第8話  ハルアの一日

 ハルア・モートレックの一日は早い。

 故郷から、この銀の森へ来てから、食べ物で苦労していた。

 というのも、この世界の大半は、小麦粉によるパンが主食なのだ。

 だが、ハルアのいた山間の小さな村は、麦を作るには適していなかった。

 それで、米の水耕栽培が発達したのだ。

 ハルアは特に、自分の大きな手で握ったおにぎりが大好物であった。

 中身は川で取れた魚の身をほぐしたものだ。


 夜明けより、稽古を始めているので当然朝には腹が減っている。

 そのためにハルアは、夜明けよりも早く起きて飯を炊く必要があったのだ。


 アンナレッタは、小柄ながら体力的には問題は無いようだった。

 協調性は皆無だが、怒ってその理由をコンコンと言ったら納得してくれた。

 次の日からは、ズルはしなくなった。


 そして今度は、素振りの稽古だ。

 重い剣を正しいフォームで振るう。


 剣が馴染んできたら、ダミーの人形を使って稽古に励んだ。


「アンナ様、気合いっぱいに叫んで打ち込むのです」


「「「とぅりゃ~~!!」」」


 アンナレッタの声だけで、ダミーの人形が傾いてしまうのだ。


(アンナレッタの声には魔力があった)


「ハルア、そろそろ私と打ち合え」


 幾度かアンナレッタは、ハルアに向かってそう言ってきた。

 毎回同じ訓練の繰り返しで、アンナレッタも飽きてきたのだ。

 だが、その都度ハルアは、土下座をして断ってきた。


 そして、今日も日課は終わった。


「アンナ様、お腹が空いてませんか?」


「え!?」


「おにぎりですよ」


 ハルアは、アンナレッタにおにぎりを差し出した。

 あまりに突然のことに、アンナレッタはビックリしてしまった。


「持ち帰っても良いでよ。冷めても美味しいですから」


 言われてもアンナレッタには、どうすることも出来ない。

 人前で、食事をしたことなどないのだから……

 黙ってその場を離れた。


 ハルアは、黙ってアンナレッタを見送った。

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