第23話 俺は俺にできることをしたまでです

本日は二話投稿します。二話目は午後8時頃になります。


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《第三者視点》


 その日の昼過ぎ、街のとある酒場の片隅で、不機嫌そうに顔を突き合わせて酒を飲む三人の男たちの姿があった。

 そこへ、一人の男が酒を持って近づいて来て声を掛けた。

「よお、《ギガントロック》の面々、どうした? しけた顔して」


「ん? ああ、《不死鳥》のベンスか……ちょっとな、ダンジョンでしくじったんだ」

「ほお、お前らにしては珍しいな。中級の下層にでも挑戦したのか?」

「「「……」」」

 三人の男たちは言いたくない様子で、それには答えずジョッキをあおった。


「まあまあ、失敗はあるさ、そう気にすんな。おーい、こっちにエールを四人分だ」

 ベンスはそう言うと、気前よく三人に酒を奢った。


「……すまねえな。貯めた金を荷物と一緒に置いてきてしまってよ……」

「お前のせいだろ、ブラッド。あの中には俺の金も入っていたんだ」

「ああ、俺の分もだ。ブラッド、お前があの奴隷を置き去りにするから……」

「な、てめえら、俺のせいにするのか? 自分たちが我先に逃げ出しただろうがっ」

 三人は、再び責任のなすり合いを始めて喚き合った。


「まあまあまあ、落ち着きなって……詳しい話を聞かせろよ。何か力になれるかもしれねえぜ」

 ベンスの言葉に、三人はお互いを睨みながら、ぽつりぽつりとダンジョンで先ほど起こったことを話し始めるのだった。



♢♢♢


「とりあえず、ギルドに行って、受付で荷物を預かってないか、聞いてみようぜ。親切な奴がダンジョンから持って来てくれたかもしれないからな」

 ベンスの言葉に、三人も頷いて一緒に冒険者ギルドへ向かった。


 昼過ぎなので、ギルドの中は人が少なかったが、なぜかピリピリした空気が漂っていた。

《ギガントロック》の三人は、何か違和感を感じながらもそのまま受付に向かった。


「よお、サリア、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

 顔なじみの受付嬢に、いつもの調子で声を掛けると、受付嬢は無表情で答えた。だが、それはいつものことだったので、特に気にすることはなかった。

「はい、何か御用でしょうか?」


「ああ、実はダンジョンの中に荷物を忘れてきてしまってな。もしかして、誰か届けてくれたりしてないかと思って……」


「荷物ですか? 確かあなた方は、奴隷の女の子に荷物を背負わせていましたよね。もしかして、その子もダンジョンに置き去りにしてきたのですか?」


「あ、い、いや、あいつは、今、他の所にいるんだ……大事な奴隷を置き去りになんかしねえさ、へへ、へ……」


「あのう、荷物ってこれのことですか?」

 突然、背後から聞こえてきた声に三人は驚いて振り返った。そこには一人の少年が立っていて、彼の横に大きなリュックサックが置かれていた。


「お、おお、それだ。小僧、どうしてそれを……」

「ダンジョンの二層で見つけました。そばにはバラバラになった死体(ウソだけど)があったので、魔物に殺された人の遺品だと思って持って来ました」

「そ、そうか、すまねえな。じゃあ、返してもらうぜ」

 バルトがそう言ってリュックに近づこうとすると、少年がさっと立ちはだかって言った。

「これが、あなたの物だという証拠はありますか?」


「しょ、証拠だと? ふざけるなっ、そいつは俺たちの全財産なんだ、なあ、お前ら?」

「おお、そうだとも。このガキ、俺たちの金を盗むつもりだな?」

「クソガキがっ、大人を舐めるんじゃねえ」


「いいえ、別にこの荷物が欲しいわけではありません。事実をあなた方の口から言って欲しいだけです」

「だから、それは俺たちがダンジョンに置き忘れて……」

「俺は、あの場で見ていたんですよ。あなたは、俺を見ましたよね? 忘れましたか?」


 少年の言葉に、三人は愕然となり、一人の男はあっと叫んで青ざめた。


「あなたたちは、五匹のオークが襲ってきたとき、この荷物を背負った奴隷の女の子をオークたちの方へ足で蹴って、自分たちだけで逃げ出しました」


 その時、初めて《ギガントロック》の三人は、周囲の鋭く冷たい視線に気づいた。さっきここに入った時から感じた違和感の正体を知った。同時に、自分たちが、今、公開裁判のまな板の上に立たされていることを悟ったのだった。


「ああ、そうだよ、だからどうだって言うんだ? 自分の金で買った奴隷をどうしようが、俺の勝手だろうがっ!」

 ブラッドは開き直って叫んだ。


「奴隷法、雇い主の責務に関する規定、第一条。雇い主は、犯罪奴隷以外の奴隷に対して、その生命を守るための責任を負い、そのために最善の努力をしなければならない。

 当然、知っていますよね?」


「くっ……はっ、奴隷を置き去りにしたっていう、しょ、証拠はあるのかよ」

「ええっ?」

 少年は、驚きのあまり二の句が継げなかった。

 ブラッドは、愚かにも勝ったとばかりにニヤリと口元をゆがめていた。


「そこまでだっ。見苦しい言い逃れは、いい加減耳が腐るわっ!」


 俺が呆れて二の句を継げないでいる所へ、受付の奥から初老の男性の声が響いた。現れたのは、このラマータのギルドマスター、トーラス・ラングと奴隷の少女ポピィ、そして、ついさっきまでブラッドたちと一緒にいたBランクパーティ《黄金の不死鳥》のリーダー、ベンスだった。


「あああっ、お、お前、どうして、って……あ、いや……」

 《ギガントロック》の三人は、ポピィを見て、まるで幽霊に出会ったかのように驚き、へなへなと床に座り込んだ。


「話は、この子とベンスからすべて聞いた。お前たちが正直に自分の罪を告白して、この子に謝罪するなら、労働奴隷に減刑してもらうよう頼んでも良かったが、もうそれも無しだ。

 おい、入ってくれ」

 ギルマスの合図の声と共に、外で待機していた数人の衛兵たちが入って来た。


 三人はがっくりとうなだれたまま衛兵たちにロープで縛られていったが、その途中、ブラッドは憎しみのこもった目をベンスに向けた。

「てめえ、騙しやがったな、許さねえ……」


「騙す? 人聞きの悪いこと言うなよ。嘘で皆を騙そうとしたのはお前の方だろうが?

俺はそんなゴミクズを掃除する手伝いをしただけさ」

 ベンスの言葉に歯ぎしりをしながら、バルトたちは衛兵に連行されてギルドから去って行った。



♢♢♢


《トーマ視点》


 シュタインの店を出た後、俺は衛兵に詰所へ行ってポピィについての一部始終を報告し、犯人逮捕への協力を願い出た。幸い隊長は良い人で、真剣に俺の話を聞いてくれた上に、裏付けを取るために、ある冒険者を雇い、犯人に接触させることまでやってくれた。もちろん、その冒険者を雇う金は、俺がもらう予定の報償金から出すことを申し出た。借金はしたくないからね。そして、隊長と筋書きを考え、冒険者ギルドへ協力をお願いに行った、というわけである。


 ブラッドたちが衛兵に連行されて行った後、俺はベンスとともにギルマスの部屋の呼ばれて、報告書に書くために再度詳しい事情聴取を受け、同時にお礼とわずかだが謝礼金をもらった。やっと解放されたのは、一時間後だった。


(はああぁ、疲れたぁ……何で俺、こんな面倒くさいことばっかりやってるんだろう)


『お疲れ様です、マスター。やはり、異世界異能人は伊達ではありませんね。神様からの厄介なクエストを一手に引き受ける異能の天才。相棒として誇らしいです』


(いらんっ! そんな異能、いらんわっ! はあぁ……しかし、こいつ、どうしたらいいんだろう)


 俺はギルドのラウンジで、ジェンスさんたちの帰りを待ちながら、ポピィと一緒にジュースを飲んでいた。

 俺の横に座って、満面の笑顔でジュースを飲んでいるポピィを見ながら、何度目かのため息を吐いた。


「おう、トーマ、早かったんだな。俺たちも、四層までしか行けなくてさ、あきらめて早く帰って来たんだ……ん? 何かすげえ疲れてるな?」


 ジェンスさんたちも、予定より一時間余り早く引き上げてきたらしい。俺は、これまでのことを大まかに彼らに話した。


「……そんなことがあったんだ。大変だったわね、トーマ君」

「はい、疲れました……」

「あはは……そりゃあ疲れるだろうな。それだけ徹底して準備すりゃあな。で、この子がそうなのか?」

 ジェンスは、トーマの横でキャリーとシュナに囲まれて撫で回されている少女を見ながら尋ねた。

「はい。ポピィという名で、人間とノームのハーフだそうです。年は……分かりません」

「そうか……で、どうするんだ、この子?」

「それなんですが……一応、働き口のあてがありますので、パルトスの街に連れて帰ります」


 とは言ったものの、俺の顔がそんなに広いはずもない。働き口とはつまり、そう、「木漏れ日亭」でございます。



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