父親が同級生

タヌキング

第1話 車は要らなかった

僕の名前は古市 明(ふるいち あきら)、高校2年生。なんの取り柄もない普通のテンプレート男子高校生だけど、実は父親と母親が科学者で、僕が幼い時から家の地下室で何やら怪しい研究をしていた。

二人共、若干ネグレクト気味なぐらい研究に没頭していたので、今になって思えば僕は、よくグレずに育ったものだと自分で関心してしまう。



だが、そんな僕に若干試練めいたことが発生した。

なんと自分の父が若返り、尚且つ同級生になってしまったのである。

面倒なので詳しい説明はしないが、要は父と母が研究していたのは若返りの薬の制作であり、その研究が実を結び若返りの薬が完成。父は自分を被験者にして若返りを実行して見事成功。

これには僕も拍手したけど、ここからが問題。

なんと父と母は元に戻る薬は作っていなかったのである。

テヘペロと二人して舌を出したウッカリ者達には呆れた。

そして、この科学的成果を他に知られないために偽造工作しないといけなくなり、父が僕の従兄弟として我が高校に編入(もちろん、身分偽造)、その上僕のクラスに入ってきてしまった。

こうして、元に戻る薬が出来るまで父親が同級生のクラスメートになることになり、正直これには僕は頭を抱えている。



昼休みになり、ご飯を食べ終わった父は、いつもの様にフラフラと教室の外に出て行く。お目付け役の僕はそれを追わねばならないのだから面倒で仕方ない。

眼鏡をかけた地味系高校生の父は、いつも様に教室棟と教務員棟の間の中庭のベンチに座り、缶コーヒー片手にボケっと虚空を眺めている。

姿形は若いけど、まるでサラリーマンの昼下りである。


「父さん、またボーッとしてるんだね。」


「おぉ、明か。まぁ、ここに座れ。」


父は横にズレて、頼んでも居ないのにベンチに僕が座るスペースを作ってくれた。これでは座るしか無いよな。

そして隣同士に座る親子の暫しの気不味い沈黙の後、父はこんなことを言った。


「明は車欲しいか?」


唐突過ぎて意味が分からない質問だったが、僕は正直に答えた。


「まぁ、人並みには欲しいかな?遠くに行く時便利だし。」


「そうか、お前もそっち側か。ふーん。」


何だかガッカリした顔をしてコーヒーをすする父に苛立つ僕。

僕は父が車に興味無いのを知っていた。近場なら父が車を運転することもあるが、長距離運転の時は専ら母が運転していたからだ。


「なんでそんな話するの?」


「いやな、さっき男子がクラスで騒いでたろ?車が欲しい、乗るならスポーツカーだよな。みたいなのを。」


「あー、騒いでたね。」


僕はクラスで陰キャの方なので、雑音程度に陽キャ達のそんな会話を聞いてたけど、まさか父も聞いていたとは思いもしなかった。


「どうして車なんかに興味があるのか分からない。そんなに車が魅力的か?」


「い、いや、まぁ、好きな人は好きなんじゃない?僕は移動手段として欲しいだけだからさ。」


「俺は運転もしたくなかった。親に免許取りに行けと言われて無理矢理言ったクチだ。おかげで仮免も本免も一回ずつ落ちたし、仮免の前の見極めでもセンターラインに寄り過ぎてたせいで、仮免が一週延期になった。あのチケット高すぎるんだよ。おかげで親に怒鳴られた。」


フーっとため息をつく父。どうやら苦い思い出のようである。


「でもな、悔しいとかそんな気持ちは一切無かった。車に興味無かったからな。運転なんか出来なくても生きていけると思ってたから、向上心の欠片も無かったんだ。」


「な、なるほど。」


「まぁ、なんとか免許は取れたけど、でっ?って感じだったよ。嬉しいとかそういう気持ちは一切湧いてこなかった。免許更新とか面倒臭いしな。未だに車で自分の町から出たこともない。自転車と同じ感覚だ。」


・・・流石は若返る薬を作った人だ。我が父ながら変わった考え方だ。でもどうして車に一切興味ないのだろう?


「父さん、どうして車に興味が一切無いの?ロボットとか好きじゃん。」


「フーッ、だからだよ。」


「えっ?」


「車って中途半端だろ?変形たり合体したりしてロボットになるなら、俺も目をキラキラさせるけど、あんなタダの動くだけの鉄の塊にロマンなんて無い。オマケにやたら値段が高いしな。あれ買うぐらいならロボットのフィギュアを100体ぐらい買った方が俺にとっては有意義だ。」


ここまで来ると逆に清々しい。

昼下りに父と話すのも悪くないと、ちょっと思ってしまった。


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