第12話 蛇愛づる姫 -4-

 池を挟んで神社の裏手にある自宅に案内され、庭に面した縁側に座ってお茶をいただく。

「それで、相談っていうのは? 私で力になれそうなことならいいんだけど」

「ああ、うん。ルールをわかりやすくノートに書き出してみたんだ。間違っているところがないか確認してもらえないかな。あと、おすすめのカードとか、試合のコツとか、そういうのがあれば聞きたいな」


 コガケンと共に作ったノートを手渡すと、涼子は丁寧に目を通してくれた。

「大丈夫じゃないかな。とりあえず今は、ゲームが滞りなく進行できる基本の流れがわかっていればいいと思うよ」


 ノートを指さし一緒に流れを確認しながら、アドバイスをくれる。

「まず最初のターンで装備を身につける。一度に装備できるのは防具と武器それぞれ各一つずつだけど、セットになっているものはまとめて一つとみなされるよ。もし後から装備を付け替えたい時は、すでに装着しているものは捨てないといけないから、装備カードも複数枚入れておいた方がいいね」

「装備でおすすめのものとかはある?」

「基本は神使いの一番使いやすいものにするのがいいと思うよ。真朱まそおさまは何が得意?」

涼子ちゃんは真朱に聞いた。

「大体のものは扱えるけど、強いて言うなら弓……あと普通に近接も得意かな」


 涼子はうんうん、と頷きながら話を続ける。

「実際、カードのレアリティが低くても、カバー出来る範囲なのよね。神使い自身の能力を生かす編成や、流れを作ることを意識するといいと思うよ。逆に言うと、レアなカードがあっても、それらを殺すような使い方をすれば負けるということね。まあ手に入るに越したことは無いけれど、なかなか難しいんじゃないかな」


 なるほど、祖父に渡された本からだけでは知りえない、生きた情報ばかりでありがたい。今度は祥太郎の方から尋ねる。

「攻撃には『小』と『大』があって、カウントはどちらも6。小攻撃6点で大攻撃の1点分に相当する。最終的に大攻撃6点分のダメージが入ると負けだよね。小攻撃は、装備や神使い本人の素早さなどによって回避が可能だけど、大攻撃は基本的に回避できない。そのかわり『防御カード』を使うことでダメージを軽減できる……で合ってる?」


「そのとおり。ちなみに試合の時は、小攻撃には弱・中・強と、ダメージの入り具合で点数の変動が発生するから注意が必要ね」


 さらに涼子が続ける。

「実際に試合となるとかなり雰囲気が変わってくるから、カードに書いてあることだけに捕らわれないで、常に三次元的な考え方をすることを忘れないでね」


 三次元的な考え方とは、いったいどういう意味だろう? と頭の上に疑問符を浮かべた様子の祥太郎を見て、涼子は言った。

「まずはカードで対戦してみようか? 本当は試合形式でやりたいところだけど、立会人が必要になっちゃうから、今日はちょっと難しいの」


 涼子は自分のデッキから何枚かカードを差し替えて、祥太郎の持っているものと同じくらいまでにレベルを落としてくれた。祥太郎にとってはこれが初めての対戦であったが、涼子の誘導もあり、それなりに上手く進行できた。


「うん、流れはいいんじゃないかな?」


「さて、それじゃあさっきの『三次元的』とはどういうことかって話なんだけどね。今は双方とも、普通の何もない地面の上にいるという前提で勝負したよね? だけど、もし例えば相手が空を飛べる神使いで、空中にいたらどうなると思う? リーチの短い武器だと、攻撃が届かないなんてことになるかもしれないね。他にも、平坦な地面ではなく障害物の多い場所だったらどう? 逆に今度は、長物だと振り回しづらくて攻撃の精度が落ちるかもしれない。またある時は、相手が鍛え上げられた見事な肉体を持っていたとする。そうなると、攻撃は当たれども、ちょっとやそっと叩いたくらいでは、全然ダメージを与えられないという事態が発生するかもしれない」


「こんな感じで、カードの盤面だけ見ていたらわからないことがあるから、常に想像力を膨らませて、状況に柔軟に対応できるようにしておくことが大切なの」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る