赤い空が一面に広がっている。生き物の影はどこにもない。その中に一つの崖があり、小屋がぽつんと建っている。現在その持ち主の意識は世界大戦の中にあった。

「―――〜〜ッッ!」

枯れ果てた叫びが屋根を突き抜けて空まで響いた。彼は、長く艶のない真っ白な髪を振り乱している。自由に動かせる両足がない。ベッドに上がることもできないので、背の高い身体を車椅子の中に収めている。

敵にレーザーを突きつけられた瞬間、雷鳴が轟いて、雨が崖に降り始める。赤い空はかき消え、黒い雨雲が取って代わる。主は深いため息を吐きながら目を開けた。両腕の具合を確かめる。肘から下を持ち上げてみれば、情けなくぶるぶると震えた。嵐はどんどん強くなる。

「眠りたいでしょう」

その時、どこからか小さな声がした。主はぞくりとして、辺りを見回す。

一体どこから襲ってくる?

「ああ、ごめんね。僕はスカイ」

声は近くなる。主は暴れる心臓をどうにか押さえつけ、出来得る限り最大の威嚇をした。

「おい、こっちにだって武器はあるんだ。動けないからって舐めるなよ」

無理に動こうとして、主の上半身はぐらりと傾いた。息を呑んだその時、手のひらが主の体を支えた。優しくも強い力だった。

「何をする!離せ!」

主がいくらもがいても、スカイの手のひらは離れない。

「だめだよ暴れたら。危ないよ」

主は、子供の癇癪のようにうわごとを言い立てた。

「殺してやる!」

全てを呑み込むような嵐も,いつかは終わるものだ。辺りは再び静寂に包まれる。二人はまだお互いの顔さえ見えないままでいる。

「絶対に殺してやる」

主が凄んでも、スカイは顔色ひとつ変えなかった。

「でもねぇ、殺されにきたわけじゃないんだよ。君を助けにきたんだ」

のんびりとした口調だった。

「身体、動かないんでしょう?僕が助けてあげるよ」

スカイはにっこりと笑った。

「助けなどいらない!誰の差し金か知らないが、俺に構うな。出ていけ!」

嘘であった。主は下半身の感覚を失ってしまったので、足の指を動かすことさえできないのである。それに加えろくな食事も摂っていないので、骨が浮き出るほど痩せていた。

 スカイは目を伏せたが、それは一瞬のことだった。主の身体から手を離すと、手探りで椅子を見つけてそれに腰掛け大きく伸びをする。

「こう暗いんじゃ、何もできないね。一眠りするよ、雲が去ってから話をしよう」

そしてこてんと眠ってしまった。

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