第5話 初めてのオーク討伐

(謝罪? どういうことだ?)


『まあ、その辺りの事情はおいおいご説明いたします。今は、とりあえず〝あれ〟を何とかしましょう』


(む……あとでちゃんと説明してもらうからな)

 俺はもやもやした気持ちを抱えながら、今、水を飲み終えて村の方角へ移動を始めたオークたちの方へ近づいていった。


 ッ! プギャッ……、プガギャ、プギャ、プギャ……

 突然、森の方から現れた人間の子供に、オークたちは驚いて、何やらプギャプギャと話していたが、やがていやらしい笑みを浮かべながらゆっくりと近づいて来た。


「ああ、お前ら、美味い餌が向こうからやってきた、とか思っているだろう?」

 俺は愛用の木の杭を肩に、近づいてくるオークたちに言った。

「残念だったな。獲物はお前らのほうだっ!」

 俺は、そう言うなり、一気にダッシュして一番前にいた一匹の喉に、木の杭を突き刺した。


 ブガッ!! グゥゥゥ……


 弱小人間族の子供と侮っていたオークたちは、全く油断しきっていた。俺は最初の一匹を倒すと、そのまま走り抜けて、村と反対の方向へ移動した。

 あっけなく仲間を倒されて呆然としていた残りの三匹のオークたちは、ようやく我に返ると、背後でニヤニヤしている俺を振り返った。


「ほらほら、どうした? ここまで来てみろ」

 俺は手で来い来いと煽ってから、わざと逃げにくい上りの斜面の方へゆっくりと移動した。

 オークたちは興奮した声で喚きながら、地響きを立てて俺に迫って来た。


「おっと……あらよっと……そりゃっ!」

 アジリティーの差というやつは、まったくありがたいものだ。戦いにおいて、最も影響が大きいのは〈敏捷性〉、つまりアジリティーの差だと思う。少なくとも、回避力が高ければ負けることはない。逃げればいいのだから。


 俺とオークたちのアジリティーの差は約二倍だ。彼らの動きが鈍く、とても分かりやすく見える。

 俺は斜面を利用して、一気に近づけないオークたちに確実にダメージを与えていった。特に柔らかい部分を狙って突いていく。俺の武器は木の棒なので、頑丈なオークを叩くと折れる可能性が高い。だから、斧を振り上げた奴の脇や首、目などを徹底して突く。


 やがて、一匹、また一匹と戦意を喪失して地面にうずくまる。

 プギャーアアアッ!

 ついに最後の一匹が、顎の下を突き刺されて倒れ込んだ。


 俺は、倒れてもがくオークに、一匹ずつ確実にとどめを刺していった。


 残酷? ああ、そうだな、残酷だ。だが、その言葉は、ぬるま湯のような世界に生きているからこそ言える言葉だ。俺が転生したこの世界は、生きるか死ぬかの厳しい世界だ。生き残りたいから、容赦なく殺す。そうしなければ、自分が死ぬだけだ。俺はこの世界で天寿を全うしたいから、必要ならばためらいなく殺す、それだけだ。


『初めてのオーク討伐、お疲れ様でした。そしておめでとうございます』


(ああ、ありがとう。さて、後始末をするか)


 四匹のオークから魔石を抜き取ると、死体を一か所にまとめておく。後で自警団に知らせて、処理してもらう予定だ。

その後、俺は湖の周囲の結界石を見に行った。


『やはり、魔力が枯渇していますね。新しい魔石に取り換えるか、あるいは……』


(だけど、新しい石に換えたら、また魔法を掛け直さないといけないんだろう? 魔法使いを雇うと結構お金がかかるって聞いたぞ)


『はい。それなら、もう一つの方法を試しましょう』


(もう一つの方法?)


『はい。マスターが魔石に魔力を注入すれば良いのです』


(はああ? そ、そんなこと……『できます』)


 俺は半信半疑ながら、ナビの指示に従って結界石に魔力を注ぎ込む実験を始めた。


『……はい、そうです。今、手に感じている抵抗感が、魔石に刻まれた魔法陣の存在を示すものです。その抵抗感がなくなるまで、ご自分の魔力を少しずつ流してなじませてください』


(こんな感じか?……ん、ああ、抵抗が無くなったぞ)


『おお、早いですね。さすがマスターです。それでは、後は満タンになるまで魔力を注ぐだけです。満タンになったら、また抵抗感が現れますので分かるはずです』


(……おお、なるほど。魔力ってやつが何となく分かってきたぞ)

 こうして俺は、四か所の魔石に魔力を流し込んでいった。さすがに最後は魔力切れになりかかって、頭がくらくらしたが、しばらく座り込んで休んでいると、どうにか立って歩けるようになった。


『おめでとうございます、マスター。レベルアップです。しかも2UPですよ』


(よっしゃ。どれどれ……)


***

【名前】 トーマ      Lv 13

【種族】 人族(転生)   【体力】 216

【性別】 ♂        【物理力】132

【年齢】 10        【魔力】 185

【ギフト】ナビゲーション  【知力】 258

     システム    【敏捷性】195

【称号】 異世界異能者   【器用さ】250

              【運】 94

【スキル】            

〈強化系〉身体強化Rnk3 跳躍Rnk3

〈攻撃系〉打撃Rnk1 刺突Rnk3

〈防御系〉物理耐性Rnk1 精神耐性Rnk3 索敵Rnk3

〈その他〉鑑定Rnk4 調合Rnk1



 おお、ステータスがすべて三十ずつ増えている。スキルも、跳躍と刺突と精神耐性が一つずつランクアップだ。このレベルでこの数値は、やはり異常である。ステータスだけなら、レベル30越えの兵士に匹敵するだろう。しかも、兵士は魔力や知力の伸びは小さいから、魔法を習得すれば、俺はそこらへんの兵士や冒険者には楽に勝てるはずだ。


(いよいよ、旅に出る時が来たかな……)

 村への道を歩きながら、俺は決意を新たにするのだった。

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