第72話 地下の秘密 3

「レ、レイナ様っ!」


 俺が女の顔から手を離して立ち上がった時、四人の男たちは、女がすぐにまた立ち上がると思っていた。しかし、女は二度と立ち上がることはなかった。


「き、貴様、レイナ様に何をした?」


「化け物を浄化してやっただけさ。もう、こいつは終わりだ」


「ば、馬鹿なっ、そんなことはあり得ない。〈不死の大魔導士〉レイナ様が、死ぬことなど……」


「信じられないか? ほら、これを見ろ」

 俺は右手を前に出して、握っていた拳を開いた。二つの光の球がゆらゆらと空中に浮かび上がった。


「まだ、この世に未練があるのか、しつこいな。さっさとあの世に行きやがれっ!」

 俺はそうつぶやくと、もう一度手のひらから〈ピュリファイ〉を放った。その光に押し上げられるように、二つの球は上昇を始め、やがてたくさんの小さな光の粒に分かれて消えていった。


「はい、これで浄化完了。さあ、地下に何を隠しているのか見せてもらうよ」

 俺の言葉に四人の男たちは、さっと俺の行く手に立ちふさがった。


「こ、ここを通すわけにはいかん。我々は法王様からこの地下遺跡の守備を任されているのだ」


「じゃあ、戦うしかないな。どうせ隠しているのは、ろくでもないものなんだろう? だが、罪のないのに殺された人たちのためにも、俺は確めなくちゃならないんでね。あんたたちも人間なんだろう? 少しは罪の意識とかないのか?」


「す、崇高な法王様の理想世界を実現するためだ」


「はっ、それを聞いて安心したよ。遠慮なく倒させてもらう。なぁにが崇高だよ。罪もない人を大勢殺して、崇高もへったくれもあるかぁっ!」

 俺は叫びながら、一気に男たちに突進し、メイスを振り回した。


「うがああっ」

 ロングソードでメイスを受けた男は、そのまま剣ごと頭に叩きつけられて絶命した。


「ひいいっ、がふっ」「く、くそっ、ぎゃあっ」

 二人目と三人目は、逃げようとするところを背中を殴打され、腿を刺されて床に倒れた。俺は二人の首にメイスを突き刺してとどめを刺した。


 残った一人は、恥も外聞も無く逃げ出した。

「むんっ!」

 メイスを槍にしてそいつの背中めがけて投げた。ドスッ、という鈍い音が響き、メイスがそいつの背中に突き刺さり、そいつは短い断末魔の悲鳴を上げて床に倒れた。



♢♢♢


 奴らが地下にいったい何を隠していたのか。俺は、ホールの奥にあった地下への階段を下りていった。


(ん? 何か音がしてるな……モーターの振動音のような……)


『確かに、機械の音ですね。それに、強い魔力も感じます』


 自然に早足になって、緩やかな螺旋階段を駆け下りていくと、その先にうすぼんやりとした光が見えてきた。


 それは、金属製の巨大な何かの機械だった。前世で似たようなものと言えば、円筒形のサイロだろうか。それが地下の二層と三層を貫いて立っている。そしてその円筒にたくさんの管や線がつながっている。そして、低い唸り声のような振動音を発しているのだった。


『マスター、下を……』

 ナビに言われて、一番下の部分に目を凝らした。そして思わず、あっと声が出かかった。


 そこには、サイロの周囲に四か所、小さな円筒形の透明な容器のような物が立っていて、それぞれの一番上に四色の宝玉らしきものが載っていた。そして、驚くべきは、残りの地面は無数の白骨化した骨で埋め尽くされていたのである。骨は人間のものばかりでなく、あらゆる動物や大型の魔物と思われるものまで、多種多様だった。


(なんだ、これは……奴らはいったい何をしようとしていたんだ?)


『推測ですが、これは魔力を貯蔵するための装置ではないでしょうか』


(魔力を貯蔵……つまりあの無数の骨は、魔力を吸い取られて死んだ生き物の残骸ってことか?)


『はい、恐らく……そして、あの四つの宝玉はそれぞれ、火、水、風、闇の属性を付与するための魔道具だと思われます』


(……いったい、何のために……)


『例えば、この遺跡の上に高い塔を建て、頂上に〈魔導兵器〉を設置してこの装置と接続すれば、究極(アルティメット)級の魔法を何発も発射できるでしょう。魔法陣を空中に設置すれば、周辺の国も射程に入ります。少なくとも、この国ならどこの街も一発で消滅してしまうでしょう』


(なるほどな……権力欲に狂ったバカが考えそうなことだ。となると、やることは決まったな)


『マスター、気を付けてください。破壊することには賛成ですが、大量の魔力が暴走すると大変危険です』


(ああ、そうだな。どうやれば一番いいのか、分かるか?)


『そうですね……』

 珍しく、ナビがしばらく考え込んだ。

『……こういうのはどうでしょう、マスターが大容量の亜空間をこの地下に作って、その中にこの装置を丸ごと収納してしまうのです』


 俺は唖然となった。確かにこの大量の魔力を使えば、〈ルーム〉の何倍も大きな亜空間を創造することは可能だし、安全面でも一番良い方法かもしれない。しかし、俺にそんな大魔法が使えるのか? まあ、やってみるのは構わないが……。


 俺は地下二階の橋のように作られた足場を通って巨大な装置に近づいていった。


『恐らく、あの上部にある四つの管が、魔力を取り出すための接続バルブだと思われます。マスター、あの上に跳躍してください』


 言われるままに、巨大サイロの屋根の上に跳躍して跳び乗った。例の振動音が、体全体を震わせ、不気味な緊張感に包まれた。


 四つのバルブには金属のパイプが付けられ、その先端にねじ込み式のボルトが嵌められていた。


(よし、開けるぞ……いきなり爆発なんかしないよな?)


『火属性の魔法を使ったりしなければ、大丈夫です』


(お、おう……ボルトレンチとかあればよかったんだけどな……素手だと、かなり……ん、いや、すんなり回ったんだけど……)


『マスター、ご自分のステータスをもっと認識してください。マスターの力はすでに力自慢の大人の二倍以上なのです』


(そうか、いつもはあまり意識してないからな。さて、じゃあ、魔法の準備を始めるか)

 俺はその場に座ると、目をつぶって、この巨大な装置を収納するための空間をイメージした。〈ルーム〉を作った時と同じように、体積の数値を設定し、それを内包する黒い球体をこちらの世界との境界上に設置する。


(よし、イメージは出来た。ナビ、このボルトを外した後、魔力はどうやって利用するんだ?)


『取り出し口のところに額を当てて、自分の脳内に吸収するイメージを持ったまま、空間魔法を発動するのです。魔力は水と同じで高い所から低い所へ流れます。マスターが大量の魔力を使えば、その分がこの装置から補充されます』


(なるほど……じゃあ、いくぞ……亜空間生成っ! うおおっ……)

 例の如く、体の中から力がごっそり抜け出していく感覚、そして薄れる意識……。


 どのくらい気を失っていたのか分からないが、仰向けになった状態で目を覚ました。手にはまだボルトを持っていたので、慌てて起き上がってバルブにボルトをねじ込んで塞いだ。


(俺、どれくらい寝ていたんだ?)


『二、三分ほどです。大丈夫ですか?』


(ああ、もう大丈夫だ。だが、慣れないな、あの感覚は。ところで、うまくいったのか?)


『はい、お見事です。広大な屋敷がすっぽりと入るほどの亜空間が生成されました。呼び出すための数値記入と命名をお願いします』


(ああ、そうだったな。名前か、何にするかな……ビッグルーム、まんまだな……スペースジャンボ、宝くじかっ……ううん……スペーシアス、確か英語で広いって意味だよな。よし、〈スペーシアス〉にしよう。後は、ステータスボードの第二画面を開いて……)


 俺は設定を終えると、いよいよこの危険な装置を収納することにした。うまくいくかどうか心配だったが、〈ルーム〉と同じで、空間に黒い球が現れ、俺が装置に手を触れて収納と命じると、巨大な装置が一瞬のうちに消えてしまった。後に残ったのは、がらんとした空間と地面を埋め尽くした無数の骨だけだった。


 俺は、犠牲となった生き物たちの成仏を祈りながら、土魔法で地中深く骨を埋めた。


(さあ、もうこんな胸糞悪い場所からはさっさとおさらばしようぜ)


『そうですね。できるだけ早くこの土地から離れた方が良いでしょう』


 俺は急いで階段を駆け上がってホールの戻ると、そこに転がった十人の死体をいったん〈ルーム〉に収納して、地上へと出て行った。死体は円形の庭の中央に出して、火魔法で一気に焼いて灰にした。墓を作ってやる気も無かったので、そのまま放置した。


 身体強化を発動して、とりあえず西に向かって走り出した、なぜかって? 太陽を追って走るのは、青春映画の定番だろう? 似合わない? ほっとけっ!



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