第10話  アンナレッタ、ハルアを見送る

「ハルア~!!」


 銀の森の森の西の境界にいたハルアは、突然後ろから吹いてきた突風に身体のバランスを崩した。


 ゴーグルを上げて、上空を見るとアンナレッタがハルアの処へ向かってきた。


「アンナ様!?」


「急の移動だったな。ロッソの所為か!?」


「巡礼騎士は、大神殿の警備騎士より二ランク上の位なんです。ロッソ様も考えて下さっていますよ。わたしの様な者にロイル家の警備など雲の上のことだったのです」


 アンナレッタは、大きく息をついた。


「お前は、私の剣術指南として来てもらったんだ。警備騎士としてじゃない!!」


「ですが。わたしは騎士です。アンナ様」


 アンナは、不服そうにハルアを見た。


「剣術指南では、不足か!?」


 少し大きな声で、アンナレッタは叫んだ。

 周りの樹が揺れている。

 ハルアもエル・ロイル家にいて、アンナレッタの魔法の力の強さは理解しているつもりだったが、ドキリとした。

 こんな小さな子でも、上司に怒られているより心がなえた。


「申し訳ございません、ロイルの姫」


 ハルアは、頭を地面につけるくらいの勢いで土下座した。


「そんな言葉が聞きたかった訳じゃない」


 アンナレッタはボソッと言った。

 そして、羽織っていた革の上着のポケットからキラキラ光るものを出した。


「お前、ピアスは?」


「開いてますけど。」

「そうか、餞別だ……受け取れ……」


「綺麗ですね、何の宝石です?」


「私の力を一部結晶化させたものだ。風の力が主だ」


「はい?」


 ハルアには、魔法グッズにも疎かった。

(「どうやって使え」)というのだ!?


 ハルアの問いに、


「身につけててくれれば良い」


 アンナレッタの答えだった。

 ハルアは、荷物から正騎士の少し小さなマントを出すと、着ていた毛皮のマントをアンナレッタにかけてやった。


「ありがとうございます。アンナ様。飛んでばかりでそんなに薄着では風邪をひきますよ。上空は寒いでしょうに。」


 アンナレッタは、リカルドに守られてるから大丈夫……とは言えなかった。

 言っても魔法が身近ではない彼女には、そう写っていたのだろう、としか思えなかった。


「では、参ります。姫、お達者で」


 ハルアは、立ち上がると、踵を返して馬に乗り、依頼人の待つ境界門の方へ向かって行った。





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