五、再度迷宮へ

五、再度迷宮へ


エルディア。

中央にはエルディア王がおり、その周囲は貴族の領土となっている。

王侯が合議制をもって治めている形になっている。


産業は農業が中心である。

穀物を多く生産し、それを国外まで販売している。

多くの商人が行き来しているので、国外から品物が入ってくる。


レンズ迷宮はエルディアの北の外れに位置する、ノルディッシャー公爵領内にある。

いわゆる古代遺跡で、古代の高位の魔術師が作ったと言われている。

迷宮が発掘されてすぐ、お宝目当てで探検する者達が集まるようになった。


為政者側はすぐに迷宮を利用し、入場料金を徴収することにした。

料金さえ払えば、持ち帰った品は探索者の物だ。


ただ、レンズの町で換金する者が多く、結局は上流階級へ流れてゆく仕組みではある。



「ふーん、この町は迷宮でもってる訳か」

冷夏は説明を聞いて、うなずいた。


「そう、私たちみたいな貧乏人は迷宮に潜って一攫千金を狙うしかないんだ」

リンはそう言って、足をバタバタさせた。

ベッドに寝っ転がったままである。


「そうは言っても、実入りはほとんどないんだけどねー」

レンがジト目で腕組みする。

こちらは椅子に座っていて、白湯を飲みながら帳簿を付けていた。


「だったら、もっと奥まで探索すれば?」

冷夏は率直に言ってみた。


「奥に潜れば潜るほどモンスターたちも強くなってくんだよなー」

リンは上半身だけ起こして、冷夏を見る。


「下手に奥へ潜るとエラい目に遭うからねぇ」

レンは何か思い浮かべているようだ。

いわゆる遠い目というヤツ。


「それは私が相手してやるよ」

冷夏は言った。



そして、再度迷宮に潜る。


冷夏が先頭になって歩くと、浅い階層のモンスターたちとは遭遇すらしなくなった。

溢れ出る魔力のせいで、遭遇前に逃げ去ってしまうのだった。


中層に入ると、さすがに戦闘が発生する。

大分及び腰ではあるが、中層のモンスターたちにもプライドがあるらしい。


『ウラーッ!』

『吶喊!』

モンスターたちは束になって突撃してくるが、


ドゴォ!


冷夏はすべて1人で片付けてしまった。


「わー、レーカすごい!」

「さすレー!」

レンとリンが後ろで盛り上がっている。

完全に観客と化している。


「こんなもんか」

冷夏はつぶやく。


冷夏は問題ないが、リンとレンの体力が持たないので小休止。

ついでに食事を取る。


「歩いてるだけなのに、もう休憩か」

冷夏は言った。


「だって、人間は体力ない生き物なんだよ」

「レーカみたいに体力無限じゃないんだよ」

リンレンはギャーギャー騒いでる。


(現代の犬にこんなのいたな…)

冷夏はチワワを思い出していたりする。


「さて、そろそろ前回のヤツらが出た所だぞ?」

冷夏は言った。


「よく覚えてるね」

リンが頭を掻いた。


「リンは記憶力悪いからね」

レンはニヤニヤ笑っている。


「なんだよ、その代わり運動神経は良いんだよ」

リンはプイとそっぽを向く。


「フィーンドだっけ?」

冷夏は思い出している。


「そう、悪霊の強いヤツ」

「ツヨツヨ悪霊」

リンとレンが言った。


「よっ!」

その途端、冷夏が何もない空間を掴んだ。


『ギャッ!?』

虚空から声がして、


「隠れてんじゃないよ」

冷夏は掴んだソレを引きずり倒す。


ドサッ


重い音が響いて、何かが姿を現わした。


黒いモヤのような外見。

辛うじて人型。


フィーンドだ。


「動くな!」

冷夏は足で踏みつけて押さえつけた。


『グエッ』

フィーンドは呻いた。


「コイツは偵察だな」

冷夏は踏みつけながら、周囲を見回す。


キラリ。

獣じみた瞳が光る。


その眼には、不可視の者たちも見えているようだ。


通りの向こうの曲がり角で、フィーンドたちが冷夏たちの様子を見ていた。


『チクショー!』

『アイツ、ナンナンダヨ!?』

『バケモンが!!』


フィーンドたちが口々に叫ぶ。


「バケモンはお前らもだろ」

冷夏は煽っている。


「え? なに?」

「フィーンド?!」

リンレンは、数瞬遅れてギョッとなる。

レンが荷物から、レンズを取り出す。

今回奮発して購入したアイテムである。

これを通して見ると、不可視のモノが見えるという便利道具だ。

二枚購入したので、レンにも渡す。


『オレニマカセロ!』

前回ワンパンKOのデカいフィーンド、ボスフィーンドが曲がり角から姿を現わした。


『アニキ!』

『カッケー!』

『ガンガレ!』

手下のフィーンドたちは角に隠れて、はやし立てる。


『フフフ、ワレニ秘策アリ』

ボスフィーンドがズイと前に出る。


「やってみな」

冷夏はそれを見ている。


「レーカ、気をつけて!」

レンが言った。

「レーカさん、十八歳!」

レンが茶化した。


「うるさいよ」

冷夏は思わず振り返って叫ぶ。


『ソリャア! トッテオキノ魔法ヲ喰ラエ!』

ボスフィーンドは右手をかざした。

『ウーンド!』


シャアアアッ


見えない魔法の衝撃が走ってきて、


バシャアッ!


冷夏の身体に当たる。


ジュワアアッ


効果音を出しつつ、冷夏の腕が裂けた。


「暗黒魔法!」

「傷を与えるヤツか!」

リンレンが騒ぐ。


『ドヤッ!』

ボスフィーンドが得意そうな顔をした。


が、


シュワシュワ。


同じく効果音を出しつつ、すぐに冷夏の傷が治っていった。


『エ?』


「うわ、なにこれ?」

「キモッ!」


「キモイとか言うな!」

冷夏はちょっと怒った風で言った。


都市伝説の怪異である冷夏は、ダメージを負っても修復する力がある。

通常の傷はもちろん、魔法のダメージも修復してしまう。


「で?」

冷夏はボスフィーンドに向き直り、聞いた。


『……ア、アノ』

ボスフィーンドは若干言い淀んだ後、

『フィーンドノ放ツ、ウーンド、ナンチャッテ……』


ムカッ


擬音が聞こえたようだった。


激怒した冷夏がボスフィーンドをボコボコにしたのは言うまでもない。

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砂鳥冷夏は怪異である。都市伝説の怪異が異世界転移し、ファンタジー世界で暴れる。 @OGANAO

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