第27話
玄武の丸顔の太い眉毛が、正真正銘の逆ハの字になっている。
顔中に、怒りを露にしながら、
「きさま、………」と、言いかけた所で、
「まあ、その辺は、後日詳しく検証してもらうという事で、先に進んでもらえないか」と、辰巳警部が中に割って入った。
玄武も、握り上げた拳をそのまま下ろして、できるだけ落ち着こうと、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「では、D.三木塚瑛太の犯行説ですが、二人の接点はさほど無いので、確実に馬場を呼び出すための口実や、殺す動機等も薄く、殺害後の三木塚の予測される行動ルートからも凶器の類は一切見つかってはいない。もしも馬場が地下へ行ったとしても、待っている時に自分が乗って来た7号機のエレベーターをキープしておかなければならない理由もない。三木塚が殺したとする仮説を考えると、どれもこれも不自然で、無理くり感が否めない。よって、これも不可能とさせていただきます」
――玄武は、赤いマーカーで躊躇無く、D案を×にした。玄武のC案だけを残したいという気持ちが露骨に表れていた。
数日前にE案として、三木塚が十一階ですれ違った時に、馬場の後を追いかけて、エレベーターに乗り込んで一突きしたというのもあったが、一緒に降りてきた二人の供述から、三木塚にそんな気配はなく、馬場もエレベーターが閉まるまでは生存していたとの確認がとれたので、消されていた。
また、F案として、馬場を地下に呼び出したのが、少し先に帰った本郷だったらという可能性も議論されたが、本郷が十三階から8号機のエレベーターに乗り込んで、もしも地下一階のボタンを押していたら、一階ホールの上行ボタンにロックされることは無く、また、本郷が二〇階などの上の階を押していたとしても、同様に一階の上行ボタンにはロックされないということで、この説も消されていた。
「それでは、他に仮説がないとしたら、今後は残ったC案の裏をとるために………」
「すいません!」
また、悠真の声であった。
長身の悠真が手を上げていた。座っていても手が長いので一際目立つ。
「何ですか?」と、玄武は、眉間に皺を寄せて悠真を見た。
「僕の推理を、言ってもいいでしょうか」
玄武は、わざとらしいため息をつくと、伺いを立てる様な目で、長老の辰巳警部を見た。辰巳警部は、静かに頷いた。
「どうぞ」
玄武は、そう言ったが、こんな若造に何が判るかと、鼻から相手にはしていなかった。自分たちが二週間も捜査をしてきて、凶器一つ見つからない難事件を、今日捜査に加わった者に、何が判るかと半分怒りも感じていた。
悠真は、椅子の前に立ち上がって話し始めた。立ち上がった悠真の頭は、一段と高い位置にある。
「さっき、先輩にも少し話したんですけど、………ん!?先輩、………先輩!聞いてますか」
安由雷は、隣で腕組みをして、下を向いてウツラウツラしていた。
悠真はそれを目敏く見つけると、耳元で声をかけた。
それは安由雷を現実に引き戻してくれる、いつもの悠真の声だった。
「何だよ、聞こえてるよ」
安由雷が、邪魔臭そうに顔を上げた。全員の視線が安由雷に注がれる。
悠真は、手帳を開きながら話し出した。
「それでは、僕の推理なんですけど……」
と、悠真は、腕組みをして、また下を向いてしまった安由雷を見た。
「聞いてます?」
「ああ」
と、安由雷は自分以外の全員に、話をしてくれと言いたかった。
本当に邪魔臭い奴だと思った。
「僕の考えは、吉川志季と三木塚瑛太の共犯説です。では、この二人が、どうやって殺害して、凶器をどこに隠したのかを説明します」
と、悠真は、手帳の頁をめくると続けた。
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