはっ……!?」
お腹に激痛が走り、服が裂け、血が飛び散った。骨も折れたような気がする。
というか、なんで!?
こんなメイスごときで、しかもホブゴブリンの攻撃で、私がこんなにダメージを受けるはずがないんだけど。
そう思ってよく見ると、そのメイスが不気味な赤い光を放っていることに気づいた。
「強化バフ魔法か……」
魔王とパンドラが、どっと爆笑する。
「スズ、貴様の頑丈な体も、デバフをかけられた上で、強化バフつきの武器で攻撃されれば、ひとたまりもないようだな」
「本当に惨めでずわね。自分は最強~みたいな顔していたくせに、こんなにあっさりボロボロになるなんて。さあ、その猿をたっぷり可愛がってあげなさい」
パンドラがそう指示を飛ばすと、ホブゴブリンも下品な笑いを上げた。
「ゲヒゲヒ、かしこまりました、女王様の仰せのまま――にィッ!!」
「痛いッ!」
今度は、背中にホブゴブリンの振ったトゲトゲメイスが突き刺さり、私は激痛でエビぞりになって悲鳴を上げた。
半目を開けてチラっとゲイルフォンのほうを見ると、彼もまた赤く光るトゲトゲメイスを振り上げている。
ちょ、待て待て待て! ホブゴブリンの攻撃でさえ激痛なのに、暗黒騎士のコイツに攻撃されたら、死んじゃうんじゃないの!?
ゲイルフォンがすごい勢いで振ったトゲトゲメイスが、私の左腕に直撃する。
「ぎゃああああああっ!」
思わず、絶叫してしまう。左腕がぐしゃぐしゃに潰れて、骨まで砕けたような音がした。
その様子を見て、魔王とパンドラが愉快そうにゲラゲラ笑う。
いやいや、おかしいでしょ! なんで私がこんな目にあわないといけないのよ!
「ちょっと……げ、ゲイルフォン!? あんた、婚約者の私を殺す気なの!?」
私が荒い息を吐きながら睨むと、ゲイルフォンは冷たい眼をしたまま、唇を歪めた。
「婚約だと……バカが。まだそんな戯れ言を信じているのか?」
「は……はあ!?」
戯れ言!?
私が混乱していると、彼の背後から、一人の女が現れた。パンドラと同じ青い髪に灰色の瞳、真紅のドレスを着た女。確か、パンドラの妹の、イブとかいう女だ。つまり、夢魔。その女は、切れ長の目でジロリと私を睨むと、ブッ、と私の顔面にツバを吐きかけてきた。きたねーっ!
「この、泥棒猫がっ! ゲイルフォンは、私と婚約してるのよ! お前は、遊ばれてただけなんだよ、メス豚女!」
「なっ……なんだと、コイツ!!」
姉妹揃って猿だの豚だの好き放題いいやがって!
私はあまりにムカつきすぎて、拘束されていることも忘れてイブに掴みかかろうとしたが、それが最悪な結果を招いた。
ホブゴブリンとゲイルフォンがすかさず前後から私の胸と背中を同時にトゲトゲメイスで殴りつけ、サンドイッチになった私の体は、肉が裂け骨が砕ける不気味な音を立て、私は我慢できずに口から大量の血を吐き出した。
「フン、ざまぁ!」
私のぐったりした姿を見て、イブが吐き捨てる。お前、殺すリストに入れたからな。
しかしもはや、体の感覚が麻痺しまくって自分の体という感じがしない。
というか、それよりも!
私、遊ばれてただけだったの?
正直、これまで私は恋愛なんて一度もしたことがなかったし、ゲイルフォンが婚約しくれて、すごくうれしかった。なんだよ、騙されただけなんだ。ダサいなぁ、私。
「きもっ、今さら泣いたって遅いのよ!!」
イブが、憎悪に満ちた目で叫び、私の頬を平手打ちした。いや、理不尽すぎる。泣きたくもなるでしょ。私は被害者だぞ!
その後も、ゲイルフォンとホブゴブリンは執拗に私の体を殴り続け、魔王とパンドラは笑い続けた。
一体、どのくらいの時間が過ぎただろう。1時間以上はやっていた気がする。よく飽きないなコイツら。
拘束魔法によって強制的に立たされてはいるが、私の意識は朦朧として倒れそうだし、体は原形をとどめないくらいぐしゃぐしゃだった。
あぁ、もう。早く終わってくれないかな~。
終わったら、こいつら全員、まとめてぶっ殺してやるのに。覚えておけよ、マジで。
やがて、ようやく二人の攻撃が止まると、パンドラが私に近づいてきた。
「ククク……気分はどう? 血まみれになって、不細工が少しは可愛らしくなったじゃないの」
そう言って、パンドラは薄汚れた羊皮紙を私の顔の前に見せてきた。
「さあ、これはなんでしょう?」
パンドラがニヤニヤしながら言うが、そこに書かれた文字は私には読むことができなかった。魔法に使う古代文字だろうか。
「これは、魔王様と私の奴隷になることを誓う『契約書』よ。ここに血のサインをした者は、永久に魔王様と私に攻撃できなくなる。まあ、一種の呪いね」
えっ、何それ。ズルくない!?
私が魔王とコイツを殺せなくなるってことだよね!?
無理無理。絶対そんなのサインしない!
「さあ、ゲイルフォン。この女にサインさせなさい」
パンドラがニタニタ笑いながら、ゲイルフォンに指示すると、彼は「はい」と頷いて、私の右手を握った。冷たい手だ。
彼は私の人差し指を立たせて、契約書に近づけた。指、というか私は全身が血まみれだったから、血のサインをする準備は万端だ。
って……そんなの。
絶対にイヤに決まってるでしょ!!
「やめてええええっ!! ゲイルフォン、離してっ! 離してよおおおおっ!!」
私は血と涙でぐにゃぐにゃになった視界の中で、必死にゲイルフォンの顔を探し、懇願した。
だが、彼は何も答えず、私の指は彼に動かされるがまま、奴隷契約書にサインを書き込んでいく。
――『スズ』
サインが完了すると、私の左手の甲から煙が立ちのぼり、六芒星の不気味な焼き印が刻まれた。
「うわああっ! いやだああああああっ!!」
その時、私のベルトにくくりつけた鈴が、チリン、と音を立てた。
そして一瞬、プツリと意識が跳んだ。
気がつくと、パンドラが青い顔をして、私から後ずさるのが見えた。
あれ……終わった?
私は、無意識にゲイルフォンの姿を探した。
「ば、化け物!!」
彼の婚約者(?)のイブが悲鳴を上げ、口を抑えて目を見開いていた。
あ、そうそうコイツ殺すんだった。
私は剣を抜き、イブに斬りかかる。
だが、その斬撃は、ゲイルフォンの剣によって遮られた。はぁ、なんだコイツ。
「スズ、戦闘狂の化け物がッ!」
魔王が叫び、玉座から立ち上がった。
ゾクリ。
その瞬間、私は本能的に死の恐怖を覚えて、反射的に魔王の間を飛び出した。
「逃がすな! 追えッ! 殺せぇ―ッ!!」
魔王の叫びが追いかけてきて、私の心臓はドクドクと、死の恐怖に踊り狂う。
でもそれは、同時に『まだ生きてる』ってことでもある。
「ひひひ、けけけ……」
魔王城を飛び出し、魔王都を駆け抜けながら、自分でもびっくりするくらい気持ち悪い声で笑っていた。
ああ、やっと終わった。
ここからは、私のターンだ!
どこをどう走ったのか、歩いたのか、まったく記憶がなかった。
ともかく、私が気づいた時、そこは鬱蒼とした森の中だった。
えっ、どこ、ここ……。
近くで、川が流れる音がする。
体がまったく、動かない。
と、仰向けに倒れた私の顔を、赤い髪の女が覗き込んできた。
「スズ……やはり、運命には逆らえなかったようですね」
彼女は悲しげな表情で、囁くように言った。
――誰? なんで私の名前……。
「こうなった以上、約束は果たさなければなりませんね。あなたに、渡すものがあります」
私のベルトについた鈴がまた、チリン、と鳴った。
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👾<読んで頂いてありがとうございます!
今回は追放シーンということで、一気に書いたので長くなりました。(途中で切ると中途半端ということで、2~3話分くらいを一気出したのでw)
次回からは気軽に読める分量に(内容的にもギャグ路線で読みやすく)なると思いますので、よければ引き続きよろしくお願いいたします♪
※これは最初で最後の敗北シーンで、ここから最強になったスズさんが活躍します!
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