世界の終わりと嘘つきな溺愛王子

夜摘

第1話 幼馴染に監禁されている

 私は幼馴染に監禁されている。

 …いや、正確に言えば軟禁って言うのかな。縛られたりして動きを拘束されている訳ではないのだけど、しばらくの間、ずっと家の中に閉じ込められている。

 私、如月華きさらぎはなの、いつも通りの日々・代わり映えの無い日常は、ある日突然終わりを遂げ、幼馴染・安達睦月あだちむつきに言われるまま、彼の部屋へと連れて来られて、そのままそこに閉じ込められている。

 一応トイレとかシャワーとかは普通に使わせて貰っているけど、台所は彼と一緒じゃないと何故か入らせて貰えない。


 おかしいなと思うのは、玄関はともかく、家中の窓という窓に板が打ち付けられ、開け閉めが出来ないどころか光すら入ってこないレベルに塞がれている。例えるなら、台風の時にお母さんがやっていた窓ガラスが割れないように段ボールを窓に張り付けるみたいなのの、もっと頑丈版みたいな…。

 何が気になると言えば、彼の両親や家族なんかの姿もないこと。どうしてこんなことになったのか全然わからない私だけれど、さすがにそのうち彼の家族が戻って来て、何らかの説明でもあるんじゃないか?なんて期待もしていたのだけど、最近はそれも諦めモードになっている。

 不可解なことばかりで自分の状況はなーんにもわからないのだけど、睦月の部屋は普通に快適だった。


「あ、睦月、この漫画買ってたんだ。読んでみたかったんだよね」

「華それ読んだことないの?めちゃくちゃ面白いから絶対読んだ方が良いって!…あ、でもアニメのDVDもあるからそっちから見た方が良いかも」

「そうなの?じゃあ、そうしようかな」


 こんな会話だけ見たら、とても閉じ込めてる側と閉じ込められている側の会話には見えない呑気さかも知れない。

 でも、これは私がこのおかしな状況について核心を突くようなところまで、彼に直接踏み込んで聞くのが怖いという臆病さのせいだったり、そうした時に彼が見せる困ったような、悲しそうな顔を見たくないという思いが有ったりもする。

 ここに閉じ込められた直後には、私は一度ちゃんと聞いている。当然かもしれないが、いくら幼馴染とは言えお互いもう中学生で、異性な訳で…。お互いの部屋の行き来することだって、子供の頃は良くあったとはいえ、小学校の高学年になるくらいにはもうほとんどなくなっていたんだから。

 それがあの日、急に私の家にやってきた睦月は強引なくらいの様子で私の腕を掴んで、自分の家へと引っ張っていくと彼自身の部屋に放り込んだ。

 私はびっくりしてしまって、あの時はそんな睦月が怖くて、出ていった睦月を呆然としたまま見送り、そのまま彼の部屋で小さくなって再び彼が部屋を訪れるのを待つことしか出来なかった。

 その時に部屋の外でカンカンとか何かを金づちで打ち付けるような音がしたりしていたから、家中の窓が板で封鎖されていたのも、あの時に作業していたものなのだと思う。(睦月の部屋はもう私が来た時には封鎖されていたけど…)



「ねぇ、睦月。どうしちゃったの、今日…。なんかおかしいよ…?」


 カンカンという音が収まって、ちょっと疲れた様子の睦月が再び部屋に戻ってきた時に、私は彼に問いかけた。何だか急に彼が変わってしまったのかも…と考えてしまって私は少し怖かった。多分、睦月にも怯えた様子に見えたんだろう。予想に反して睦月は私の知っている子供の頃と変わらない優しい笑顔で、大丈夫だよって私を抱きしめた。


「何があっても俺が絶対に華を守るから。華は絶対にここから出ちゃ駄目だ」

「…守るって?…何を言ってるのかわかんないよ?」

「……今はまだわかんなくていいよ」

「……睦月?」

「俺は華が大好きだから、華とずっと一緒にいたいからここに連れてきたんだ。今は何も聞かないで一緒にいてくれよ」


 ぎゅっとただ強く強く私を抱きしめて、何故か懇願するみたいに言うものだから、私は言葉に詰まってしまった。それに、こんな風に"守る"だとか"大好き"だとか"一緒に居たい"なんて言葉だって、これまで言われたことなんてなかった。(子供の頃に華ちゃんだーいすき!とか言われたのは別として…。)

 だから私は、ただただびっくりしてしまったし、急に恥ずかしくなってしまって、何も言えなくなってしまった。

 この間までは身長だって私の方が高かったし、睦月は小さくて痩せっぽちで、全然頼りなかったはずなのに、今私を抱きしめる腕は力強くて、逞しくて。

 彼の胸板から聞こえてくるちょっと早い鼓動の音が、まるで自分の音なんじゃないかと錯覚しちゃうほどに、私もドキドキしてしまっていた。

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