第三章 アユ&ユーマ参上!

第12話

悠真は、松芝総研株式会社の地下駐車場の隅に車を駐めた。

二人は車外に出ると、地下から上へあがるエレベーターを探した。


駐車場の中は、まだ午後の二時過ぎだというのに閑散としていた。松芝総研では、社員の自動車通勤を認めてはいない。  

従って、この駐車場を利用できるのは、一部の役員と、品物などを搬入に来る業者か、公園やレストランを利用する一般者ぐらいであった。  


二人は、地下の松芝総研の入り口を見つけると、ガラス張りの自動ドアを開けて中へ入った。  

入った右手に、眼鏡を掛けて髪の毛の薄い年輩の男と、小柄で若い警備員の二人が、制服を着て、腰の高さのテーブルの後ろに並んで座っていた。  

一般の人が利用をするレストランや書店への出入口は別にあり、そちらには警備員はいない。


「失礼ですが、こちらにお名前とご用件をお書きください」  

若い警備員が立ち上がると、テーブルの上を平手で示した。  

悠真が覗くとテーブルの上に、『外来者入館証』と書いてある紙が、束ねて綴じてある。

悠真が、警備員からボールペンを受け取ると、安由雷の顔を見た。  

安由雷は、後ろで首を軽く上に突き出して、早く書けという合図をしている。


悠真は記入用紙の名前の欄に、『安由雷時明』と記入した。


「会社名?」  

小さな声でポツリと云うと、悠真は後ろを振り向いた。

安由雷は、「え?」という顔をした。


「カ・イ・シ・ャ・メ・イ」  

悠真は、警備員には聞こえないように口をパクパクさせた。

 

会社名? 

………安由雷は、少し考えると、小さな声で、

「ケイシチョウ」と答えると、悠真が向きなおして記入サンプルを見てから、

また振り返って、口をパクパクさせてきた。


「ん?」  

悠真が、まだ何かが足りないと求めている。安由雷は、首を捻って悠真の口元に注目した。


警備員は、不思議そうな顔をしていたが、書いている途中で記入用紙を覗き込むのは失礼だと思い、素知らぬ顔をしていた。


「かぷは?」

「え?」


「株は?」と、悠真は、会社名にが付くのかと聞いている。


安由雷は、少し考えると、「つくつく」と、口を尖らせた。

悠真は頷いてテーブルに向き直すと、ひょろっとした長身をくの字に屈めて書き出した。  


課名?……… と、少し考えて、『捜査一課』と記入した。  

役職?……… と、少し考えて、『警部補』と記入した。  


眼鏡をかけた警備員が不思議そうな顔で、童顔の男の後ろで腕組をして、さっきから口をパクパクさせている上司のような男に視線を向けた。女の様に異様にまつげが長い。  

安由雷は、腰を屈めている悠真の肩越しに、自分を見ている若い警備員と目があった。安由雷は腕組みしたままで、口角を上げて微妙な笑顔をつくって見せた。  

警備員は、訝しげに首を捻って目を逸らした。

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