第3話 恋愛観
「父さん、今日は僕の方から相談があるんだ。」
いつものように、親子で昼休みにベンチに座って、僕の方から話を切り出すと、父さんはキョトンとした顔をした。
「お前から俺に話があるとは珍しいな。話してみろ。」
「うん、実はクラスの女の子から告白されたんだ。」
「・・・ん?何をだ。何の告白だ?」
いや、察しが悪いにも程がある。父さんの顔がマジだもんな。えー言うの恥ずかしいんだけど。他に人とか来てないよな。
僕は周りをキョロキョロ確認した後、小っ恥ずかしいことを言った。
「愛の・・・愛の告白。」
「あーそうか、凄いなお前。告白されたのか。えっ?誰?クラスの奴か?」
ローテンションの割にぐいぐい話聞いてくる。父さんは顔に似合わず恋愛の話とか好きなのかな?
「同じクラスの佐々木さん。眼鏡掛けたオサゲ髪の。」
どうせクラスメートの名前とか覚えてないだろうし、容姿まで言ってみた。
すると父さんは両手をポンと叩いた。
「あー、あの地味な子か。」
「僕に告ってくれた子を地味とか言わないでくれる。」
「えっ、彼氏面か?もう付き合うのか?」
「い、いや、まだそれは考えてないけどさ。」
佐々木さんとは、あまり接点も無いし、話したこともほぼ無い。
「付き合うキッカケみたいなのはあったのか?」
やっぱり凄い聞いてくるんだが、研究者の性だろうか?僕は研究対象なのだろうか?
「なんか、俺が彼女の消しゴム拾ったのをキッカケに好意持たれたみたい。」
「ほぅ、たかが消しゴムでか?中々興味深いな。」
メモまで取り始めた父さん。消しゴムと恋心の因果関係でも研究するつもりだろうか?
相談しようと思ったのに、これじゃあインタビューじゃないか。
それにしても、この人にも恋愛経験とかある筈なんだよな。じゃないと僕も生まれないだろうし。
思い切って聞いてみるか。
「父さんも恋愛経験とかあるんだよね。」
「ん?無いよ。」
サラッと言いやがった。まぁ、なんとなくそう返されるとは思っていたけどね。
でも、父さんは更にこんなことを語り始めた。
「そもそも恋愛とは必要なのか?自分の時間を犠牲にして他者と時間を共有する・・・あまり有益とは思えないな。確かに他人から受ける刺激は自分にとって良いものだが、恋人というものは距離が近すぎる。人が人に合わせるとストレスが発生するからな。過度のストレスは体に悪い。体に悪いことはするべきではない。持論だがな。」
なんか凄い語り出してきた。研究者な感じ出してくんなよ。
でも良い機会だから、ずっと聞いてみたかったこと聞いてみようかな?ちょっと怖いけど。
「なら父さんは、何で母さんと結婚したのさ?距離が近いとストレス感じるんだろ?」
この問いに、父さんは右手の人差し指で眼鏡の真ん中をくいっと上げて、こう答えた。
「楽だったからだ。」
・・・ちょっと待って、斜め上の答えで僕は混乱中。
「ら、楽って、そんな理由で?」
「あぁ、母さんとは共同研究者として息があってたし、自然体で居られて、会話も弾んでノーストレス、これなら結婚できると踏んだわけだ。」
あー、ショックでかいなぁ、好き同士で結婚したんじゃなくて、楽だから結婚したって・・・これじゃあ、僕も流れでなんとなく産まれてきたんじゃなかろうか。
まぁ、ここまで来ると何でも聞ける気がしてきた。こんな質問もしてみようか?
「父さんは母さんを愛してないの?」
「ん?愛してるぞ。決まってるだろ?」
・・・あれ?予想外の答えなんですけど、真顔で愛してるとか言われると、こっちが恥ずかしいんですけど。
「で、でも楽だから結婚したんでしょ?」
「そりゃそうだが、だからといって愛してないわけないだろ?大体、愛するというのは行為なんだから、心掛け次第で容易だ。ポイントは相手に対していつも感謝の心を忘れないことだ。」
父さんのくせに、割とまともなこと言ってる。ただの研究バカと思ってたのに、ちゃんとした倫理観とか持ち合わせてたんだ。
じゃ、じゃあ、思い切ってこんなことも聞いてみるか。
「僕、僕はさ、ちゃんと父さんと母さんが愛し合って生まれたのかな?」
こんなことを聞いて、僕も自分がどうかしてると思うけど、子供の頃から聞いてみたかったんだ。淡白な夫婦の間に生まれた僕は、ちゃんと愛があって生まれたのか?
それを確かめない限り、僕はちゃんと人を愛せそうに無いまである。
「明、当たり前だろ?じゃなきゃ、俺みたいな面倒くさがりが、子供なんて作るわけなかろう。心外だぞ。」
・・・心にジーンときた。何か泣きそうだ。
このままだと父さんに抱き着いてしまいそうだけど、流石に人気のないベンチに座って、クラスメートの男同士で抱き着いて、それを誰かに見られた日には僕の高校生活がヤバいことになってしまうから、ぐっと堪えた。
「それにな、母さんは着痩せするタイプでな。脱ぐと凄いんだ。あれには草食系男子の俺も、ライオンにならざる・・・。」
「待って待って!!生々しい話は勘弁してくれよ!!」
このままだと、僕の誕生秘話を鮮明に話しそうな気がしたので、流石にストップを出しました。
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