第51話 ブラスタの街
読んでくださって、ありがとうございます。
第三章、始めます。
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『マスター、前方八十メートル先、大型のボアです』
「よっしゃ、二頭目の肉ゲットするぞ」
今日も今日とて、俺は森の中を走り回って、獲物を見つけては狩っている。
王都を目指してはいるが、まともな道をただ歩くなんてもったいない。そこら中に森があるのだから、有意義に利用しないとね。
(さて、〈ルーム〉にもだいぶ素材が溜まってきたから、そろそろどこかで売るかな。近くに村か街はあるか?)
『はい、この森を西に抜けた所に村があります』
西か……王都は北だよな、できれば王都に近い方が良いな。
(北にはないのか?)
『ありますが、約三十キロほど先ですね。ブラスタという街があります』
うんん……迷うな。身体強化をして走れば、休憩をはさんでも四十分あれば着くか……。よし、ブラスタの街まで行こう。
ということで、できるだけ人目につかないよう道に沿った草原や森を抜けて走ろう。
♢♢♢
ふう……約二十分間、走り続けたよ。草原も森も、けっこう障害物があって走るのは大変だった。街道の脇の木の根元に座って、一息休憩だ。
『おめでとうございます、マスター、〈隠密〉のスキルを獲得しました』
(おっ、新スキル獲得だ。隠密か、忍者みたいでかっこいいな)
『〈気配遮断〉と〈忍び足〉を同時に獲得したので、統合されたようですね』
(なるほど。これで、身体強化を使えば、ますます敵に接近しやすくなるな)
『はい。近接戦闘スキルはかなり充実してきましたが、本当はもっと魔法用のスキルを覚えてもらいたいところです』
(ああ、それな……なかなか大っぴらに使えないのがなあ。まあ、今度から狩りをするときはなるべく魔法を使うことにするよ)
ちなみに、今の俺のステータスは、こんな感じだ。
***
【名前】 トーマ Lv 29
【種族】 人族(転生)
【性別】 ♂
【年齢】 11
【体力】 506
【物理力】383
【魔力】 661
【知力】 835
【敏捷性】580
【器用さ】625
【運】 209
【ギフト】ナビゲーションシステム
【称号】 異世界異能者
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk10 跳躍Rnk8
〈攻撃系〉打撃Rnk9 刺突Rnk10 棒術Rnk8
火属性魔法Rnk3 風属性魔法Rnk3
水属性魔法Rnk2 土属性魔法Rnk2
無属性魔法Rnk5
〈防御系〉物理耐性Rnk7 精神耐性Rnk9
索敵Rnk9 回避Rnk6
〈その他〉鑑定Rnk9 調合Rnk6 テイムRnk1
隠密Rnk1
***
このステータスを、この世界の基準に照らし合わせてみると、体力や物理力がまだ弱いが、それでも、Aランク上位の冒険者に匹敵すると言っていいらしい。ちなみに、そうした冒険者の平均レベルは、恐らく50前後ということだ(ここまで、ナビ談)いかに俺のステータスの伸びが、異常か分かるというものだ。
♢♢♢
ブラスタの街に着いた。ここは、ラマータの街と同じ、ボイド侯爵領に属している。例の凡庸・強欲領主の領地だ。あまり長居せずに、用事を済ませたらさっさと出て行こう。
南門でギルドカードを提示し、街の中に入った。ここは、南のペイルトン辺境伯領と王都を結ぶ中継地であり、エプラ鉱山の鉱石と西のジョンストン伯爵領からの海産物も入って来る。商業が盛んな街である。
俺は早く用事を済ませるために、冒険者ギルドへ向かった。
それにしても人が多いな。それに、スリも多い。さっきから、何人も俺にぶつかっては、ポケットの中を探っているが、残念だね、ポケットに金はないよ。やっぱり、凡庸領主のせいで、治安は悪そうだな。
昼前だからか、冒険者ギルドのロビーにはまばらな数の冒険者しかいない。俺は、買取専用のカウンターへ向かった。
「すみません。素材の買い取りお願いします」
受付の赤い髪の女性は、少し驚いたように俺を見つめた後、事務的な笑顔を浮かべた。
「ようこそ、当ギルドへ。ギルドカードを見せていただけますか?」
俺はカウンターの上にギルドカードを置いた。
受け取った受付嬢は、魔道具にカードを差し込んで履歴をチェックし、今度は本当に驚いたように俺を見つめた。
「失礼しました。ギルドカードをお返しします。どうぞこちらへ素材をお出しください」
「ああ、ちょっと量が多いですが、いいですか?」
「あ、ええっと、それは大型の魔物とかですか?」
「はい。大型のボアが三頭、大角黒毛鹿が一頭、角ウサギが二十羽、あとは、魔石と薬草がそれなりにあります」
「わ、分かりました。では、ボアと鹿とウサギは、地下の解体場でお願いします。魔石と薬草はここで大丈夫です。まず、魔石と薬草をお願いします」
「分かりました」
俺は、水筒だけを入れたリュックを背負っていたが、それを下ろして、中に手を突っ込み、〈ルーム〉を中で発動して、魔石と薬草を取り出した。
「では、後でまとめて清算しますので、こちらは預からせてもらいます。解体場へご案内しますのでどうぞこちらへ」
俺は受付嬢の後について、地下にある解体場へ向かった。
「すみません。獲物は外に置いているので、荷車を貸していただけますか?」
「はい、分かりました。ドルバスさん、荷車をお願いします」
解体場の奥から、血だらけのエプロンを付けた筋肉マッチョのおっさんが出てきた。
「何だ、そんなに大物なのか? 荷車ならこいつを使え。がっかりさせるなよ」
髭面のおっさんはそう言うと、あちこちに血の跡が付いた荷車を俺に渡しながら、ギロリと睨みつけた。
「ああ、何とか入るかな。じゃあ、ちょっと借りていきますね」
俺は荷車を牽いて外に出て行った。やはり、収納魔法をむやみに見せるのは避けた方がいいからな。そこは幸い、石垣に囲まれていて、なだらかな上りスロープで大通りとつながったスペースだった。
俺は辺りに注意しながら、素早く〈ルーム〉を発動して、荷車にボアや鹿の死体を積み上げた。
「うおおっ、な、なんじゃこりゃ? おい、小僧、こいつは本当にお前が……」
「ああ、いやいや、他のパーティの人たちと一緒に狩った奴ですよ」
「お、おう、そうか……ちょっと上で待ってろ。すぐに査定を済ませる」
はいはい。ああ、面倒臭え。
というわけで、俺は再び一階のロビーに戻り、査定が済むまでラウンジの椅子に座って待っていた。
「おい、聞いたか、ローダス王国がタナトスの要塞の近くまで兵を進めて来たらしいぜ」
「ああ、そうらしいな。いざという時は、Cランク以上の冒険者にも召集がかけられるらしい」
「そいつはごめんだな。大金がもらえればいいけど、命がけで戦争に行く気はないね」
入口から、そんな話をしながら何人かの若い冒険者たちが入って来た。
へえ、そんなことになってるのか。まあ、昔からローダスとはいざこざが絶えなかったらしいからな。
「トーマ様、査定が終わりました」
「あ、はい」
俺は呼ばれてカウンターに向かった。
「こちらが、ビッグボア三頭とビッグホーンブラックディア一頭の分、合わせて六万二千ベル、そして魔石と薬草の分、合わせて一万七千ベルです。お確かめください」
受付嬢はそう言うと、そっと俺の耳元に顔を近づけて、小声でこう言った。
「本当は、あなた一人で倒したんでしょう? 知ってますよ。エプラの街で活躍したBランク冒険者の少年の話」
ああ、やっぱりあれか、通信魔道具ってやつで、ここにも連絡が入っていたのか。
「いいんです。疑われたり、騒がれたり、面倒臭いですから」
俺は苦笑しながらそう言うと、手を振ってギルドを去った。
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