第2話 新婚さんみたい?

 幼馴染に監禁されてからの生活が始まってから、もう1週間か10日くらい経ったと思う。この辺の時間の感覚が曖昧なのは、窓と言う窓が全部塞がれてしまっていて外の様子が全く分からないので昼夜がわからないこと、音楽を聴いたりDVDを再生して録画を見ることは出来るけれど、普通のテレビやラジオなんかは聞けないようになっていたからだ。ニュースなんかが見られれば、今日が何日で今が何時だと言うのもわかるんじゃないかと思ったんだけど、普通にテレビをつけても何も映らなかったのだ…。ビデオやDVDなんかは見られるから、電気が来てないとか停電してるって訳ではないと思うんだけど…。

 私は、睦月の言動もこの状況もやっぱりおかしいよと思っているのだけど、核心に踏み込むことは出来ないでいた。

 睦月の家族がいつまでも戻ってこないのも不思議だったが、自分の家族だって自分が家に居なかったら心配してしまうはずだ。…とは言え、連れてこられた時にスマホも家に置いてきてしまっていて自分で電話やメールすることは出来なかったので、睦月に自宅に連絡させて欲しいとお願いした。…だって、私が行方不明だとかそういう騒ぎになってしまったら、睦月や睦月の家族が誘拐犯とかにされてしまうかも知れない。(実際そうでは?と言うのは置いて置いて)

 もう少ししたら外からパトカーのサイレンが聞こえてきて、たくさんの警察官がこの家に突入してきて、睦月を取り押さえられてしまう…なんて考えたら、私はゾッとしてしまった。

 誘拐された女の子を助けに来てくれると考えたら警察の人たちは全然悪い人ではないし、とても頼りになる存在だが、私は以前、U-TUBEで、警察が冤罪で取り押さえた男性があまりにも強く抑えた為に死亡してしまったみたいな事故を見たことがあったので、睦月がその騒ぎの中で怪我をしたり、殺されてしまったらどうしよう!?みたいな気持ちになってしまったのだ。

 だから家に連絡させて欲しいと訴える私の様子はきっと必死に見えたんだと思う。私がこんな風に慌てたり焦ったり困っている時、睦月は私を落ち着かせようとするように、いつも優しく穏やかな様子で微笑んでくれる。私の頭をよしよしと撫でて宥めてきた。


「華の家族には俺からちゃんと伝えてるから大丈夫だよ」

「…伝えるって?」

「しばらくの間、華がうちで暮らすってこと」

「え、ええ????」

「華のことよろしくって」

「えええええ????????!」


娘が誘拐?監禁?されてるのに!?

(乱暴されてるわけでもないし、良くして貰ってるけど…)

娘をよろしくって、まるで嫁に出すみたいに!!?


 私はびっくりしてしまって、また目を白黒させてしまった。

続けて、基本的に呑気な自分の両親を頭に思い浮かべる。「最近は疎遠になっていたけれどまた仲良くしてるのね~」と能天気に笑ってる母の姿を簡単に想像出来てしまった。


「そ、そんなまるで嫁に出したみたいな言い方!?」

「あ、確かに…。そんな感じかも?」

「な、な、な」


 つい口に出してしまったら、睦月はちょっと嬉しそうに笑って、照れたみたいに鼻の下を指で擦った。

 満更でもなさそうな睦月の様子に、私はまた恥ずかしくなってしまう。

そんな風に考えたことはなかったけれど、考えてみれば睦月と私は今(特殊なシチュエーションであることを置いて置けば)二人っきりで暮らしていて、確かにそれは考えてみたら結婚した夫婦みたいかも…。


「そう言えば、昔、華のおままごとに付き合ったことあったよな」

「こ、子供の頃の話はやめてよ…」


 そんな風に話ながら、睦月に誘われて私は睦月の家のダイニングキッチンへと向かった。私も手伝うよって言ったけれど、睦月がご飯は自分が用意するから華はテーブルを拭いてって私に台ふきんを渡した。

 コンロをつける音がして、間もなく、カレーかな?少しだけスパイシーないい匂いが漂ってくる。


「華はテーブル拭いたら座ってて?すぐに出来るからさ」

「ご飯、いつも睦月に作らせちゃってるし…、私だって簡単なものくらいは出来るんだから…次は私が作るよ」

「あはは。俺がやりたくてやってるから良いんだよ」

「だって、睦月が何処か行ってる間、私はずっと家にいて暇なんだもん」


 そう。時間の感覚がおかしくなってるから”多分"なんだけど、昼間の間、睦月は何処か外へと出かけていて、この家には、私が一人になる時間が多い。

 睦月が外で何をしているのかはわからないし、気にならないと言ったら噓になるけど、それは置いて置いて、私はその間暇なのは事実だった。

 ゲームをやったり漫画を読んだりして時間を潰すことは出来るけれど、期限もないままずーっとそれをしていろと言われると、それはそれでさすがに居心地が悪いと言うか…、落ち着かないと言うか…。


「それじゃあ、ご飯は華に作って貰おうかな」

「やった」

「でも、華、結構不器用だからちょっと心配。無理しないでね」

「な、なによ~~~~!!」

「絆創膏と消毒液はこっちの棚にあるから、切っちゃったりしたらすぐ手当してね」

「包丁くらい使えるって…!」

「それからコンロは―――」

「だーかーらーっ」


 私が吠えても、睦月は楽しそうに笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る