第32話 ポピィの鍛錬と魔法の習得 2
南の森は危険度Cの探索地だ。ゴブリン、ランドウルフ、オークといった群れをつくる魔物が多いが、一匹一匹はさほど強くないので、鍛錬にはもってこいの場所である。
気配を消したポピィが先行し、魔力感知で魔物を探しながら進んでいく。
実戦を重ねるたびに、ポピィはどんどん強くなっていた。もうゴブリンやランドウルフなら三匹同時に相手しても楽に勝てる。まだ物理力が低いので、物理防御力が高いオークなどは苦戦するが、攻撃を受けることはほとんどなくなった。そして、物理防御が高い相手には、俺が魔法攻撃で補助すれば問題ない。
「よし、今日はこの辺りにしとくか。帰るぞ、ポピィ……ポピィ?」
俺たちは森のかなり奥の方まで来ていた。魔石や肉もかなり手に入ったし、そろそろ引き上げようかとポピィに声を掛けたが、返事がない。彼女は立ったままじっとある方向を見つめていた。
「どうした?」
「あっちの方角から、強い魔力が近づいてきます」
「何? 俺の索敵にはまだ掛かっていないが……」
(ナビ、どうだ?)
『はい、ポピィさんの言う通りです。この大きさは、たぶん……オーガです』
えっ? オーガだって? まずいぞ、それは。しかし、何でこの森にオーガが……。
「ポピィ、急いで森を出るぞ」
「は、はい」
俺たちは急いでもと来た道を引き返し始めた。
「っ! 今度は上の方から強い魔力がっ!」
「ああ、こいつは俺にも分かった。くそっ、速すぎる」
オーガと思われる魔物が来る方角から、さらに強い魔物が空からすごいスピードで近づいていた。
ゴアアアアッ! ギャオオオッ! ドゴオオオォォ~ン!!
森の奥から、空気を引き裂くような叫び声と直後の大地を震わせる振動音が、俺たちのもとに伝わって来た。
どうやら、オーガはよほど遠くの、俺の故郷ラトス村の西の森の奥辺りからここまで、空を飛ぶ何者かに追われて来たらしい。最初は複数いたのだろうが、少しずつ狩られて、ついに最後の一匹が、今狩られたに違いない。
(まさか、ドラゴンじゃないよな?)
『いいえ、そこまで大きな魔力ではありません。恐らく、ワイバーンではないかと』
ワ、ワイバーン! 異世界ものではお馴染みの、あのでかい翼竜か? み、見たい!
「……ちょっと見に行くか」
「ト、トーマ様?」
「ポピィ、俺はワイバーンを見に行く。一緒に行くか?」
ポピィは怯えた表情から、すぐに覚悟を決めた表情に変わりしっかりと頷いた。
「お、お供しますですっ」
俺たちは気配を消して、再び森の奥へと向かい始めた。
その場所は、近くに行かなくてもすぐにわかった。木々がなぎ倒され、森の中に空間が広がっていたのだ。その倒木の上にオーガの巨体が横たわり、その死体をまたいで、そいつはオーガの肉を食いちぎっていた。
体長十二、三メートル、全身緑色の固い鱗と皮膚で覆われている。前足と一体となったコウモリのような羽で死体をつかみ、鋭い牙の生えた細長い口で死体をついばんでいる。
かなり離れた木の陰からその様子を眺めながら、俺もポピィも小刻みに体を震わせていた。
(ああ、こいつはさすがに無理だな。今のところは……)
『そうですね。火力が足りていません。物理力を上げ、魔法の威力も上げる必要があります』
(そうだな……よし、引き上げるか)
俺はポピィに合図して、一緒にそっとその場から去って行った。
♢♢♢
それから二週間あまり、俺とポピィはひたすら鍛錬と実戦に励んだ。その結果、予定よりかなり速いペースでポピィはレベルを上げている。俺もレベルが二十を超え、今二十二だ。ただ、ここから先がなかなかレベルが上がりにくくなる。
***
【名前】 ポピィ Lv 16
【種族】 人間とノームのハーフ
【性別】 ♀
【年齢】 12
【体力】 245 【物理力】128
【魔力】 130 【知力】 198
【敏捷性】312 【器用さ】303
【運】 88
【ギフト】暗殺者
【称号】
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk5 跳躍Rnk5
〈攻撃系〉投擲Rnk6 刺突Rnk3 短剣術Rak3
〈防御系〉回避Rnk3
〈その他〉魔力察知Rnk5 隠蔽Rnk5 調理Rnk2
***
【名前】 トーマ Lv 22
【種族】 人族(転生)
【性別】 ♂
【年齢】 11
【体力】 386 【物理力】209
【魔力】 412 【知力】 455
【敏捷性】396 【器用さ】410
【運】 155
【ギフト】ナビゲーションシステム
【称号】 異世界異能者
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk8 跳躍Rnk7
〈攻撃系〉打撃Rnk6 刺突Rnk8 棒術Rnk6
火属性魔法初級 風属性魔法初級
水属性魔法初級 土属性魔法初級
無属性魔法初級
〈防御系〉物理耐性Rnk5 精神耐性Rnk7 索敵Rnk8
回避Rnk3
〈その他〉鑑定Rnk8 調合Rnk5 テイムRnk1
***
これが、現在のポピィと俺のステータスだ。ポピィは各スキルの数値が伸び、新たに〈刺突〉、〈短剣術〉、〈回避〉の三つのスキルを獲得した。いずれも暗殺者には有効なスキルだ。もう一つ〈調理〉も取得したが、これは宿屋のサーナさんから毎日手伝いで鍛えられたお陰だ。
俺も、各スキルの熟練度が上がって、攻撃魔法の初級と〈回避〉を取得した。あと一週間の内には、ポピィも目標のレベル二十に達するだろう。
(この街も、木漏れ日亭も居心地がいいから、ずっと居てもいいけど、やっぱり世界を見て回りたいからな……そろそろ旅に出ようか)
『若いときにしかできないですからね。帰りたくなったら帰ってくればいいですし……』
(いや、俺は年をとっても動ける限りは旅をするつもりだぞ)
『……それも楽しいかもしれませんね。どこまでもお供しますよ、マスター』
(ああ、俺も年を取ったらボケるかもしれん。その時はよろしくな)
『ああ、それは無理ですね。ボケたら私の言葉も理解できなくなるでしょうから』
(あ、それもそうか、あははは……)
「おはようございます、トーマ様。なんだか楽しそうですね」
「ああ、おはよう、ポピィ。あはは……さあ、今日も気合入れていくぞ」
「ふぁいっ」
ジャム付きのパンを口いっぱいに頬張りながら、満面の笑顔でポピィが頷いた。
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